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第十二章 終わらない物語

13.正月・如月

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 お正月は、ほんっとうにいろんな儀式や催しがあって、面白いものもあったけど面倒くさいものも多かった。

 白馬あおうま節会せちえには、あたしも宮中に招かれて(主上の泣き落としに遭って)、着飾って宮中に上がり、久しぶりに楓間の更衣様と会った。

 あたしの父親である太政大臣が後ろ盾に着いたお陰で、主上のお渡りが増えたという楓間の更衣様は以前よりふっくらとして、幸せそうだった。
 
 皐月に赤ちゃんが生まれるらしい。
 楽しみ!
 
 「伊都子姫様と元信のところはまだ?」
 と訊かれて、あたしたちは顔を見合わせて照れる。
 そうなんだよね…行為はしてんですけどね。


 如月に二の姫が無事に東宮に嫁ぎ、あたしと元信様はお祝いの席に招待され初めて東宮御所に上がった。
 二の姫は「幸せ過ぎて死んでしまいそうです…」と儚い声で言って泣いていた。

 いやいや、これからよ!
 今日はスタートよ!
 ここで死んでどうするの!
 
 あたしは北の方様とこもごもに慰め励まし、結婚生活の幸福を説いた。
 
 そこへ新郎である東宮が
 「月子姫!東宮御所へようこそ!
 もう、二度とお帰りにならなくて宜しいですよ」
 などと暢気に言いながら入ってきて、あたしの前に座って手を取る。

 バカかあんたは!
 横に、あんたの花嫁がいるだろ!

 あたしは「晴れの日にそんなことをおっしゃる方に、大切な二の姫はお預けできません」と言って手を振り払う。

 それを聞いた二の姫は
 「いえ、わたくしは…東宮様のお后になりたいのです…」
 と可愛らしく言った。

 さすがの東宮も、その愛らしさに「そうですよね、私も二の姫が来てくださってとても嬉しいですよ」と優しく言う。

 もう…幸せにしてあげてよ、こんなに東宮のこと好きなんだから二の姫は。

 縫姫と権中納言様も無事に露顕の儀を済ませて、太政大臣家のあたしがいた部屋を縫姫の部屋にして通ってきているらしい。

 「月子姫があのお部屋にいらっしゃるような気がして、時折、無性に切ないのです」
 と権中納言様は我が家の西の対屋で、お炬燵に入って二人で算学の問題を解いているときに囁いた。

 「縫姫はとても愛しい…
 だけど、私もまた、他の方々と同じように月子姫を愛しているのですよ」

 この時代の、貴族の男性の感覚としては普通なんだろうけど…
 あたしには理解できない。まったくできない。
 
 元信様はあたしだけを愛してくれている(たぶん)、それが異質であってもあたしはその方が良い。
 きっとどの時代でも変わらず、女性は皆、そう思っているんだろうな…

 
 春が近づいている。
 そして、あたしと元信様が初めて会った、弥生も近づく。
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