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第九章 二度目の死と伊都子姫

14.ネバーランド

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 義光はあたしの手を取って自分の額に当てて呟くように言う。
 「魂が抜けかけていて、実際、その後に身体から抜けてしまったのですよね…
 また戻ってこられて本当に良かった」

 顔を上げ、切なく微笑む。
 「月子姫が左近衛中将殿のことを如何に愛していらっしゃるかを、初めて目の当たりにして、これ以上ないほど傷ついたのは確かですが、それでもまたこうしてお話しできてこれ以上の幸せはありません」

 「弟と言われようと、絶対に諦めないと息巻いていた気持ちが、少し落ち着きました。
 いや、諦めてはいないんですけど、何というか…
 今までより冷静に自分と月子姫の距離を測って見られるようになったというか」

 優しくあたしを抱きしめて囁く。
 「これからもずっと、たぶん一生、好きです」
 
 あたしの身体を離して、肩に手を置いたままうつむく。
 「だけど、貴女は一生、私を好きになることはない。
 それでもいいんです。俺が勝手に好きなだけだから」

 「親が決めてきた縁談、受けようと思います。
 父が、右大臣殿から『娘は左近衛中将殿に嫁がせる』と言われたと申してました」

 「月子姫は、私の手の届かない憧れの人だ、ずっとこれからも。
 夜空に輝く月のように」

 あたしは、義光の言葉に涙が零れた。
 ごめんね。好きになれなくて。
 
 「あたしは、こうやって義光と話してるのが好きなんだよ、本当のあたしのありのままでいられて、すごく安心できる。
 乗馬したり、クッキー作ったり、釣殿で話したり、とても楽しかった。
 ずっとそうやって過ごしていけたらいいけど、そういうわけにはいかないよね」

 あたしたちは、自らが望むと望まざるに関わらず、皆、大人になっていく。
 子供でいられる時期は、もう終わりなんだね。

 義光は黙ってあたしをまた抱きしめた。
 ぎゅっときつく抱いて、身を離す。

 「私は結婚しても、月子姫の許へ会いに来ますよ。
 殿下もきっと、そうでしょう。主上もね…
 右近衛大将殿や権中納言殿も、そうかもしれないな。
 私たちは永遠の子供ですよ、月子姫の御前では」

 ネバーランドか。
 あたしは、ウェンディではなくて、ピーターパンなのね。

 ふふっとあたしは笑った。
 そうだね、そうやってずっと皆で歳を重ねていけたらいいね。
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