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第1話 ひとりぼっちの誕生日
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シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。
そう――思っていた筈だった。
いや、思い込もうとしていたのだ。その方が幸福だから……。
彼女の姉、エウリカはとても病弱だった。換気の為に開けた窓を閉め忘れただけで熱を出す。少し歩いて汗を掻いても熱を出す。そんな病弱な彼女は妖精のように可愛らしい少女だった。
だから、とても大事に――大事に育てられたのだ。
両親と兄――彼等はとてもエウリカを大切に扱った。
そんなエウリカが三歳の頃だった。妹が産まれたのだ。それがシシュリカ。こちらも可愛らしい子供だったけれど、エウリカのように儚げで美しい子供では無かった。
両親も、兄もシシュリカの事をとても可愛がったけれど、健康で元気な彼女より病弱なエウリカが優先される事はどうしても多くなってしまった。
使用人はもっと残酷だった。妖精の姫君のような姉と、男の子みたいに元気な妹。「お嬢様ももっとオシトヤカで可愛ければね――」仕え甲斐があるのにさぁ――とシシュリカの目の前で言ったりした。
二歳の子供が意味なんて分からないだろうと思っての発言だろうけれど、シシュリカはその時の哀しい気持ちを覚えていた。
『お姉ちゃんが具合が悪いの――我慢して頂戴』
何時の頃からか言われるようになった言葉。
シシュリカの誕生日会の時に、姉が高熱をだした時だ。誕生日会は中止になった。
家族で旅行なんて行った事が無い。病弱な姉を連れては行けず、かといって両親のどちらかが付き添ってシシュリカだけ旅行に連れて行くのはエウリカが『可哀想』だからだ。
学校での、演劇の発表会の時も――歌の発表会の時も――両親は高熱を出したエウリカに付き添った。
四歳年上で同じ学校に通う兄が見に来てくれた事もあったけれど、卒業してしまってからは誰も見に来てくれる事は無かった。
『お誕生日おめでとう――私』
いつの誕生日の時か――その日もエウリカが熱を出したので、シシュリカは一人部屋に居た。
プレゼントは手渡されたけれど、おめでとうの一言も無く、高熱で苦しむエウリカの元へと戻って行く両親。この頃から、シシュリカはエウリカはわざと熱を出しているのではないか?と心の片隅で疑問に思っていた。
けれど、エウリカはシシュリカの誕生日の当日だけに熱を出す訳でもなければ、仮病を使っている訳では無い。それにそんな疑問を口に出そうものなら、両親に怒られるに決まっている。
だから、シシュリカは口を噤んだ。
『エウリカの誕生日はお祝いするのかな』
そう……哀しいのは、エウリカの誕生日。
身体の弱いエウリカの為に家族だけで開く小さな誕生日会。もちろんエウリカは自分の誕生日に熱なんて出しはしない。笑顔の家族に囲まれて、使用人たちにもお祝いを言われてエウリカは『ありがとう。うれしいわ』と可愛らしい声でお礼を言うのだ。
『お父様も、お母様も御存じかしら……?私の誕生日会って一度もしてもらった事、無いのよ?』
寄宿舎に入ってしまった兄から届いた手紙とプレゼント――そのクマの縫ぐるみに話しかけながらシシュリカは一人で泣いた。
____________________________________________________
数か月、シリアス書いてみようと実験的にポチポチと書きためていたものです。修正入れながら、今日中に完結までUPの予定……。全16話になります。
こちらとは書き方も雰囲気もかわりますが、『乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、トラウマ級の幼馴染を撃退したい。』と『婚約破棄?ありえませんわ――……からの婚約者王子の独白。』と言うお話を連載中です。
興味を持って頂けましたら、そちらも宜しくお願いしますm(_ _)m
そう――思っていた筈だった。
いや、思い込もうとしていたのだ。その方が幸福だから……。
彼女の姉、エウリカはとても病弱だった。換気の為に開けた窓を閉め忘れただけで熱を出す。少し歩いて汗を掻いても熱を出す。そんな病弱な彼女は妖精のように可愛らしい少女だった。
だから、とても大事に――大事に育てられたのだ。
両親と兄――彼等はとてもエウリカを大切に扱った。
そんなエウリカが三歳の頃だった。妹が産まれたのだ。それがシシュリカ。こちらも可愛らしい子供だったけれど、エウリカのように儚げで美しい子供では無かった。
両親も、兄もシシュリカの事をとても可愛がったけれど、健康で元気な彼女より病弱なエウリカが優先される事はどうしても多くなってしまった。
使用人はもっと残酷だった。妖精の姫君のような姉と、男の子みたいに元気な妹。「お嬢様ももっとオシトヤカで可愛ければね――」仕え甲斐があるのにさぁ――とシシュリカの目の前で言ったりした。
二歳の子供が意味なんて分からないだろうと思っての発言だろうけれど、シシュリカはその時の哀しい気持ちを覚えていた。
『お姉ちゃんが具合が悪いの――我慢して頂戴』
何時の頃からか言われるようになった言葉。
シシュリカの誕生日会の時に、姉が高熱をだした時だ。誕生日会は中止になった。
家族で旅行なんて行った事が無い。病弱な姉を連れては行けず、かといって両親のどちらかが付き添ってシシュリカだけ旅行に連れて行くのはエウリカが『可哀想』だからだ。
学校での、演劇の発表会の時も――歌の発表会の時も――両親は高熱を出したエウリカに付き添った。
四歳年上で同じ学校に通う兄が見に来てくれた事もあったけれど、卒業してしまってからは誰も見に来てくれる事は無かった。
『お誕生日おめでとう――私』
いつの誕生日の時か――その日もエウリカが熱を出したので、シシュリカは一人部屋に居た。
プレゼントは手渡されたけれど、おめでとうの一言も無く、高熱で苦しむエウリカの元へと戻って行く両親。この頃から、シシュリカはエウリカはわざと熱を出しているのではないか?と心の片隅で疑問に思っていた。
けれど、エウリカはシシュリカの誕生日の当日だけに熱を出す訳でもなければ、仮病を使っている訳では無い。それにそんな疑問を口に出そうものなら、両親に怒られるに決まっている。
だから、シシュリカは口を噤んだ。
『エウリカの誕生日はお祝いするのかな』
そう……哀しいのは、エウリカの誕生日。
身体の弱いエウリカの為に家族だけで開く小さな誕生日会。もちろんエウリカは自分の誕生日に熱なんて出しはしない。笑顔の家族に囲まれて、使用人たちにもお祝いを言われてエウリカは『ありがとう。うれしいわ』と可愛らしい声でお礼を言うのだ。
『お父様も、お母様も御存じかしら……?私の誕生日会って一度もしてもらった事、無いのよ?』
寄宿舎に入ってしまった兄から届いた手紙とプレゼント――そのクマの縫ぐるみに話しかけながらシシュリカは一人で泣いた。
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数か月、シリアス書いてみようと実験的にポチポチと書きためていたものです。修正入れながら、今日中に完結までUPの予定……。全16話になります。
こちらとは書き方も雰囲気もかわりますが、『乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたが、トラウマ級の幼馴染を撃退したい。』と『婚約破棄?ありえませんわ――……からの婚約者王子の独白。』と言うお話を連載中です。
興味を持って頂けましたら、そちらも宜しくお願いしますm(_ _)m
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