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第7話 暴露

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 「お姉さま、お久しぶりですわね……」

 二人きりで話したいからと侍女を部屋から下げて、シシュリカはエウリカに対峙していた。
 様々な心労の所為か、青褪めてやつれた顔のシシュリカに、エウリカは聖母のような微笑みを浮かべて「シシュリカが来てくれて嬉しいわ」と、そう言った。
 シシュリカは唇を噛んで、目を逸らす。
 あの憎しみの籠った目を見た後で、この笑顔を信じたり出来無かったからだ。

 ――しっかりするのよ!シシュリカ!!

 エウリカに対する怯えのような感情――レウリオは、シシュリカが直接エウリカと話したいと言った時に反対していたが、シシュリカが無理を言って二人で話したいと告げて、この場に来ていた。
 『大丈夫だから――』そう言って説得したと言うのに、怯えていたのでは話にならない――そう考えてシシュリカはギュッと目を瞑った後――エウリカと真っ正面から顔を合わせた。

 「本当に嬉しいですか?お姉さま――……私が、池に落ちた事を誰にも言わなかったのに・・・・・・・・・・・?」

 シシュリカのその言葉に、一瞬エウリカの顔が強張った。
 そう、エウリカはシシュリカが池に落ちた時、誰にも助けを求めては居なかった。当人はエウリカにあの一瞬で姿を見られたとは思っていない……。あの嗤った顔を見られたとは――。

 「何――の事かしら?――もしかして、シシュリカ、池に落ちたの?あぁ!そうなのね??だから、ここ数日顔を見せてくれなかったの???――身体は大丈夫なのかしら??――あぁ、もしかして風邪を――」

 「私――目が良いんですのよ――嗤ってらっしゃいましたよね?窓から――私が落ちるのを見ながら……身を翻して部屋に戻って――……でも、誰にも言わなかった。たまたま助けて貰えましたけれど、そうでなければ私は死んでましたわね。――ねぇ、お姉さま、それがお望みでしたの??」

 心配するような顔をして話すエウリカの言葉に被せるようにしてシシュリカは言った。
 堅い声と顔に、エウリカは愛想笑いのような顔を浮かべて困惑している様子を見せた後、『可愛い妹に疑われて哀しい』と言わんばかりの顔を浮かべた。

 「酷いわ――何でそんな事、言うの??」

 涙さえ浮かべて、エウリカがシシュリカを非難する。
 その姿は嘘には見えず――シシュリカは、あれは自分の被害妄想が見せた幻なのかもしれないと思いそうになった。だとしても、エウリカがユーベルと関係を持った事には違いない。
 シシュリカは意を決して口を開いた。

 「酷い、ですか??酷いのはユーベル様と関係を持ったお姉さまでは??」

 「シシュリカ?!言っていい事と悪い事があるわ!!ユーベル様は貴女の婚約者でしょう??」

 そのエウリカの叫びは、真実のように部屋に響いた。けれど、シシュリカが苦しそうにユーベルとエウリカの関係を口にした一瞬、唇が嬉しそうに歪んだ事をシシュリカは見逃していない。

 ――あぁ、やっぱり――池での時のあれも見間違いなんかじゃ無い。

 「えぇ、私の婚約者ですわね。――そんな風に振る舞って頂いた事一度も――ありませんけれど……私、聞いてしまったのです。この扉の前で――お姉さまとユーベル様の声。それからメリヌが言ってましたよ?『美しい殿方には、美しい女性がお似合いだ』って。それが理由ですか?私が池に落ちた事を言わなかったのって」

 怒鳴りつけてしまいたいような怒りを飲み込んでシシュリカがそう言った瞬間、エウリカの顔が崩れた。
 チッと舌打ちをした後、「メリヌってば余計な事して――……!!」と呟き、面倒くさそうにシシュリカを睨んだ。その豹変ぶりにシシュリカは息を詰めた後、思い切って口を開いた……。

 「私が死ねば、ユーベル様と結婚出来るから?」

 「いいえ。どっちでも良かったからよ?アンタが死ねば、それはそれで良かったし、生きてたら今まで通りだっただけ」

 エウリカは、シシュリカへの悪意をもう隠そうとはしていなかった。
 馬鹿にするような笑顔を浮かべながら、聖女のような『エウリカ』は存在しないのだとシシュリカに突き付けているようだった。

 「……今まで通り――優しい聖女のような――病弱なエウリカ様と、どうでも良い妹のままって事ですね。私の誕生日に体調を崩していたのもワザとでしょう??」

 震える手を抑えつけながらシシュリカは、絞り出す様にそう質問した。
 疑惑は確定的で、疑う余地も無いけれど――シシュリカは、エウリカの口から直接聞きたかったからだ。

 「えぇ。だって、アンタが可愛がられるのってイライラするのよね。病弱で可哀想な私のちょっとした憂さ晴らしよ?イイコのシシュリカちゃんは許してくれるでしょう??」

 あははは!と嗤って言うエウリカに、シシュリカは唇を噛みしめた。
 憂さ晴らし――そんな事の為に、自分は我慢を強いられ傷ついて来たのかと――悔しいような泣きたいような気持ちを押さえつけてシシュリカはエウリカをただ見つめる。

 「それが、お姉さまの本性だと思って宜しいかしら?」

 「本性って失礼な言い方するのね?まぁでもここまで言っちゃったんだから、私がアンタの事嫌いだって言うのは分かるでしょう?」

 「……えぇ」

 クスクスと嬉しそうに話すエウリカ――。シシュリカは、こちらのエウリカの方が『らしい』と思っていた。
 聖女のように優しいエウリカ――今思えば、何とも薄ら寒い虚像であった。
 こちらのエウリカの方がとても自然で、生き生きとしているようにシシュリカには見える。

 「アンタってば、私が苦しんでる時でもヘラヘラヘラヘラ。産まれた時から気に入らなかったのよ。ねぇ?分かるかしら――?私がより可哀想って皆に可愛がってもらえる為に必要なモノ――それはアンタ。健康で元気なアンタが庭で走りまわってるのを見る度に『羨ましいわ――』そう哀しそうに呟くの。それだけで、私は病弱で可哀想な守るべきお嬢様になれるのよ?それで、アンタはそんな私を傷付ける無神経な妹になるの……とっても楽しかったわ、ありがとうね?シシュリカちゃん……」

 嘲るように笑って言うエウリカに、シシュリカは成程――と感心した。
 幼い頃から、計算高かったのだろうエウリカの――見事なまでに人心を操る演技――。彼女は或る意味女優だったと言う訳だ。そして、自分が嫌いなシシュリカを貶める事こそを楽しんだ……。
 ここで、話をする前――シシュリカはどうしてこうなってしまったのかと考えていた。エウリカに嫌われているのは何故だろう――もっと姉と話をして仲良くなっていれば、こんな事にはならなかっただろうかと……。

 ――けれど、そんな事――考えるだけ無駄だったのね……。

 エウリカにとってシシュリカが産まれて来た事こそが『罪』なのだ。ならば、分かり合えるような道理も無い。
 産まれた時から、エウリカにとってシシュリカは敵であったのだから。

 「そう――ユーベル様にも、同じようになさったのね?」

 「えぇ、そうよ?ちょっと悲しい顔をしただけで簡単だったわ」

 シシュリカの問いに、クスクスと優越感を滲ませた顔でエウリカは言った。
 「お子様は好みじゃ無いのですって」――エウリカは、シシュリカの全身を上から下まで見てからそう言って笑った。

 「――お父様が帰って来たら、全部、理由を話して婚約破棄を願い出ますわ……」

 「お父様とお母様が信じるとでも思ってるの?病弱で可愛い私が妹の婚約者を寝取ったって??」

 あはははは!楽しそうに笑いながらエウリカが話す。
 「アンタも懲りないわね?言った所で嘘つき扱いが追加されるだけじゃない。誰が信じるの?私がユーベル様を寝取ったって」――ケタケタと令嬢らしからぬ笑い声を上げてエウリカは、シシュリカを憐れむようにそう言った。

 「普通なら、信じて貰えないでしょうね――」

 そう、シシュリカが呟いた時だった――。
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 誤字修正(2021.04.02)
 頬笑み→微笑み
 修正しました。頬笑みって何でしょう……何でこんな変換されたんですかね……?
 誤字報告ありがとうございました!

 誤字修正(2021.04.06)
 池から落ちた→池に落ちた
 修正しました……池から……落ちられないですね;;報告ありがとうございました!
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