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第五章 四人きょうだい

17.庚申待・6

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 女房さん達がお膳を捧げ持って入ってくる。
 東宮は嬉しそうに「お、今夜は何でしょうね」とあたしに笑いかける。

 「今夜のお夜食は、玄米粉を使ったビーフンでございます。
 胡麻油で軽く炒めて、椎茸のお出汁で煮込みました。
 上に載っているのは、野菜の炒め物です。
 塩分は控えめ、ビタミン豊富な健康食ですので、残さずお召し上がりくださいね」

 「ビーフン…?とは何ですか?」
 あたしの隣に座って、右近衛大将様があたしの顔を覗き込むように訊く。
 いちいち、距離が近いんだよ…

 「ビーフンとは、米の粉を麺にしたもので元は中国…いえ唐の食材…だったかな?
 うどんよりさっぱり召し上がれるかな、と思います」

 そこでお酒も注がれたのを見計らい「では東宮様、一言お願いいたします」と丸投げしてやった。
 東宮は動じずにこにこ笑いながら盃を持つ。

 「これほど心躍る庚申待の夜は初めてです。
 三尸虫が天帝に告げ口する暇など与えられないほど、皆で楽しく過ごしましょう。
 月子姫と水無月会に、乾杯!」

 乾杯、と皆で声を揃える。

  「この、出汁というのが絶品ですね!
 野菜などというものは、美味しくないものだと思っていましたが、調理法でこんなにも変わるのですね」
 
 右近衛大将様があたしの方を向いて言い、権中納言様も頷いて、隣の席にいる縫姫に何か話しかけている。

 「ビーフンというのは初めて聞きました。ビタミンというのもそうなのですか?
 唐の料理ですか…
 月子姫は、どこでこのような知識を得られたのですか?」
 無邪気な表情で右近衛大将様が訊いてくる。
 
 うっ…それは訊かんでくれっ…

 皆の注目が集まるのが判る。
 水無月会のメンバーは先ほどの、権中納言様の質問のこともあったせいか、余計に注目しているように感じる。

 「常にアンテナを張っていれば、情報はどこからでも入ってきますわ。
 わたくしは、シェフや大工の棟梁、鍛冶職人、厩舎のスタッフなどともよくおしゃべりいたしますの。
 彼らの専門的な知識は、わたくしたちが書物で得る知識を凌ぐ、想像を超えた深さ広さですのよ」

 あたしは動揺を隠そうとして、現代語を混ぜて話してしまう。
 皆は判ったような判らないような顔で、はあ…と頷く。
 
 義光だけはニヤニヤしながらあたしの顔を見ている。
 後で私刑決定。

 「いいや、でも、月子姫。
 先ほどの質問に戻ってしまいますが、それではあの算学の知識は得られない。
 どこからでも入ってくる知識ではない。
 私でも知らない書物が存在するのか、あるいは仙人のような師匠がいらっしゃるとしか」

 うおーっ!そこは突っ込むな!頼むから!
 権中納言様の言葉に、あたしは内心身もだえる。

 「権中納言が知らない算学の書物なんてあるのか?
 だとしても、それを月子姫が何故知っている?」
 東宮も興味津々、といった感じであたしの方へ身を乗り出す。

 困った。
 あたしは頭を抱える。

 伊都子姫史上、最大のピンチ!
 
 どうしよう。

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