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第三章 賀茂祭・露頭の儀

13.とんでもない同乗者

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 行直さんの後に、また誰かが来た。
 「あ、わたくしですわ」と衛門さんが手紙を受け取る。
 
 開けて読んで、衛門さんの顔がぱっと明るくなる。
 「え、なになに?どうしたのっ?」
 あたしは気になって前のめりになる。

 「あの、わたくしの恋人がすぐ近くに来ているようで…
 お姫様のお許しがあれば、ここで失礼させていただけないかと…」
 恥ずかしそうに手紙で顔を隠しながら答える。

 恋人がいたのね、まあ積極的。
 現代っ子な感じだなあ、仕事早退してデートか。
 ま、いいや。
 今日は無礼講ね。

 「良いわよ、楽しんでいらっしゃいな」
 あたしは快く承諾した。
 なかなか好きなときに会えないもんね。
 
 恋人の車がすぐ近くに寄せて停まった。
 背の高い男の人が来て、あたしにお礼を述べる。
 ふーん。ちゃんとした人だな、良かった。

 衛門さんが行ってしまうと少輔さんと二人。
 5人乗ると窮屈だった車も、二人だとなんかちょっと寂しいなあ。

 他の車はぎゅうぎゅうのままだろうから、誰か呼ぶか。
 あたしは横の窓の御簾をあげて顔を出し「誰か、こちらの車に来ない?二人くらい大丈夫よ!」と大きな声で言った。
 背後で少輔さんが「姫様!外へ顔をお出しになるなんて!」と慌てて着物の裾を引く。

 その時「ほう、そうですか、では私が乗らせていただきましょう」と若い男の人の声がして、衛士えじが止める声も聴かずに誰かが乗り込んできた。

 誰っ?!

 あたしと少輔さんは咄嗟に扇で顔を隠す。
 割と大柄な男の人。
 オレンジ色の束帯で、太刀を差している。

 「伊都子姫、お久しぶりです。
 私をお忘れですか」
 と快活な声で言う。
 少輔さんがはっと息を飲む。

 「東宮様…!」

 東宮?
 …って皇太子?!
 次期天皇じゃん!

 今上きんじょう天皇の弟宮おとみや
 今上天皇には皇子みこがまだいらっしゃらないから、弟宮が東宮になっている。
 と内侍さんから聞いた。

 「流鏑馬神事に、治部大輔と二人でいらっしゃってたでしょう。
 左近衛中将とさっさと消えちゃった、あの劇的な場面を私も見ておりましたよ」
 砕けた口調で言って、はははと笑う。
 明るい人なんだな。

 「どこへ行けばいいんだ」
 と外でざわざわと騒いでいる声がする。
 そうだよね、皆困るよね。

 「東宮様、お久しぶりでございます。
 せっかくいらしてくださったのですから、お話し申し上げたい気持ちは山々でございますが、急にこのようなお振る舞いはわたくしどもも、家来も困じま」

 「姫が誰か乗れとおっしゃったんでしょう?
 別に、右大臣家で良いではないですか。
 お送りいたしますよ」

 なにがっ!送るだっ!
 勝手に乗り込んできて、人が言い慣れない言葉を駆使して降りろと言ってるのに、話の途中で被せやがって!
 「それは…ちょっと」と言いかけると「まあ、良いじゃないですか。生き返ったお話なんかも聴きたいと思ってたんですよ」と言って、外の衛士に「右大臣家へ」と言った。

 なんなの、もう!
 あたしは東宮の失礼さ加減に、頭に来て黙った。

 牛車は動き出す。
 右大臣家へ向けて。
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