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第12話 証拠
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レウリオの合図に、執事長が礼を取ると部屋の外へと何か合図をした。侍女達に運び込まれて来た物は、大きな白い布が張られたスクリーンだった。
レウリオとシシュリカ以外の者達は、これが何だか分からず当惑していた。
それから、執事長が持ち込んだのは、黒い箱。レウリオは、侍女から渡された小さな水晶を受け取ると、黒い箱の蓋を開け、水晶を台座に嵌めると蓋を閉じ、テーブルの上、スクリーンに向けて黒い箱を置いた。
侍女達が、部屋のカーテンを閉めて行く。薄暗くなっていく部屋にシシュリカは怯えたように身震いした。エウリカとユーベルは落ち着かないように周囲を見回している。
執事長や、侍女達が一礼をした後部屋から下がった――。
「シシュリカ……」
「大丈夫ですわ……お兄様……」
レウリオは、事前にシシュリカに証拠の存在とどういった事を『見る』のかと言う事を話していた。そして、シシュリカはレウリオが証拠を出す時は、別室で控えていたらどうかと提案されていたのだった。
けれど、シシュリカはどんなに酷い事を見る事になっても、エウリカとユーベルから逃げたく無い――そう言ってレウリオからの提案を断っていたのだ。
シシュリカの意志の変わらない様子に、レウリオは大きな溜息を吐いた後――この場の全員を見渡した。
「これは、隣国の『ドウガ』と呼ばれる技術です。既にこの国でもその実用性が認められ、一部ではありますが証拠として認められている技術でもあります。さて――、かなりショッキングな証拠になりますので……女性は退出をされた方が良いと思うのですが……?」
「――シシュリカは残るのでしょう?私も残ります」
レーン子爵夫人はそう言って、心配そうにシシュリカを見た。
その言葉に、レウリオは再び溜息を吐いた後、エウリカに視線を向ける――。
エウリカは迷ったけれど、どんな証拠なのかを確認しなければ対策の取りようが無いと考えて「私も残るわ」と小さく呟いた。
レウリオは、蔑むようにエウリカを見た後――黒い箱に手を翳した。
黒い箱から光の帯が伸びた――そして白いスクリーンにエウリカの部屋が映る――。
部屋に満ちるのは沈黙――ラットウェイ子爵だけが、その部屋が何処か分かりかねているようだった。それから、ドアが開く音がして男女が縺れながら入って来た。
二人は口付を交わしながら、ベットへとなだれ込むようにして倒れ込む。レーン子爵夫人が、引き攣ったような声を上げて子爵に縋りついた。肩が震えている――余程のショックを受けたらしい。
「何よこれ、何よこれ何よこれ!!」
エウリカが、そう叫びながら黒い箱を床へと投げ捨てた。
箱は絨毯の上で跳ねた後、映像を天井へと映し出す。蔦の絵が描かれた天井に、歪みながらも状況は進んで行った。踏み壊そうとするエウリカをレーン子爵が押さえる。
ユーベルは口を開けたまま硬直し、ラットウェイ子爵は頭を抱えた。
そんな状況で、エウリカとユーベルが口付けしながら、笑いあいドレスを肌蹴させようとした所でレウリオは映像を止める――。
「さて、お前達――不貞行為を認める気になったか?認めないのなら、この後の情事も流してやるぞ?」
「ふざけないで!!よくもこんな酷い事出来るわね!!」
「酷い事――?お前たちのした事こそ酷い事だろう??お前達が、こんな事をしてなけりゃこんなエイゾウは映らなかったんだからな。自業自得じゃないか」
エウリカは、荒い呼吸をしながらレウリオを引っ掻こうとでもするように暴れた。
その形相は、聖女と呼ばれるには程遠いもので歯茎を剥き出しにした姿は、カランの山に出ると言う魔物のようであった。レウリオは、そんなエウリカの様子を冷たい目で見ながら左手で箱を拾った。
「――心根が反映された醜い顔だ――……」
そう呟くと、白い顔をしたシシュリカの震える手を右手で優しく包んだ。
「大丈夫か?」
レウリオの言葉にコクリと頷くシシュリカ――。
それを見たエウリカが呻くような声を上げて蹲った。エウリカにとってレウリオは特別だった。自分が唯一手に入れられなかった初恋の男性――けれどそれなら、レウリオに一途であれば良かったのだ。そうすれば、レウリオはいつかエウリカを受け入れたかもしれない。
けれど、エウリカはその性情から多くの男性に崇拝される事を好んだ。自分に恋をする男達の視線こそを欲した。
今回ユーベルを寝取ったのは、気が付かないバカなシシュリカを影で笑う為であり、自分の崇拝者を増やす為でもあった。
レーン家から既に支払われている援助金を使って、ユーベルがエウリカにプレゼントを贈ってくれるのも楽しかった。シシュリカよりも素敵なプレゼントをくれるユーベルは、エウリカの自尊心を大層満足させてくれたから……。
しかもエウリカは、シシュリカとユーベルが結婚した後も関係を続けるつもりでいた。そして、いずれレウリオが家に帰って来たら今度こそ籠絡してその妻の座におさまるつもりでもいたのだ。
今回の件も、優しい両親とレウリオならば、今は怒っていても最後には許してくれるだろうと――エウリカは何処かでタカをくくっていたのだと言える。
けれど、レウリオの唇から零れた言葉――その中には拭いきれないであろう嫌悪が滲んでいて――エウリカは、自分の立場の悪さをやっと自覚したらしい。
――どうしよう……
エウリカは、そう思いながら爪を噛んだ。
彼女は気が付いていなかったが、エウリカは今もレウリオが好きであった。いや、寧ろ手に入らなかった獲物であるからこそ、愛していたと言える。
崩れ落ちる位にはショックであったにも関わらず、冷静な部分のエウリカは目まぐるしくどうすればこの状況をマシに出来るかと考えていた。
「それで、認めるのか――?」
レウリオは茫然とするユーベルに言葉をかけた。
ビクリとしたユーベルは「た、た確かに――けど、これは戯言と言うか……」と、しどろもどろになりながら何やら言い始めた。証拠を見せられても煮え切らないその様子に、シシュリカが眉をひそめた。
そんな中、おもむろに立ちあがったラットウェイ子爵が、ユーベルの首元を掴んで立たせる――そしてその頬を拳で何度も殴った――憤怒――その言葉が似合う形相で……。
重たい拳の音と、助けを求めるユーベルの声が室内に虚しく響いた――。
____________________________________________________
誤字修正(2021.03.31)
ユージン→ユーベル
名前の間違いを修正しました。
書きはじめの頃、彼の名前はユージンでした。どうしても脳裏にアニメ化された某小説のユージンさんが浮かんできてしまい――その名前を断念した経緯が……確認したのに残っていたようです……orz
誤字報告、ありがとうございました!
レウリオとシシュリカ以外の者達は、これが何だか分からず当惑していた。
それから、執事長が持ち込んだのは、黒い箱。レウリオは、侍女から渡された小さな水晶を受け取ると、黒い箱の蓋を開け、水晶を台座に嵌めると蓋を閉じ、テーブルの上、スクリーンに向けて黒い箱を置いた。
侍女達が、部屋のカーテンを閉めて行く。薄暗くなっていく部屋にシシュリカは怯えたように身震いした。エウリカとユーベルは落ち着かないように周囲を見回している。
執事長や、侍女達が一礼をした後部屋から下がった――。
「シシュリカ……」
「大丈夫ですわ……お兄様……」
レウリオは、事前にシシュリカに証拠の存在とどういった事を『見る』のかと言う事を話していた。そして、シシュリカはレウリオが証拠を出す時は、別室で控えていたらどうかと提案されていたのだった。
けれど、シシュリカはどんなに酷い事を見る事になっても、エウリカとユーベルから逃げたく無い――そう言ってレウリオからの提案を断っていたのだ。
シシュリカの意志の変わらない様子に、レウリオは大きな溜息を吐いた後――この場の全員を見渡した。
「これは、隣国の『ドウガ』と呼ばれる技術です。既にこの国でもその実用性が認められ、一部ではありますが証拠として認められている技術でもあります。さて――、かなりショッキングな証拠になりますので……女性は退出をされた方が良いと思うのですが……?」
「――シシュリカは残るのでしょう?私も残ります」
レーン子爵夫人はそう言って、心配そうにシシュリカを見た。
その言葉に、レウリオは再び溜息を吐いた後、エウリカに視線を向ける――。
エウリカは迷ったけれど、どんな証拠なのかを確認しなければ対策の取りようが無いと考えて「私も残るわ」と小さく呟いた。
レウリオは、蔑むようにエウリカを見た後――黒い箱に手を翳した。
黒い箱から光の帯が伸びた――そして白いスクリーンにエウリカの部屋が映る――。
部屋に満ちるのは沈黙――ラットウェイ子爵だけが、その部屋が何処か分かりかねているようだった。それから、ドアが開く音がして男女が縺れながら入って来た。
二人は口付を交わしながら、ベットへとなだれ込むようにして倒れ込む。レーン子爵夫人が、引き攣ったような声を上げて子爵に縋りついた。肩が震えている――余程のショックを受けたらしい。
「何よこれ、何よこれ何よこれ!!」
エウリカが、そう叫びながら黒い箱を床へと投げ捨てた。
箱は絨毯の上で跳ねた後、映像を天井へと映し出す。蔦の絵が描かれた天井に、歪みながらも状況は進んで行った。踏み壊そうとするエウリカをレーン子爵が押さえる。
ユーベルは口を開けたまま硬直し、ラットウェイ子爵は頭を抱えた。
そんな状況で、エウリカとユーベルが口付けしながら、笑いあいドレスを肌蹴させようとした所でレウリオは映像を止める――。
「さて、お前達――不貞行為を認める気になったか?認めないのなら、この後の情事も流してやるぞ?」
「ふざけないで!!よくもこんな酷い事出来るわね!!」
「酷い事――?お前たちのした事こそ酷い事だろう??お前達が、こんな事をしてなけりゃこんなエイゾウは映らなかったんだからな。自業自得じゃないか」
エウリカは、荒い呼吸をしながらレウリオを引っ掻こうとでもするように暴れた。
その形相は、聖女と呼ばれるには程遠いもので歯茎を剥き出しにした姿は、カランの山に出ると言う魔物のようであった。レウリオは、そんなエウリカの様子を冷たい目で見ながら左手で箱を拾った。
「――心根が反映された醜い顔だ――……」
そう呟くと、白い顔をしたシシュリカの震える手を右手で優しく包んだ。
「大丈夫か?」
レウリオの言葉にコクリと頷くシシュリカ――。
それを見たエウリカが呻くような声を上げて蹲った。エウリカにとってレウリオは特別だった。自分が唯一手に入れられなかった初恋の男性――けれどそれなら、レウリオに一途であれば良かったのだ。そうすれば、レウリオはいつかエウリカを受け入れたかもしれない。
けれど、エウリカはその性情から多くの男性に崇拝される事を好んだ。自分に恋をする男達の視線こそを欲した。
今回ユーベルを寝取ったのは、気が付かないバカなシシュリカを影で笑う為であり、自分の崇拝者を増やす為でもあった。
レーン家から既に支払われている援助金を使って、ユーベルがエウリカにプレゼントを贈ってくれるのも楽しかった。シシュリカよりも素敵なプレゼントをくれるユーベルは、エウリカの自尊心を大層満足させてくれたから……。
しかもエウリカは、シシュリカとユーベルが結婚した後も関係を続けるつもりでいた。そして、いずれレウリオが家に帰って来たら今度こそ籠絡してその妻の座におさまるつもりでもいたのだ。
今回の件も、優しい両親とレウリオならば、今は怒っていても最後には許してくれるだろうと――エウリカは何処かでタカをくくっていたのだと言える。
けれど、レウリオの唇から零れた言葉――その中には拭いきれないであろう嫌悪が滲んでいて――エウリカは、自分の立場の悪さをやっと自覚したらしい。
――どうしよう……
エウリカは、そう思いながら爪を噛んだ。
彼女は気が付いていなかったが、エウリカは今もレウリオが好きであった。いや、寧ろ手に入らなかった獲物であるからこそ、愛していたと言える。
崩れ落ちる位にはショックであったにも関わらず、冷静な部分のエウリカは目まぐるしくどうすればこの状況をマシに出来るかと考えていた。
「それで、認めるのか――?」
レウリオは茫然とするユーベルに言葉をかけた。
ビクリとしたユーベルは「た、た確かに――けど、これは戯言と言うか……」と、しどろもどろになりながら何やら言い始めた。証拠を見せられても煮え切らないその様子に、シシュリカが眉をひそめた。
そんな中、おもむろに立ちあがったラットウェイ子爵が、ユーベルの首元を掴んで立たせる――そしてその頬を拳で何度も殴った――憤怒――その言葉が似合う形相で……。
重たい拳の音と、助けを求めるユーベルの声が室内に虚しく響いた――。
____________________________________________________
誤字修正(2021.03.31)
ユージン→ユーベル
名前の間違いを修正しました。
書きはじめの頃、彼の名前はユージンでした。どうしても脳裏にアニメ化された某小説のユージンさんが浮かんできてしまい――その名前を断念した経緯が……確認したのに残っていたようです……orz
誤字報告、ありがとうございました!
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