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第十二章 終わらない物語

6.パラダイムシフト

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 あたしを中央にして両隣に主上と東宮が座り(何故だ!)、それを囲むように他の公達が車座になる。

 お殿様と元信様のお父様は、若公達の話し合いに爺が首突っ込むのもね、と言って帰っていった。
 単に面倒くさいだけと見たね。

 「さて。
 餅撒きをご覧になった、月子姫から何かお話があるらしい」
 内侍さんが文机の前に座ったのを見て、主上が口を開く。

 東宮が「先に私から、餅撒きの状況を話そう」と言って、先ほど見た、凄惨な人々の様子を語った。

 「この夏の旱魃に伴う不作、鴨川の氾濫による疫病の蔓延により、洛中と一部洛外の民は飢えと病に苦しんでいる。
 他の地域は大丈夫なようだ。全国の荘園に人を遣って調べさせたが、京中ほどの酷い天災はなかったようだ」

 「私の父上やそのかみの為政者たちも、鴨川の氾濫には度々悩まされ、治水工事なども行ってきた。
 だが、なかなか治まらない。
 御仏の思し召しなのだろうか」
 主上がため息をつき、手に持った扇子を弄ぶ。

 そんなわきゃない!
 あたしはぐっと奥歯を噛みしめる。

 「治水工事と合わせて、とにかくあの飢えた人々をどうにかしなくちゃ。
 今日明日の命も知れない人がたくさんいるように見えたわ。
 『救い小屋』を準備して、とりあえずの食事と寝る場所を確保するのが良いと思うの」

 「救い小屋?」
 皆の視線が集まる。

 うーん、この時代、まだその概念が無いのか。
 いつ頃からできたのかな。
 ま、いいやそれはどうでも。

 あたしは(イメージだけど)、救い小屋のコンセプトを語った。
 簡素な小屋を建てるプラン。
 病人はお寺などを開放して、一定期間治療にあたること。

 「しかし…それでは、洛中の本当に困っている人間だけではなく、近在の単に仕事がない人間も、こう言っては何だがタダ飯を食いに集まりませんか」
 兵部卿様がもっともな意見を述べる。

 「だからこその、治水工事の平行施工よ。
 公共事業で元気な人には働いてもらって、賃金を渡す。
 お金じゃなくって、食料とか着物とか、生活に即、役に立つものでも良いわ。
 飯場みたいな建物を建てて、そこで寝起きしてもらってもいいし」

 ふーん…
 皆は考え込む。
 
 皆が黙ってしまったので、あたしは言葉を続けた。
 「それから、水害の後には疫病が流行るというのは当然のことなのよ。
 汚水も下水も何もかも、ごっちゃになって往来や家屋を流すんだから。
 だから、水害の後は必ず、街も家も綺麗に掃除しなくちゃ」

 「で、京の都ってところは、水はけが悪いのよ。
 こんなに整然と街路が整っている割に、上下水道がない。
 それをどうにかすれば、もっとお風呂も入れるし、トイレだってあんなに面倒じゃなくなるはず!」

 あたしはドンと床を叩く。
 衛生観念が無いのは判るけど、それにしても不衛生すぎる。
 この機会に全部、言うだけは言っちゃうぞ!

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