297 / 307
第十二章 終わらない物語
6.パラダイムシフト
しおりを挟む
あたしを中央にして両隣に主上と東宮が座り(何故だ!)、それを囲むように他の公達が車座になる。
お殿様と元信様のお父様は、若公達の話し合いに爺が首突っ込むのもね、と言って帰っていった。
単に面倒くさいだけと見たね。
「さて。
餅撒きをご覧になった、月子姫から何かお話があるらしい」
内侍さんが文机の前に座ったのを見て、主上が口を開く。
東宮が「先に私から、餅撒きの状況を話そう」と言って、先ほど見た、凄惨な人々の様子を語った。
「この夏の旱魃に伴う不作、鴨川の氾濫による疫病の蔓延により、洛中と一部洛外の民は飢えと病に苦しんでいる。
他の地域は大丈夫なようだ。全国の荘園に人を遣って調べさせたが、京中ほどの酷い天災はなかったようだ」
「私の父上やその上の為政者たちも、鴨川の氾濫には度々悩まされ、治水工事なども行ってきた。
だが、なかなか治まらない。
御仏の思し召しなのだろうか」
主上がため息をつき、手に持った扇子を弄ぶ。
そんなわきゃない!
あたしはぐっと奥歯を噛みしめる。
「治水工事と合わせて、とにかくあの飢えた人々をどうにかしなくちゃ。
今日明日の命も知れない人がたくさんいるように見えたわ。
『救い小屋』を準備して、とりあえずの食事と寝る場所を確保するのが良いと思うの」
「救い小屋?」
皆の視線が集まる。
うーん、この時代、まだその概念が無いのか。
いつ頃からできたのかな。
ま、いいやそれはどうでも。
あたしは(イメージだけど)、救い小屋のコンセプトを語った。
簡素な小屋を建てるプラン。
病人はお寺などを開放して、一定期間治療にあたること。
「しかし…それでは、洛中の本当に困っている人間だけではなく、近在の単に仕事がない人間も、こう言っては何だがタダ飯を食いに集まりませんか」
兵部卿様がもっともな意見を述べる。
「だからこその、治水工事の平行施工よ。
公共事業で元気な人には働いてもらって、賃金を渡す。
お金じゃなくって、食料とか着物とか、生活に即、役に立つものでも良いわ。
飯場みたいな建物を建てて、そこで寝起きしてもらってもいいし」
ふーん…
皆は考え込む。
皆が黙ってしまったので、あたしは言葉を続けた。
「それから、水害の後には疫病が流行るというのは当然のことなのよ。
汚水も下水も何もかも、ごっちゃになって往来や家屋を流すんだから。
だから、水害の後は必ず、街も家も綺麗に掃除しなくちゃ」
「で、京の都ってところは、水はけが悪いのよ。
こんなに整然と街路が整っている割に、上下水道がない。
それをどうにかすれば、もっとお風呂も入れるし、トイレだってあんなに面倒じゃなくなるはず!」
あたしはドンと床を叩く。
衛生観念が無いのは判るけど、それにしても不衛生すぎる。
この機会に全部、言うだけは言っちゃうぞ!
お殿様と元信様のお父様は、若公達の話し合いに爺が首突っ込むのもね、と言って帰っていった。
単に面倒くさいだけと見たね。
「さて。
餅撒きをご覧になった、月子姫から何かお話があるらしい」
内侍さんが文机の前に座ったのを見て、主上が口を開く。
東宮が「先に私から、餅撒きの状況を話そう」と言って、先ほど見た、凄惨な人々の様子を語った。
「この夏の旱魃に伴う不作、鴨川の氾濫による疫病の蔓延により、洛中と一部洛外の民は飢えと病に苦しんでいる。
他の地域は大丈夫なようだ。全国の荘園に人を遣って調べさせたが、京中ほどの酷い天災はなかったようだ」
「私の父上やその上の為政者たちも、鴨川の氾濫には度々悩まされ、治水工事なども行ってきた。
だが、なかなか治まらない。
御仏の思し召しなのだろうか」
主上がため息をつき、手に持った扇子を弄ぶ。
そんなわきゃない!
あたしはぐっと奥歯を噛みしめる。
「治水工事と合わせて、とにかくあの飢えた人々をどうにかしなくちゃ。
今日明日の命も知れない人がたくさんいるように見えたわ。
『救い小屋』を準備して、とりあえずの食事と寝る場所を確保するのが良いと思うの」
「救い小屋?」
皆の視線が集まる。
うーん、この時代、まだその概念が無いのか。
いつ頃からできたのかな。
ま、いいやそれはどうでも。
あたしは(イメージだけど)、救い小屋のコンセプトを語った。
簡素な小屋を建てるプラン。
病人はお寺などを開放して、一定期間治療にあたること。
「しかし…それでは、洛中の本当に困っている人間だけではなく、近在の単に仕事がない人間も、こう言っては何だがタダ飯を食いに集まりませんか」
兵部卿様がもっともな意見を述べる。
「だからこその、治水工事の平行施工よ。
公共事業で元気な人には働いてもらって、賃金を渡す。
お金じゃなくって、食料とか着物とか、生活に即、役に立つものでも良いわ。
飯場みたいな建物を建てて、そこで寝起きしてもらってもいいし」
ふーん…
皆は考え込む。
皆が黙ってしまったので、あたしは言葉を続けた。
「それから、水害の後には疫病が流行るというのは当然のことなのよ。
汚水も下水も何もかも、ごっちゃになって往来や家屋を流すんだから。
だから、水害の後は必ず、街も家も綺麗に掃除しなくちゃ」
「で、京の都ってところは、水はけが悪いのよ。
こんなに整然と街路が整っている割に、上下水道がない。
それをどうにかすれば、もっとお風呂も入れるし、トイレだってあんなに面倒じゃなくなるはず!」
あたしはドンと床を叩く。
衛生観念が無いのは判るけど、それにしても不衛生すぎる。
この機会に全部、言うだけは言っちゃうぞ!
1
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる