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第三章 賀茂祭・露頭の儀

23.左近衛中将様の事情

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 左近衛中将様は
 「姫…なんで小袖したぎなんですか?まさか、民部大輔に?」
 ぎりっと歯ぎしりしながら、あたしを抱きあげる。

 うわ、お姫様抱っこだよ!!
 重いよあたし、やめてっっ!

 「やだ、重いからダメ!」
 あたしはバタバタ暴れる。
 「ちょっ…姫!暴れないで!
 十二単がなければ大丈夫だから!」

 騒ぎながら部屋に入ると、衛門さんが「姫様!…これはいったい…」と駆け寄ってくる。
 部屋の中に、あたしの十二単だけが散らばってるんだから無理もないけど…
 「お酒飲んでたら暑くなっちゃったから」
 あたしが言うと、左近衛中将様は「なんだ…ご自分で脱いだんですか…」と脱力したように言った。

 そのまま御帳台に入ると、褥にあたしを横たえる。
 「民部大輔の狼藉かと…もう少しで抜刀するところでした」
 いや、でも、充分狼藉だったな、民部大輔あいつめ…とひとりごちる。

 あたしの髪を優しく撫でて微笑む。
 「今日はお疲れになられたでしょう。
 おやすみなさい。私が宿直をいたしますから」

 あたしはなんだかすごく安心して、一日の疲れと酔いですうっと眠ってしまった。

 夜中、喉が渇いて目を覚ますと、左近衛中将様がすぐ横に座っていて「姫、どうなさいましたか」と顔を覗き込んできた。
 
 「え…ずっとそこに?」
 あたしがビックリして訊くと
 「姫の可愛らしい寝顔を眺めていました」
 と照れたように笑う。

 えーヤダっ
 ヨダレとか垂らしてなかったかしら…

 「姫、流鏑馬神事からこっち、全然来られなくて申し訳ありません。
 いろいろと…あって」
 あたしの手を取り、自分の額に押し付ける。

 「一番に、これだけは申し上げておきたい。
 私は、内大臣の姫君と結婚する気はありません。
 妻は貴女だけです。
 それは絶対に変わることはありませんから」

 「ただ、私がそれを押し通すことによって、いろんな所に軋轢が生まれるのも事実で…
 父からも右大臣の姫とだけ結婚するというなら自らの力で出世していけと言われ、今までは左大臣の息子ということでサボっていた業務もするようになって」

 ああ、そうなんだ…
 左近衛中将様、大変な思いして、ここに来てくれてるんだ。

 「主上からも、なんだか様々な仕事を申しつけられるようになって…
 音曲の催しなんて、私は奏者で出席したことなどなかったのに、急に笛を吹けとおっしゃられて」

 うーんそれは…
 東宮によれば、主上のヤキモチらしいけど。

 「主上のお気持ちは、私もずっとお側にいて存じていますから…
 姫、思いあがったことを言うとおっしゃらないでくださいね。
 主上は私に、嫉妬なさって居られるのではないかと。
 姫が私の流鏑馬を、屋敷の方々にもお忍びでしかも徒歩という、右大臣家の姫にあるまじき手段で観に来てくださった」

 「私もあまりに嬉しくて、その場で姫を連れ去るようにして帰ったり。
 その後一番の射手になったあとの下賜の要望を訊かれたとき『私のお転婆な許嫁』などという言い方をしてしまったので、良くなかったのかもしれないと思ったりしたのですが」

 あー、そうだよ、それ火に油注いでるかもね。
 あたしは心の中でうんうんと頷く。
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