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第七章 宮中
20.日課の散歩にて
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翌朝、あたしが夢を見ることもなくぐっすり眠って、気持ちよく目を覚ますと、またも手紙の山が築かれていた。
ほんっと皆様、筆まめでいらっしゃるわぁ…
あたくし、お返事は差し上げませんことよ、ほほほ。
だって面倒なんだもん!!
朝ご飯を食べて、よっこらしょと重い身体を持ち上げる。
散歩しよう。
食べ過ぎたわ。
部屋のある東の対屋を出る。
縫姫の局の前を通ると「伊都子姫様!」と縫姫が出てきた。
「縫姫、一昨日は遅くまでお付き合いさせてしまってごめんなさいね。
昨日はお仕事にならなかったのでは?」
とあたしが労うと、縫姫はそんなことより、とあたしの手を取る。
「昨日の検非違使庁のお役人からのお話の件、聞きましたわ。
公達のご活躍で、伊都子様の無罪が証明されたと…
ほんに、ようございました」
涙を流して喜んでくれる。
「ありがとう、縫姫にもずいぶんご心配をおかけしちゃったわね。
でも、相変わらず早耳でいらっしゃるのね。
わたくしに中宮殺害未遂の容疑がかかっていたことだって、誰も言わなかったのに…」
あたしが不思議に思っていたことを言うと、縫姫は真っ赤になった。
「いえ、決して詮索をしているわけではございませんの。
ただわたくしは、伊都子姫様を取り巻く華やかな世界に憧れていて…」
ははあ、誰か情報源がいるんだな。
まあ、伊靖君か、内侍さんってところかな。
「責めているわけではありませんのよ。
わたくしなんぞに憧れてくださるなんて、嬉しいばかりですわ」
あたしが言うと、縫姫は恥ずかしそうに笑った。
可愛いなあ。
年上だけど。
あたしは母屋の周りの廊下をぐるっと回って、北の対屋に向かった。
厨へと足を向ける。
厨に「こんにちは~」と顔を出すと「伊都子姫様!」とゆらちゃんが可愛く笑ってくれる。
「一昨日は、皆さんにすごい残業させちゃってごめんなさいね」
とあたしは謝りながら、皆を見回す。
と。
あれ?
どこかで見た人が会釈する。
誰だっけ。
料理長が「宮殿の副司厨長でいらっしゃいます、今は司厨長になられましたが」と紹介してくれる。
あっそうか!
楓間に最初の方に司厨長と、挨拶しに来てくれた人だ!
「お邪魔しております。
一昨日は、大変でございましたね、私どもも酷い有様でございましたが…」
と暗い表情になって言う。
「副司厨長殿は、主上や東宮様の命でよく右大臣家にお越しになって、姫様の創作料理の調理法を学んでいらっしゃったのですよ。
この度は司厨長になられて、わざわざご挨拶にいらっしゃってくださったのです」
「ここには、宮廷をも凌駕する、珍しい食材が集まって居りましてね…
しかも、伊都子姫様のご考案だという調理器具も、見たことも聞いたこともないものばかりで。
私も大変勉強になります」
新司厨長はニコニコして言う。
東宮やその他公達が、争うようにして珍しい食材を送りつけてくるからねえ。
まあ、有り難いっちゃ有り難いけどね。
その時「姫様!ここにいらっしゃいましたか!」と式部さんが慌てて呼びに来た。
「東宮様を始め、宮中の若公達が列をなしてお屋敷に向かって居られるとのご連絡が入りました!
お早くお部屋へお戻りくださいませ!」
ええ?
だってまだ昼過ぎじゃん~~
何考えてるのよ、あいつらはっ!
あたしが心底嫌そうな顔をすると、右大臣家と宮廷の司厨長は笑いだした。
「さあ、また私どもは忙しくなりますな!」
我が家の司厨長が腕をパンと叩いて気合を入れる。
「及ばずながら、お手伝いいたしましょう!」
宮廷の若き司厨長も腕まくりした。
誠に相済みませんが、よろしくお頼申します…
あたしは式部さんに引きずられるようにして部屋へ戻った。
ほんっと皆様、筆まめでいらっしゃるわぁ…
あたくし、お返事は差し上げませんことよ、ほほほ。
だって面倒なんだもん!!
朝ご飯を食べて、よっこらしょと重い身体を持ち上げる。
散歩しよう。
食べ過ぎたわ。
部屋のある東の対屋を出る。
縫姫の局の前を通ると「伊都子姫様!」と縫姫が出てきた。
「縫姫、一昨日は遅くまでお付き合いさせてしまってごめんなさいね。
昨日はお仕事にならなかったのでは?」
とあたしが労うと、縫姫はそんなことより、とあたしの手を取る。
「昨日の検非違使庁のお役人からのお話の件、聞きましたわ。
公達のご活躍で、伊都子様の無罪が証明されたと…
ほんに、ようございました」
涙を流して喜んでくれる。
「ありがとう、縫姫にもずいぶんご心配をおかけしちゃったわね。
でも、相変わらず早耳でいらっしゃるのね。
わたくしに中宮殺害未遂の容疑がかかっていたことだって、誰も言わなかったのに…」
あたしが不思議に思っていたことを言うと、縫姫は真っ赤になった。
「いえ、決して詮索をしているわけではございませんの。
ただわたくしは、伊都子姫様を取り巻く華やかな世界に憧れていて…」
ははあ、誰か情報源がいるんだな。
まあ、伊靖君か、内侍さんってところかな。
「責めているわけではありませんのよ。
わたくしなんぞに憧れてくださるなんて、嬉しいばかりですわ」
あたしが言うと、縫姫は恥ずかしそうに笑った。
可愛いなあ。
年上だけど。
あたしは母屋の周りの廊下をぐるっと回って、北の対屋に向かった。
厨へと足を向ける。
厨に「こんにちは~」と顔を出すと「伊都子姫様!」とゆらちゃんが可愛く笑ってくれる。
「一昨日は、皆さんにすごい残業させちゃってごめんなさいね」
とあたしは謝りながら、皆を見回す。
と。
あれ?
どこかで見た人が会釈する。
誰だっけ。
料理長が「宮殿の副司厨長でいらっしゃいます、今は司厨長になられましたが」と紹介してくれる。
あっそうか!
楓間に最初の方に司厨長と、挨拶しに来てくれた人だ!
「お邪魔しております。
一昨日は、大変でございましたね、私どもも酷い有様でございましたが…」
と暗い表情になって言う。
「副司厨長殿は、主上や東宮様の命でよく右大臣家にお越しになって、姫様の創作料理の調理法を学んでいらっしゃったのですよ。
この度は司厨長になられて、わざわざご挨拶にいらっしゃってくださったのです」
「ここには、宮廷をも凌駕する、珍しい食材が集まって居りましてね…
しかも、伊都子姫様のご考案だという調理器具も、見たことも聞いたこともないものばかりで。
私も大変勉強になります」
新司厨長はニコニコして言う。
東宮やその他公達が、争うようにして珍しい食材を送りつけてくるからねえ。
まあ、有り難いっちゃ有り難いけどね。
その時「姫様!ここにいらっしゃいましたか!」と式部さんが慌てて呼びに来た。
「東宮様を始め、宮中の若公達が列をなしてお屋敷に向かって居られるとのご連絡が入りました!
お早くお部屋へお戻りくださいませ!」
ええ?
だってまだ昼過ぎじゃん~~
何考えてるのよ、あいつらはっ!
あたしが心底嫌そうな顔をすると、右大臣家と宮廷の司厨長は笑いだした。
「さあ、また私どもは忙しくなりますな!」
我が家の司厨長が腕をパンと叩いて気合を入れる。
「及ばずながら、お手伝いいたしましょう!」
宮廷の若き司厨長も腕まくりした。
誠に相済みませんが、よろしくお頼申します…
あたしは式部さんに引きずられるようにして部屋へ戻った。
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