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第十章 裁きと除目と薫物合わせ

4.無罪のお祝い

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 それからあたしは昼頃までぐーすか寝ていたのだけど、起きてみると、内侍さんが目の前にいた。
 おっ、と思わず声を上げるあたしに、内侍さんは手をついて深々とお辞儀をした。

 「姫様…無事に冤罪が確定しおめでとう存じます。
 一言、お祝いを申し上げたくて…」

 ぽかんとしていたあたしは内侍さんの涙を見て、慌てて姿勢を正す。
 起き抜けに…良いよ後でで、とか言える雰囲気ではない。

 「いえ…内侍のお陰よ。
 ずっと正確に記録を取っていてくれて、それが冤罪の立証にすごく役に立ったと元信様がおっしゃっていらしたわ」

 あたしが言うと、内侍さんは「勿体ない…」と涙を零す。

 「昨夜も結局徹夜で裁判の書記官させられたんでしょ、疲れているだろうから早く休んで」
 あたしは内侍さんの肩に手を置いて撫でる。
 
 裁判…と言えるかどうか、平成人のあたしにはちょっと微妙だけど…
 裁判官も弁護人も検察もいない、被告と原告が入り混じるような裁きだからねえ。

 ま、やってもいない罪を被せられそうになったのを、やってないときちんと証明したってことで、一応裁判と言っておこう。

 
 着替えていると、今度はたくさんのお祝いが届きはじめた。
 あたしの無罪を祝って、あちこちから送られてくる。
 あ、宝鏡殿の女御様や楓間の更衣様からも来てる。
 
 中宮様や桐花殿の女御様からも届いたのには驚いた。
 関白と太政大臣の娘だよ?
 あたしってかたきじゃないの??

 あたしが不思議に思って式部さんに訊くと
 「姫様への主上の御寵愛が非常に深いので、ご自分のこれからの処遇を考えての保身でございましょう。
 同情して差し上げることはございませんわ」
 と素っ気なかった。

 そうなのか…
 内裏って怖いところだ。
 血統・血縁ですべてが決まっちゃうんだ。

 ずえったいに、入内なんかしないぞ!

 そのうち、今度は屋敷の中全体がざわざわしはじめた。
 何だろうとお散歩がてら部屋を出てみると、お殿様と伊靖君宛てのお祝いが次々に届いているみたいだった。

 どうも、お殿様も伊靖君は昇進するようだ。
 もう情報が洩れてるのか…
 いつの時代も、こういうことって情報戦なんだな。

 「姫様!」
 厨房へ顔を出すと、ゆらちゃんが愛くるしく笑ってくれる。

 「姫様、おめでとうございます!」
 料理長も駆け寄って手を取って伏し拝んでくれる。

 「あ、ありがとう…」
 皆、心配してくれてたんだな。
 ありがとね。

 おめでとうございます、と燃え盛る火の向こうから大きな声で言ってくれたのは、右大臣家の副料理長と、宮中の厨司長だった。

 「あれ?」あたしが訝しく思っていると「今日の晩餐会の準備の打ち合わせで。ここの厨司長・副厨司長、それから東宮殿下の厨司長と共に、料理人総動員で作ります」と宮殿の厨司長は笑って言った。

 おお、ご苦労様です。
 大勢だろうから、大変だね。

 「副厨司長は、新たなお屋敷の厨司長としてお勤めが決まっているので、今日は初舞台です。主菜を任せます」
 料理長が嬉しそうに話す。

 「え?副厨司長は退職するの?」と訊くと「あ、えっと…それはまだ…」とゴニョる。
 何がまだなのよ、さっき新たなお屋敷って言ったじゃないの。

 結局、誤魔化されてしまって、なんだか解らなかった。
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