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第七章 宮中

27.右大臣からの話

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 伊靖君は「あ、はい。行くぞ、義光」と言ってさっさと席を立つ。
 義光はしばらくグズグズしていたが、「民部大輔!」「義光!」と二人に怒られてようやく重い腰を上げた。
 
 二人がいなくなると、元信様はあたしの手を引いて御帳台に入り、人払いした。
 な、なにかしら…ドキドキしちゃうわ。

 「改めて、姫、今日はお疲れ様でした。
 急に人数が増えて、驚かれたでしょう」
 とあたしの前に座り、手を伸ばして髪を梳く。

 「はあ…わたくし、そもそも皆様がいらっしゃること自体、存じませんでしたので…
 驚き慌てましたわ」
 と言うと、元信様は御帳台の端に山と積まれた、未開封の手紙を見てくすくす笑う。

 「本当に愉快な方だ。
 皆様が、姫に会いたいと焦がれる気持ちもわかりますね。
 こんなに素敵で楽しくて可愛らしくて、また賢く聡い魅力的な女人を、私が独り占めできるなんて…本当に良いのだろうかと思ってしまいます」

 なんなの、この気味悪いほどの褒めちぎりぶり。
 何か、魂胆が…?

 あたしはちょっと身を引いて
 「何ですの?わたくしに何か、無茶なご要望でも…?」
 と訊く。

 元信様は
 「いえいえ、私の本心からの言葉ですよ」
 と苦笑してあたしに近づき、あたしの両手を取った。

 「今朝早く、右大臣殿が私の屋敷にお文をお寄越しくださいまして。
 会議の前に話があると。
 急いで参内し、右大臣殿の御座所に赴いて、昨夜の姫からの言葉をお聞かせいただきました。
 私の、左近衛中将の、妻になりたいとおっしゃってくださったと。
 主上と東宮殿下、その他の公達の求婚には、お断りして欲しいとおっしゃったと」

 ぼろぼろと涙を零す。
 あたしは驚いて「あの…大丈夫ですか」と間抜けな質問をしてしまう。

 元信様はあたしの言葉に、泣きながら頷いた。
 「大丈夫です、嬉しすぎて…
 今朝から気が緩むと涙が止まらないのです」
 
 そりゃ大変だねえ…あたしはちょっと呆れる。

 「主上と東宮殿下の求婚を断るとなれば、右大臣殿も私も、只では済まないと思います。
 殺されないまでも、流刑くらいにはなるかもしれない。
 右大臣殿は、自分は伊都子の為に茨の道を行く覚悟を決めた。
 そなたも伊都子とともに生きる、覚悟を決めてくれるかと」

 え…
 背筋がすっと冷えた。
 
 「私は、今でも左大臣である父とはほぼ絶縁状態ですが、これで完全に勘当になるでしょう。
 私のような、一族の恥さらしとは縁を切った方が良いのです。
 私も姫を得られるなら、むしろそうしてもらいたいと思っています」

 ちょっと待ってよ!
 何でそんなに…大ごとになるの?!

 「だ…って、入内の話が無くなった時には、元信様がおひとりで事後報告にいらっしゃって、それで終わりだったんでしょう…
 どうして、そんなに事が大きくなってしまうの?」

 あたしが元信様にすがるように訊くと、元信様は懐紙で涙を拭き、あたしを微笑んで見つめる。
 「それが、この封建社会の掟ですよ。
 姫はご存じないかもしれないが…」

 「だがしかし、まだ本当にそうなるかどうかは、不確定要素が多すぎて判りません」
 元信様は昏い表情で呟くように言う。
 
 そうなるって、どうなること?
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