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第十二章 終わらない物語
15.有り難くない綽名
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救い小屋は、小屋と寺の両方とも卯月の半ばごろには皆、出てゆくことができてすべて解体することができた。
公達の屋敷では順番を決めて、定期的に「救い市」なるものを開催することになった。
何を配るかは自由なので、皆、ああでもないこうでもないと頭を悩ませている。
あたしは、皐月の最初にある、流鏑馬神事が楽しみで仕方ない。
今年も射手に選ばれた元信様の姿を、糺の森の馬場に新たに設置された女人用の席で見られるから。
主上は、公家専用の桟敷席で観ようと、しつこく誘ってくるけど、無視無視。
だって、馬場から遠いんだもん。
せっかくの元信様の雄姿を近くで観たいじゃない。
今年は義光も射手に選ばれたそうで「治部卿殿には負けませんよ!」と息巻いている。
独りで何を張り合ってるのか、よく判らない。
ま、頑張れ。
観には行ってあげるよ。
都の大掛かりな水道工事は着々と進んでいる。
これが終わったら、下水・ごみ処理施設と医療施設の建設を考えている、と先日、皆に話した。
皆は最初は「え、まだなんかあるんですか…」と呆れていたけど、あたしが必要性を力説するうちに「やりましょう!」と乗り気になってくれた。
宮中のみならず、市井でも、あたしは「権中宮」とか「女関白」とか呼ばれているらしい。
おかしいなあ…
あたしは首を傾げる。
あたしは、元信様の妻になれればそれで良かったはず。
家刀自として家の中を整え、元信様の生活を支えていければそれだけで良かったのに…
何でこんなことになっちゃった?
幼いころから、あたしはトーベ・ヤンソン作のムーミンママとかハンス・クリスチャン・アンデルセン作の「父さんのすることはいつもよし」に出てくる奥さんとかに憧れていた。
盲目的に夫に従う妻。
すごい、素敵だなって思ってた。
あたしの両親は、どちらかと言えばカカア天下だった。
母がなんでもイニシアチブを取って、父は特に反論も不満もないようだった。
今のこの状況は完全にあたしが、この家だけでなく政治の中心のようだ。
夫だけでなく、国家をも座布団にする女。
なんか違うんだけどなあ…
元信様に愚痴ったら
「私たちは皆、自ら望んで香織の指揮下に入っているのですよ。
誰に強制されたわけではない、もちろん香織だって一言も従えなんておっしゃってない」
「誰も思いつかないような素晴らしい着想と創意工夫、香織にしかないものを惜しみなく出してくださるのだから私たちは余さずそれを享受できるように実行していかなくてはね」
と一笑に付された。
でも元信様はあたしの抱えている精神的プレッシャーを感じ取ってくれたらしく、宮中で主上や他の公達に話してくれたらしい。
関白様や大臣達、いつもの公達からもたくさんの贈り物や手紙が、以前にも増して届くようになった。
お弁当を持って皆で馬での遠足に行ったり、大学寮の算学の教授に会ったり、女子会を開いたり、あたしの気が晴れるような楽しいことを次々と敢行してくれる。
うーん…
まあ、いいか。
皆が応援してくれるうちは、頑張ろう。
私的な利権を望むなどの間違った方向に行かないように、気を付けないとね。
「稀代の悪徳女関白」とか後の世で言われたら嫌だもんね。
「傾城の美女」ならともかく。
なんちゃって。
公達の屋敷では順番を決めて、定期的に「救い市」なるものを開催することになった。
何を配るかは自由なので、皆、ああでもないこうでもないと頭を悩ませている。
あたしは、皐月の最初にある、流鏑馬神事が楽しみで仕方ない。
今年も射手に選ばれた元信様の姿を、糺の森の馬場に新たに設置された女人用の席で見られるから。
主上は、公家専用の桟敷席で観ようと、しつこく誘ってくるけど、無視無視。
だって、馬場から遠いんだもん。
せっかくの元信様の雄姿を近くで観たいじゃない。
今年は義光も射手に選ばれたそうで「治部卿殿には負けませんよ!」と息巻いている。
独りで何を張り合ってるのか、よく判らない。
ま、頑張れ。
観には行ってあげるよ。
都の大掛かりな水道工事は着々と進んでいる。
これが終わったら、下水・ごみ処理施設と医療施設の建設を考えている、と先日、皆に話した。
皆は最初は「え、まだなんかあるんですか…」と呆れていたけど、あたしが必要性を力説するうちに「やりましょう!」と乗り気になってくれた。
宮中のみならず、市井でも、あたしは「権中宮」とか「女関白」とか呼ばれているらしい。
おかしいなあ…
あたしは首を傾げる。
あたしは、元信様の妻になれればそれで良かったはず。
家刀自として家の中を整え、元信様の生活を支えていければそれだけで良かったのに…
何でこんなことになっちゃった?
幼いころから、あたしはトーベ・ヤンソン作のムーミンママとかハンス・クリスチャン・アンデルセン作の「父さんのすることはいつもよし」に出てくる奥さんとかに憧れていた。
盲目的に夫に従う妻。
すごい、素敵だなって思ってた。
あたしの両親は、どちらかと言えばカカア天下だった。
母がなんでもイニシアチブを取って、父は特に反論も不満もないようだった。
今のこの状況は完全にあたしが、この家だけでなく政治の中心のようだ。
夫だけでなく、国家をも座布団にする女。
なんか違うんだけどなあ…
元信様に愚痴ったら
「私たちは皆、自ら望んで香織の指揮下に入っているのですよ。
誰に強制されたわけではない、もちろん香織だって一言も従えなんておっしゃってない」
「誰も思いつかないような素晴らしい着想と創意工夫、香織にしかないものを惜しみなく出してくださるのだから私たちは余さずそれを享受できるように実行していかなくてはね」
と一笑に付された。
でも元信様はあたしの抱えている精神的プレッシャーを感じ取ってくれたらしく、宮中で主上や他の公達に話してくれたらしい。
関白様や大臣達、いつもの公達からもたくさんの贈り物や手紙が、以前にも増して届くようになった。
お弁当を持って皆で馬での遠足に行ったり、大学寮の算学の教授に会ったり、女子会を開いたり、あたしの気が晴れるような楽しいことを次々と敢行してくれる。
うーん…
まあ、いいか。
皆が応援してくれるうちは、頑張ろう。
私的な利権を望むなどの間違った方向に行かないように、気を付けないとね。
「稀代の悪徳女関白」とか後の世で言われたら嫌だもんね。
「傾城の美女」ならともかく。
なんちゃって。
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