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第四章 上達部との交流

22.第一回幾望会・2

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 夕方、先触れの声と共に、右大臣家に続々と牛車が到着する。
 貴公子たちが少し緊張の面持ちで、従者に案内されながら入ってくる。

 参加者たちは互いに顔見知りのようで、すぐに打ち解けた雰囲気になる。
 元信様も親しげに言葉を交わしている。

 こういうふうに、あたしの知らない元信様の一面を見られるのがとても嬉しい。
 宮中ではこんな感じなのかな。

 「すごいですよ、月子姫。
 何事かと右大臣家の前に、民が集まってきています」

 笑いながら、最後に東宮が入ってくる。
 今日は束帯で、その姿は、…やっぱり貫禄があって品があって、他の人にはないオーラがあった。

 今日、集まったのは、元信様を入れて総勢六人。
 あたしの身分の高さから考えてあまりにも地位の低い人は呼べないっていうのと、あまり人数を増やすと稀少価値がなくなるとの理由から。だそうだ。

 さっき、元信様が、東宮の文を見ながら呟いていた。
 「宮中の勢力図にも配慮なさって居られるようだ。参加者に偏りがない。
 …さすがに、東宮殿下であらせられるな」

 バカじゃないってことね。
 ポップでライトな日頃の言動は、カモフラージュなのかもね。

 さすがに今日は、あたしの周りに立てまわした几帳をどかしたりすることなく、ゆったりと畳の上に座る。

 目の前のお膳から取った酒杯に、式部さんがお酒を注ぐ。
 それを合図に他の人たちの盃にもお酒が注がれた。

 「今日は『幾望会』に集まってくれてありがとう。
 この会は、右大臣家の大君おおいぎみ、伊都子姫を中心とした社交会です。
 と言っても、中宮や女御の開かれる会のように堅苦しいものではありません」

 ああ、要するにこれは、あたし主催の所謂「サロン」なんだ。
 あたしは何となく納得した。

 別にあたしは主催したいとか思ってないけどね!
 東宮があたしんちで遊びたいだけなんだけどね!

 「皆で、伊都子姫の自由闊達な創意工夫あふれる、楽しいこと美味しいものを体験しましょう、というのが趣旨です。
 ですから皆さんも構えず、稀代の愉悦発明家、伊都子姫と楽しく同じ時間を過ごしましょう」
 
 なんだそりゃ。
 わけわからん。

 「では主催の伊都子姫から一言いただきます」

 えっ?
 あたし?

 やだーっ!無理無理無理!
 慌てるあたしに、几帳を少し移動して東宮が顔をのぞかせる。
 あたしが思いきり首を横に振っているのに「一言でいいですよ」と笑ってまた几帳を閉じた。

 仕方ない。
 あたしは口を開く。
 
 「今日はお集まりくださいましてありがとうございます。
 わたくしも、皆さまと共に楽しませていただきたいと存じております。
 行き届かない点は、どうぞお許しくださいね」

 伊都子姫と幾望会に乾杯、と東宮が杯を掲げる。
 乾杯、とあたしたちも唱和する。

 そこへ、料理長がお膳を持った女房さん達を従えて入ってきた。

 膝をついて平伏し口上を述べる。
 「本日は、第一回の幾望会の開催、おめでとう存じ奉ります。
 皆さまからお預かりいたしました、枝豆料理をお持ちいたしました」

 お、さっそく、皆さんのレシピが見られるのね!
 って、元信様も考えてきたの??

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