上 下
133 / 307
第五章 四人きょうだい

24.庚申待の終わり

しおりを挟む
 やがてしらじらと夜が明けてきて、庚申待の長い夜は終わった。
 
 「こんなに楽しい庚申待は初めてだ。
 また次回も、何とかして宮中を抜け出してきますよ」
 東宮があたしの手を取って口づけた。

 やめろ、そんで次回とか絶対くんな。
 あたしは東宮の手を振りほどく。
 
 地位も高くて権力のある東宮に、こんなに失礼なことを何回もしてるのに、どうしてこの人は気づかないふりをするんだろう。
 怒るでもなく、かと言ってやめるわけでもない。
 何度でも同じことをする。

 あたしに見せている通りの人なんだろうか。
 そんな疑問が一瞬、頭をかすめる。
 本当は何か…たくらみがあって、こういう単純な人のふりをしているの?

 まさかね。
 あたし自身に、宮廷で影響を及ぼすような力があるわけじゃない。
 右大臣である父親だって失脚して、閑居の身だし。

 右近衛大将様もあたしの両手を取って、顔を近づける。
 だから近いんだよあんたはいちいち。
 近眼なの?

 「月子姫は今、お馬の稽古をなさって居られるとか。
 ぜひ、一緒に都の外まで遠乗りいたしましょう。
 もし宜しければ民部大輔ではなく、私が乗馬をご教授申し上げても良いのですよ」

 「ちょっ…」
 義光が慌てたように声を上げる。
 「ははは。ぜひご一考くださいね、ではまたお会いしましょう」
 と笑って東宮の後に続き、外へ出て行く。

 驚いたことに、権中納言様もあたしの手を取る。
 左手に巻かれた、白い包帯が痛々しい。

 「火傷、早く治られますように。
 お怪我をさせてしまって、本当に申し訳ありません」
 あたしが謝ると、権中納言様は「大丈夫です」と微笑んであたしの手を右手でぎゅっと握った。

 「お名残り惜しいです、殿下ではないですが、こんなに楽しい庚申待は今までに経験がありません。
 本当にありがとう。
 また、来てもよろしいですか」

 あたしは、一瞬、答えに窮する。
 でも、事情を知らない水無月会のメンバーや元信様の前で、首を縦に振るしかなかった。
 権中納言様は本当に嬉しそうににっこりする。
 
 表情豊かなイケメンって無敵だなあ…
 つい見惚れちゃうよ。

 押しかけ公達が三人やっと帰ると、部屋の空気がはあーっと弛緩した。
 「つっかれた~…」と、皆、呟く。

 「お疲れ様でした。
 きょうだい会の予定だったのに、ごめんなさいね、わたくしのせいね」
 あたしが謝ると、伊靖君と義光が慌てたように言う。

 「いえ、私たちが、全部しゃべってしまったのがいけなかったのです。
 あまりにも矢継ぎ早の質問攻めに、すべてゲロってしまうしかなくて…」

 あたしの横で、元信様がプッと噴き出す。
 「凄かったですね、陛下と殿下と右近衛大将様が我先に二人を攻撃してましたね。
 あれは仕方ないですよ。
 中宮も関白殿も驚いて、止めに入っていらっしゃいましたよ」

 「水無月会は、また開催しましょうね。
 今日はこれで閉会。
 おやすみなさい」

 やっと朝だよ~
 もうこんなのが60日毎にあるとか、ホントやってられないわぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

鶴の独声

二ノ前ト月
ファンタジー
よくある異世界転生ものです。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

処理中です...