【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。

夜乃トバリ

文字の大きさ
上 下
7 / 18

第7話 暴露

しおりを挟む
  
 「お姉さま、お久しぶりですわね……」

 二人きりで話したいからと侍女を部屋から下げて、シシュリカはエウリカに対峙していた。
 様々な心労の所為か、青褪めてやつれた顔のシシュリカに、エウリカは聖母のような微笑みを浮かべて「シシュリカが来てくれて嬉しいわ」と、そう言った。
 シシュリカは唇を噛んで、目を逸らす。
 あの憎しみの籠った目を見た後で、この笑顔を信じたり出来無かったからだ。

 ――しっかりするのよ!シシュリカ!!

 エウリカに対する怯えのような感情――レウリオは、シシュリカが直接エウリカと話したいと言った時に反対していたが、シシュリカが無理を言って二人で話したいと告げて、この場に来ていた。
 『大丈夫だから――』そう言って説得したと言うのに、怯えていたのでは話にならない――そう考えてシシュリカはギュッと目を瞑った後――エウリカと真っ正面から顔を合わせた。

 「本当に嬉しいですか?お姉さま――……私が、池に落ちた事を誰にも言わなかったのに・・・・・・・・・・・?」

 シシュリカのその言葉に、一瞬エウリカの顔が強張った。
 そう、エウリカはシシュリカが池に落ちた時、誰にも助けを求めては居なかった。当人はエウリカにあの一瞬で姿を見られたとは思っていない……。あの嗤った顔を見られたとは――。

 「何――の事かしら?――もしかして、シシュリカ、池に落ちたの?あぁ!そうなのね??だから、ここ数日顔を見せてくれなかったの???――身体は大丈夫なのかしら??――あぁ、もしかして風邪を――」

 「私――目が良いんですのよ――嗤ってらっしゃいましたよね?窓から――私が落ちるのを見ながら……身を翻して部屋に戻って――……でも、誰にも言わなかった。たまたま助けて貰えましたけれど、そうでなければ私は死んでましたわね。――ねぇ、お姉さま、それがお望みでしたの??」

 心配するような顔をして話すエウリカの言葉に被せるようにしてシシュリカは言った。
 堅い声と顔に、エウリカは愛想笑いのような顔を浮かべて困惑している様子を見せた後、『可愛い妹に疑われて哀しい』と言わんばかりの顔を浮かべた。

 「酷いわ――何でそんな事、言うの??」

 涙さえ浮かべて、エウリカがシシュリカを非難する。
 その姿は嘘には見えず――シシュリカは、あれは自分の被害妄想が見せた幻なのかもしれないと思いそうになった。だとしても、エウリカがユーベルと関係を持った事には違いない。
 シシュリカは意を決して口を開いた。

 「酷い、ですか??酷いのはユーベル様と関係を持ったお姉さまでは??」

 「シシュリカ?!言っていい事と悪い事があるわ!!ユーベル様は貴女の婚約者でしょう??」

 そのエウリカの叫びは、真実のように部屋に響いた。けれど、シシュリカが苦しそうにユーベルとエウリカの関係を口にした一瞬、唇が嬉しそうに歪んだ事をシシュリカは見逃していない。

 ――あぁ、やっぱり――池での時のあれも見間違いなんかじゃ無い。

 「えぇ、私の婚約者ですわね。――そんな風に振る舞って頂いた事一度も――ありませんけれど……私、聞いてしまったのです。この扉の前で――お姉さまとユーベル様の声。それからメリヌが言ってましたよ?『美しい殿方には、美しい女性がお似合いだ』って。それが理由ですか?私が池に落ちた事を言わなかったのって」

 怒鳴りつけてしまいたいような怒りを飲み込んでシシュリカがそう言った瞬間、エウリカの顔が崩れた。
 チッと舌打ちをした後、「メリヌってば余計な事して――……!!」と呟き、面倒くさそうにシシュリカを睨んだ。その豹変ぶりにシシュリカは息を詰めた後、思い切って口を開いた……。

 「私が死ねば、ユーベル様と結婚出来るから?」

 「いいえ。どっちでも良かったからよ?アンタが死ねば、それはそれで良かったし、生きてたら今まで通りだっただけ」

 エウリカは、シシュリカへの悪意をもう隠そうとはしていなかった。
 馬鹿にするような笑顔を浮かべながら、聖女のような『エウリカ』は存在しないのだとシシュリカに突き付けているようだった。

 「……今まで通り――優しい聖女のような――病弱なエウリカ様と、どうでも良い妹のままって事ですね。私の誕生日に体調を崩していたのもワザとでしょう??」

 震える手を抑えつけながらシシュリカは、絞り出す様にそう質問した。
 疑惑は確定的で、疑う余地も無いけれど――シシュリカは、エウリカの口から直接聞きたかったからだ。

 「えぇ。だって、アンタが可愛がられるのってイライラするのよね。病弱で可哀想な私のちょっとした憂さ晴らしよ?イイコのシシュリカちゃんは許してくれるでしょう??」

 あははは!と嗤って言うエウリカに、シシュリカは唇を噛みしめた。
 憂さ晴らし――そんな事の為に、自分は我慢を強いられ傷ついて来たのかと――悔しいような泣きたいような気持ちを押さえつけてシシュリカはエウリカをただ見つめる。

 「それが、お姉さまの本性だと思って宜しいかしら?」

 「本性って失礼な言い方するのね?まぁでもここまで言っちゃったんだから、私がアンタの事嫌いだって言うのは分かるでしょう?」

 「……えぇ」

 クスクスと嬉しそうに話すエウリカ――。シシュリカは、こちらのエウリカの方が『らしい』と思っていた。
 聖女のように優しいエウリカ――今思えば、何とも薄ら寒い虚像であった。
 こちらのエウリカの方がとても自然で、生き生きとしているようにシシュリカには見える。

 「アンタってば、私が苦しんでる時でもヘラヘラヘラヘラ。産まれた時から気に入らなかったのよ。ねぇ?分かるかしら――?私がより可哀想って皆に可愛がってもらえる為に必要なモノ――それはアンタ。健康で元気なアンタが庭で走りまわってるのを見る度に『羨ましいわ――』そう哀しそうに呟くの。それだけで、私は病弱で可哀想な守るべきお嬢様になれるのよ?それで、アンタはそんな私を傷付ける無神経な妹になるの……とっても楽しかったわ、ありがとうね?シシュリカちゃん……」

 嘲るように笑って言うエウリカに、シシュリカは成程――と感心した。
 幼い頃から、計算高かったのだろうエウリカの――見事なまでに人心を操る演技――。彼女は或る意味女優だったと言う訳だ。そして、自分が嫌いなシシュリカを貶める事こそを楽しんだ……。
 ここで、話をする前――シシュリカはどうしてこうなってしまったのかと考えていた。エウリカに嫌われているのは何故だろう――もっと姉と話をして仲良くなっていれば、こんな事にはならなかっただろうかと……。

 ――けれど、そんな事――考えるだけ無駄だったのね……。

 エウリカにとってシシュリカが産まれて来た事こそが『罪』なのだ。ならば、分かり合えるような道理も無い。
 産まれた時から、エウリカにとってシシュリカは敵であったのだから。

 「そう――ユーベル様にも、同じようになさったのね?」

 「えぇ、そうよ?ちょっと悲しい顔をしただけで簡単だったわ」

 シシュリカの問いに、クスクスと優越感を滲ませた顔でエウリカは言った。
 「お子様は好みじゃ無いのですって」――エウリカは、シシュリカの全身を上から下まで見てからそう言って笑った。

 「――お父様が帰って来たら、全部、理由を話して婚約破棄を願い出ますわ……」

 「お父様とお母様が信じるとでも思ってるの?病弱で可愛い私が妹の婚約者を寝取ったって??」

 あはははは!楽しそうに笑いながらエウリカが話す。
 「アンタも懲りないわね?言った所で嘘つき扱いが追加されるだけじゃない。誰が信じるの?私がユーベル様を寝取ったって」――ケタケタと令嬢らしからぬ笑い声を上げてエウリカは、シシュリカを憐れむようにそう言った。

 「普通なら、信じて貰えないでしょうね――」

 そう、シシュリカが呟いた時だった――。
____________________________________________________
 
 誤字修正(2021.04.02)
 頬笑み→微笑み
 修正しました。頬笑みって何でしょう……何でこんな変換されたんですかね……?
 誤字報告ありがとうございました!

 誤字修正(2021.04.06)
 池から落ちた→池に落ちた
 修正しました……池から……落ちられないですね;;報告ありがとうございました!
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。  ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。 理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。 クラリスはただ微笑み、こう返す。 「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」 そうして物語は終わる……はずだった。 けれど、ここからすべてが狂い始める。 *完結まで予約投稿済みです。 *1日3回更新(7時・12時・18時)

父が転勤中に突如現れた継母子に婚約者も家も王家!?も乗っ取られそうになったので、屋敷ごとさよならすることにしました。どうぞご勝手に。

青の雀
恋愛
何でも欲しがり屋の自称病弱な義妹は、公爵家当主の座も王子様の婚約者も狙う。と似たような話になる予定。ちょっと、違うけど、発想は同じ。 公爵令嬢のジュリアスティは、幼い時から精霊の申し子で、聖女様ではないか?と噂があった令嬢。 父が長期出張中に、なぜか新しい後妻と連れ子の娘が転がり込んできたのだ。 そして、継母と義姉妹はやりたい放題をして、王子様からも婚約破棄されてしまいます。 3人がお出かけした隙に、屋根裏部屋に閉じ込められたジュリアスティは、精霊の手を借り、使用人と屋敷ごと家出を試みます。 長期出張中の父の赴任先に、無事着くと聖女覚醒して、他国の王子様と幸せになるという話ができれば、イイなぁと思って書き始めます。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...