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第14話 罪

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 哀しそうな顔をするシシュリカに、レウリオの心は痛んだけれど決心は変わっていなかった。
 独房に入れられたメリヌが話したユーベルの計画――……レウリオは最初、彼女が少しでも罪を軽くしたいが為に嘘を吐いたのだと思っていた。
 流石のユーベルもそんな事まではしないだろうと、そう――思ったからだ。
 けれど、エウリカの部屋につけられたドウガを撮る装置――それが映したのは予想以上に凶悪な計画だった。
 レウリオは、ユーベルもエウリカも地獄に落ちれば良いと思っていたけれど、当初の予定ではあのようなベットシーンを公開する予定は無かった。
 別の日に、軽く口付し合うような場面シーンも取れていたのだ。それを見せて、自白を迫り――それでも白状しないのならば、あの決定的なエイゾウがある事を告げる予定でいた。
 けれど、メリヌの密告により予定よりも長くドウガの記録を撮った所、ソレは撮れてしまったのだ……その時にレウリオは、ユーベルとエウリカの完全な破滅を望む事に決めた。

 ――病気になった事は憐れだと思うが――シシュリカにした事、しようとした事を考えれば自業自得だとしか思えない……。

 ユーベルの計画が分かった時、レウリオは悩んだ。悩んで結局、シシュリカにその計画の存在を話した。シシュリカはとても傷ついた顔をしたけれど「これで、覚悟が出来ましたわ……」そう言って哀しそうに笑った。
 けれど、聞いただけの事と実際に映像で見る事はインパクトが違う。レウリオはそこを心配していた……レウリオはシシュリカに今度こそ退室してはどうかと聞いたけれど、シシュリカは無言で首を振る――。
 レウリオは、シシュリカの意志の固さに諦めて腹を括った。
 
 「実は、まだエイゾウがあるんだ――。あぁ、こっちは濡れ場は無いから安心して欲しい」

 レウリオはそう言って黒い箱を手に持ったまま白いスクリーンに向けた。
 虚ろな顔をしたエウリカと、魂が抜けたようになっているユーベルが緩慢にスクリーンの方を見た――。
 映されたのはエウリカの部屋の寝椅子―……。

 『シシュリカは確かに可愛らしいけれどね。あの子は子供だ。エウリカ――愛しい人――君の方が千倍も美しい。だからそんな顔をしないでおくれ――レーン子爵家の援助を得る為には仕方が無いんだ』
 『分かって――いますわ……でも、哀しいの――私……貴方がシシュリカのモノになってしまうのが怖いのよ……きっと貴方は私の事なんて忘れてしまうわ……』
 『あぁ、エウリカ――決してそんな事は無いさ。結婚するのはシシュリカだけれど、愛しているのは君だけだ』
 『ユーベルっ――……あぁ、どうして貴方の婚約者は私じゃ無いのかしら……』

 哀しげに言うエウリカに、苦悶の表情を浮かべたユーベルが寝椅子の上で寄り添っていた。
 二人の姿はとても絵になっている。まるで悲恋に身を焦がす物語を劇でみているように……。特に、伏せ目がちなエウリカの儚げな様子が恋人達の哀しみを良く表していた。

 『――……そうだね――……エウリカ――本当にそう思うよ……。ねぇ――思うんだけど、婚約者を変えられないか話してみたらどうだろうか??』
 『ムリなの!――私もいつか誰かの家に嫁ぐのかしらって言ったら、お父様とお母様は、私は嫁がせられるような状況じゃ無いって……』
 『そんな!……何故だ?レーン子爵夫妻が君をとても可愛がっている事は知っているけれど、それにしたって……――いや、それなら――前から思っていたのだけれど、シシュリカを婚約者から外せないだろうか……』

 涙を浮かべてユーベルに縋りレーン子爵夫妻の言葉を告げるエウリカ――……ユーベルは唇を震わせながら大きなショックを表し、それから、何かを思いついたようにエウリカに向き直った。

 『どう言う事……?』
 『シシュリカが私に嫁ぐ事が出来ない状況をつくれば、必然的にエウリカ――君が私の婚約者にならざるおえないんじゃないか?』
 『――っ!!』
 『ね?そうだろう――……人を雇って――襲わせるとか……』
 『いけないわ!ユーベル……そんな事――……』
 『――……』

 名案だろう?そう言って自信満々に話すユーベルに、哀しそうにその提案を拒絶するエウリカ――……流石のエウリカも妹を襲わせるような非道な事は許容できなかったのだろうか……?
 ――……いいや……この映像を受け入れられずに床に蹲ってしまったユーベルと、呆然と座りこむエウリカ以外の全員が、ユーベルから見えない所で哀しい顔を一変させ嬉しそうに嗤うエウリカの顔を見ていた。
 そんな映像をシシュリカは白い血の気の引いた顔で見ている……。簡単に説明されてはいたものの、これを見るまで実感がまったく無かった事を自覚したのだ。
 ユーベルが考えた事も怖ろしいが、表面上、否定したとしてもシシュリカを陥れる計画を聞いたエウリカのあの嬉しそうな笑顔だ。悪意しか無い、醜悪としか言いようのない笑み――。
 目を伏せて震えるシシュリカの背をそっと支えるようにレウリオが抱いた。

 場面が変わる――。
 
 『それで?そう言う事に長けた者たちを知ってるって?』

 スクリーンにはユーベルの顔が映る。ユーベルは、誰かに話しかけているようだったが姿は見えない。
 これは、ブローチ型に見えるように細工された水晶を身に付けた侍女が、ユーベルの前にいるから姿が見えないのだった――レウリオに協力している侍女である。
 レウリオはユーベルが荒くれ者を雇う動きを見せた為に、シシュリカの安全を考え協力者である侍女に『荒事に向いた者達に心当たりがある――』と言わせて接触させたのだった。

 『はい。そうですわ。エウリカお嬢様の幸せのためですもの……ユーベル様がお望みの、荒事を任せられる男達には覚えがあります――ただ……かなり乱暴な者たちでして……』

 『良いんじゃないか?『乱暴されたかもしれない』状況よりも、乱暴されたほうが破棄するに足る理由になるだろうし。いっそ、殺してくれても良いんだが……それだと、優しいエウリカが悲しむだろうからなぁ』

 映像の中のユーベルは何処か楽しそうにそう話していた。
 それを、見たシシュリカが蒼白な顔のまま唇を震わせた――そして、足から崩れ落ちそうになる――……シシュリカの脳裏には「そこまで嫌われていたの――??」と言う疑問がグルグルと回っていた。
 レウリオに支えられながら、シシュリカはソファへと座った。ガクガクと震えてしまうのは、このような悪意が自分に向けられた事への恐怖からだろうか……。

 『そう、ですか――……分かりました――では、後日ご依頼の男達と繋ぎをつけます』

 『あぁ、頼んだぞ?』

 侍女の口調には、まぎれも無い嫌悪が滲んでいたけれど、映像の中のユーベルは気が付かなかったようだった。これで、懸念事項が晴れると言わんばかりの清々しい様子が、シシュリカにはとても気持ちが悪く感じられた……。
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