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第六章 運命の歯車

9.超がつく不器用な告白

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 「月子姫、申し訳ありません。
 お文を頂いて、居ても立ってもいられず…」
 慌ただしく部屋へ入ってくると、あたしの前に座って手をついた。

 「左近衛中将にはちゃんと申してきました。
 後から来られるそうです」
 
 「庚申待の翌日、たくさんの贈り物をありがとうございました」
 とあたしが笑って言うと、権中納言様は目を細めた。

 「いいえ…お気に召しましたでしょうか」
 「とても嬉しかったですわ」

 「あの…わたくしの文が、何かお気に障りましたでしょうか。
 申し訳ありません」
 あたしはしおらしく手をついて頭を下げる。

 「ち、違うんです違うんです。
 私は月子姫に拒絶されたような気がして、自分でもよく判らないほどに傷ついて…よく考えたら、月子姫は殿下の御要望にお応えになっただけなのに、どうしてしまったのか」

 権中納言様は両手であたしの手を取り、自分の胸の前で握る。
 「こんなことを申し上げるのは気恥ずかしいのですが…
 私は最近、月子姫のことばかり考えてしまって」

 「数式と向き合っているときにも、貴女の顔が紙面をちらついて、感情に流されてしまって論理的に考えられない。
 挙句の果てに、ろくなご連絡も入れずに押しかけて…
 自分で自分の行動がまったく理解できないのです」

 そんなこと、あたしに言われても…
 どーしろっつうの。

 しかしイケメンは困惑したり悩んだりしている姿もイケてますねえ…
 あたしは思わず見とれてしまった。

 「すみません、こんなことを言われても困りますよね…
 本当に私はどうしてしまったのでしょう…女人に興味を持ったことなんてなかったのに」
 あたしが何と言っていいか判らず無言でいると、権中納言様はうなだれる。
 
 困ったなあ…
 これって、すごくつたないけどな愛の告白ってやつだよね…
 しかもつきあって欲しいとかではなくて、自分の気持ちを吐露しただけっていう、対応に困るパターンだわ。

 なあんて言えるほど、あたしも経験があるわけじゃない。
 というか、経験なんてまるっきりない。
 告られたことどころか、男子と話をしたことすら殆ど無かったんだから…

 とりあえず誤魔化そう。
 あたしは居住まいを正して、権中納言様に向き合った。

 「権中納言様にそんなふうに思っていただいて、とても光栄でございますわ。
 ありがとうございます。
 これからも数学バカ同士、仲良くして参りましょう。
 よろしくお願いいたします」

 言ってにっこり笑うと、権中納言様は眩しそうに目を細めてあたしを見つめた。
 「その素敵な笑顔…をずっと見ていたい。
 数学でお話しできるなら…それも良いか…」

 朴訥な感じが元信様に似ていて、あたしはちょっとキュンとしてしまう。
 「せっかくいらしていただいたのですから、幾望会での催しの件、相談に乗っていただけますか?
 四則演算ではなくて、こういう遊戯なんですけど…」

 と言って御帳台に入る。
 権中納言様はあたしの手を取って、エスコートしてくれる。

 文机の上に置いてあった紙片を手に取り、権中納言様に手渡す。
 権中納言様は「拝見します」と言って、灯りに近づけて熱心に見た。
 
 「これは…?」と顔を上げて訊く。
 「『数独』と呼ばれるものです。四則演算では一人でやるので面白くないかなあと思いまして。
 これをチーム戦でやったらいいかなと思いつきましたのです」

 「数独…姫、やり方を、教えてください!」
 もう夢中になってる。
 なんか、可愛いなあ。

 あたしは権中納言様の隣に座って、解き方を教えた。
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