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第5話 兄の奮闘
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レウリオがまずした事は、執事長と侍女長を巻き込む事だった。長年勤めてくれている信頼出来る彼等に事の経緯を話し協力を得る事に成功したのだ。
次にした事は、侍女のメリヌの拘束だった。
エウリカにはメリヌが体調を崩したと偽り、侍女長から信頼出来る侍女をエウリカにつけて貰った。ついでにユーベルとエウリカの不義密通の証拠を取る為にある仕掛けをその侍女にして貰い、自分が帰省していると知れれば行動しないと考えて、帰省している事実を隠させた。
そもそも、ユーベルとエウリカのした事は姦通罪にあたる――勿論、表に出ればの話だ。レウリオはレーン家のとある事情から、この件は表沙汰にはならないし出来ないと知っていた。
だからと言って、姦通罪と言う状況を利用し無い手は無い。
「やぁ、メリヌ――君とんでもない事をしてくれたね?――……なんだ?分からないの??エウリカとユーベルの事だよ??は?引き裂かれた恋人同士?何言ってるんだ??――……知らないのか?正式に婚約を結んだ相手がいるのに、他の異性と恋仲になるのはね、姦通罪って言うんだよ?それで、君――それを手伝ったんだろう――それは姦通罪の補助という罪になるんだ。おめでとう、君は晴れて罪人になったんだよ」
レウリオの言葉を聞いて、メリヌはガクガクと震えながら腰を抜かした。知らなかったんです!と叫ぶメリヌに冷たい目でレウリオは睨みつける。
「そもそも君はただの侍女だ。それが、何でシシュリカを見下したりしている??身寄りのない自分を救いあげて下さったエウリカ様を不愉快にさせるのがシシュリカだからかな?だとしても、お前がシシュリカにそんな態度を取っても良い理由にはならないよ。――コイツを暫く独房に入れておけ」
その言葉に、私兵である護衛騎士達が叫ぶメリヌを引きずって行く――。
「愚かだな」
そう吐き捨ててレウリオは執事長と侍女長と目を合わす。彼等は忸怩たる思いを噛みしめているようだった。二人はシシュリカとエウリカとなるべく公平に接しようとしていたが、邸内に勤めている者達が全員そうだった訳も無い。
どちらかといえば皆、儚げで美しいエウリカに同情的であったし、無意識の内であったとしてもシシュリカを差別する風潮は確かにあったのだ。
執事長と侍女長は折を見て行き過ぎた差別意識を注意したりもしたけれど、家族であるレーン子爵夫妻が病弱なエウリカを優先するのである。いくら言い聞かせても、シシュリカはエウリカよりも下の立場――というような雰囲気に戻ってしまうのだ……。
それは、レーン子爵夫妻の落ち度であったけれど、彼等はそれにまったく気が付いていなかった。
そんな状況の中、メリヌは典型的にシシュリカを『要らない子』扱いする侍女の筆頭であると言えた。儚げでお優しいエウリカ様を心から信奉していたからだ。
レウリオからすれば、エウリカが本当に心優しい娘なら自分の妹の婚約者を寝取るような恥ずかしい真似は、死んでも出来ない筈だと声を大きくして言いたい所であった。
全てを諦めたシシュリカの顔を思い出すたびに、レウリオの胸は軋むように痛んだ。そして、あの瞬間に自分が間に合った事の奇跡を神に感謝するのだった。
レーン子爵がこの件を知った時、どう反応するかは分からないけれど、普通であればメリヌは姦通罪の補助で監獄行き――けれど、レーン子爵家の状況を思えば、鞭打ちの上、紹介状無しで解雇されるだろうとレウリオは考えていた。
メリヌの実家は没落した男爵家で、メリヌの稼ぎがその収入の多くを支えていたから大打撃となるだろう。
何故なら侍女として勤めていた家から紹介状を貰えないと言う事は、主に不利益を働いたか、使えない……仕事の出来ない侍女だと言う事になるので、普通は何処の家でも雇う事は無いからだ。
――自業自得だな……。
レウリオは冷めた目をしてそう考えた。メリヌの実家は憐れに思うが、メリヌが自ら招いた事である。レーン子爵家のどちらの娘にも二心無く仕えていれば、こんな目には合わなかったのだから。
メリヌの実家がどうするかは分からないが、レウリオは金持ちの後妻として売られるだろうな――と思った。
「「申し訳、ありません――若様……」」
深々と頭を下げる執事長と侍女長にレウリオは、「お前達は良くやってくれていただろう?」と答えた。
この所の状況に、胸を痛めた侍女長と執事長が、レーン子爵夫妻にそれとなく諫言しようと苦慮してくれていた事を二人からの手紙で知っていたからだ。
その手紙と言うのは、レウリオがシシュリカとエウリカの様子を尋ねたもので、この邸から離れるしかなかったものの、シシュリカの事を心配してのものだった。
シシュリカ当人に聞ければ、一番良いのだろうけれど残念ながら彼女は『大丈夫か?』と聞けば、辛くても『大丈夫よ』と答える娘である。それは、諦める『癖』がついてしまったからこその返答――。レウリオはそれを知っていたからこそ、信頼出来る執事長と侍女長と手紙のやり取りをしていたのだった。
「いいえ――事、このような事態に至ったのです。私達の力不足故の事――シシュリカ様にも申し訳無く……」
「それは私も同じだよ。――父上や母上もだ。あの人達は善良過ぎて、シシュリカの事もエウリカの事もちゃんと認識出来て無い――」
レウリオのその言葉に、執事長と侍女長は目を見合わせて困ったように溜息を吐いた。それはそうだ。レーン子爵夫妻はシシュリカの『大丈夫』だという言葉を信じ切っているのだ。
『シシュリカは良い子だから大丈夫よね??』――……『えぇ大丈夫よ、お父様、お母様――』……そう言って笑う娘の、その奥にある寂しい気持ちや、傷ついた気持ちに気が付いて無いのだ。
そして、エウリカ――病弱で心優しい可哀想な娘――熱を出し真っ赤な頬で苦しそうにしながら、『ごめんなさい、お父様、お母様――』と辛そうに呟く姿――それがレーン子爵夫妻のエウリカなのだ。
二人はエウリカが、妹の婚約者を寝取るような娘だとは思っていない。だからこそ、目を覚まさせないと――とレウリオは苦い思いを噛みしめた。
次にした事は、侍女のメリヌの拘束だった。
エウリカにはメリヌが体調を崩したと偽り、侍女長から信頼出来る侍女をエウリカにつけて貰った。ついでにユーベルとエウリカの不義密通の証拠を取る為にある仕掛けをその侍女にして貰い、自分が帰省していると知れれば行動しないと考えて、帰省している事実を隠させた。
そもそも、ユーベルとエウリカのした事は姦通罪にあたる――勿論、表に出ればの話だ。レウリオはレーン家のとある事情から、この件は表沙汰にはならないし出来ないと知っていた。
だからと言って、姦通罪と言う状況を利用し無い手は無い。
「やぁ、メリヌ――君とんでもない事をしてくれたね?――……なんだ?分からないの??エウリカとユーベルの事だよ??は?引き裂かれた恋人同士?何言ってるんだ??――……知らないのか?正式に婚約を結んだ相手がいるのに、他の異性と恋仲になるのはね、姦通罪って言うんだよ?それで、君――それを手伝ったんだろう――それは姦通罪の補助という罪になるんだ。おめでとう、君は晴れて罪人になったんだよ」
レウリオの言葉を聞いて、メリヌはガクガクと震えながら腰を抜かした。知らなかったんです!と叫ぶメリヌに冷たい目でレウリオは睨みつける。
「そもそも君はただの侍女だ。それが、何でシシュリカを見下したりしている??身寄りのない自分を救いあげて下さったエウリカ様を不愉快にさせるのがシシュリカだからかな?だとしても、お前がシシュリカにそんな態度を取っても良い理由にはならないよ。――コイツを暫く独房に入れておけ」
その言葉に、私兵である護衛騎士達が叫ぶメリヌを引きずって行く――。
「愚かだな」
そう吐き捨ててレウリオは執事長と侍女長と目を合わす。彼等は忸怩たる思いを噛みしめているようだった。二人はシシュリカとエウリカとなるべく公平に接しようとしていたが、邸内に勤めている者達が全員そうだった訳も無い。
どちらかといえば皆、儚げで美しいエウリカに同情的であったし、無意識の内であったとしてもシシュリカを差別する風潮は確かにあったのだ。
執事長と侍女長は折を見て行き過ぎた差別意識を注意したりもしたけれど、家族であるレーン子爵夫妻が病弱なエウリカを優先するのである。いくら言い聞かせても、シシュリカはエウリカよりも下の立場――というような雰囲気に戻ってしまうのだ……。
それは、レーン子爵夫妻の落ち度であったけれど、彼等はそれにまったく気が付いていなかった。
そんな状況の中、メリヌは典型的にシシュリカを『要らない子』扱いする侍女の筆頭であると言えた。儚げでお優しいエウリカ様を心から信奉していたからだ。
レウリオからすれば、エウリカが本当に心優しい娘なら自分の妹の婚約者を寝取るような恥ずかしい真似は、死んでも出来ない筈だと声を大きくして言いたい所であった。
全てを諦めたシシュリカの顔を思い出すたびに、レウリオの胸は軋むように痛んだ。そして、あの瞬間に自分が間に合った事の奇跡を神に感謝するのだった。
レーン子爵がこの件を知った時、どう反応するかは分からないけれど、普通であればメリヌは姦通罪の補助で監獄行き――けれど、レーン子爵家の状況を思えば、鞭打ちの上、紹介状無しで解雇されるだろうとレウリオは考えていた。
メリヌの実家は没落した男爵家で、メリヌの稼ぎがその収入の多くを支えていたから大打撃となるだろう。
何故なら侍女として勤めていた家から紹介状を貰えないと言う事は、主に不利益を働いたか、使えない……仕事の出来ない侍女だと言う事になるので、普通は何処の家でも雇う事は無いからだ。
――自業自得だな……。
レウリオは冷めた目をしてそう考えた。メリヌの実家は憐れに思うが、メリヌが自ら招いた事である。レーン子爵家のどちらの娘にも二心無く仕えていれば、こんな目には合わなかったのだから。
メリヌの実家がどうするかは分からないが、レウリオは金持ちの後妻として売られるだろうな――と思った。
「「申し訳、ありません――若様……」」
深々と頭を下げる執事長と侍女長にレウリオは、「お前達は良くやってくれていただろう?」と答えた。
この所の状況に、胸を痛めた侍女長と執事長が、レーン子爵夫妻にそれとなく諫言しようと苦慮してくれていた事を二人からの手紙で知っていたからだ。
その手紙と言うのは、レウリオがシシュリカとエウリカの様子を尋ねたもので、この邸から離れるしかなかったものの、シシュリカの事を心配してのものだった。
シシュリカ当人に聞ければ、一番良いのだろうけれど残念ながら彼女は『大丈夫か?』と聞けば、辛くても『大丈夫よ』と答える娘である。それは、諦める『癖』がついてしまったからこその返答――。レウリオはそれを知っていたからこそ、信頼出来る執事長と侍女長と手紙のやり取りをしていたのだった。
「いいえ――事、このような事態に至ったのです。私達の力不足故の事――シシュリカ様にも申し訳無く……」
「それは私も同じだよ。――父上や母上もだ。あの人達は善良過ぎて、シシュリカの事もエウリカの事もちゃんと認識出来て無い――」
レウリオのその言葉に、執事長と侍女長は目を見合わせて困ったように溜息を吐いた。それはそうだ。レーン子爵夫妻はシシュリカの『大丈夫』だという言葉を信じ切っているのだ。
『シシュリカは良い子だから大丈夫よね??』――……『えぇ大丈夫よ、お父様、お母様――』……そう言って笑う娘の、その奥にある寂しい気持ちや、傷ついた気持ちに気が付いて無いのだ。
そして、エウリカ――病弱で心優しい可哀想な娘――熱を出し真っ赤な頬で苦しそうにしながら、『ごめんなさい、お父様、お母様――』と辛そうに呟く姿――それがレーン子爵夫妻のエウリカなのだ。
二人はエウリカが、妹の婚約者を寝取るような娘だとは思っていない。だからこそ、目を覚まさせないと――とレウリオは苦い思いを噛みしめた。
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