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第三章 賀茂祭・露頭の儀

10.路頭の儀・1

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 翌日は朝から皆、大騒ぎだった。
 あれがない、これがないと騒いでいるかと思えば、こんなところにこんなもの置いたの誰っと大声が聞こえる。
 皆自分の準備で大忙しで、あたしはぽつんとひとりで置いとかれていた。
 一人だけ壺装束に着替えた式部さんが、急いであたしのところへ来てくれて、着替えを手伝ってくれる。

 式部さんは今日は宿下がりで、会場まで一緒に行ってそこで車を降りて、家族と合流するらしい。
 式部さんは実は、5つになる男の子のお母さんだそうで、息子さんと一緒に路頭の儀を見るんだって。

 「夫は子供が生まれた直後に亡くなりまして。
 わたくしが外へ出て働かないと、収入がないと申しますか…
 普段は姉の家で預かってもらっております。
 姉の子供たちと一緒に育っているという感じですわ」

 ゆっくりしてきて、と言いたいところだけど、あたしも式部さんがいないと生活が回らない。
 しかし、あたしよりも年上とはいえ、そんなに年齢が離れている訳じゃないよね…
 お子さんとも離れて働いて家計を支えて、偉いなあ。

 おおわらわの準備が終わり、皆で車に乗り込む。
 あたしの車は大きい牛車で、ぎゅう詰めだけど5人乗った。
 あたし、式部さん、内侍さん、衛門さん、少輔さんが同乗する。

 今日もよく晴れて暑い。
 皆、おしゃれして厚着しているので、くっついて座っていると余計に暑さが増す。

 先触れの声が大きくゆったりと響き、牛車がゆっくりと動き出す。
 右大臣家の門から、華やかな幾輌もの牛車が列をなして出る。
 都の大路は、今日もにぎやかだ。
 今日は牛車の中なので見ることはできないけれど、雑踏にいる感じがとっても心地よい。

 誰もまともに朝ごはんを食べられなかったので、牛車の中でお菓子などをつまむ。
 女子トークも楽しい。
 汗をかきかき扇子でバタバタ仰ぎながら、ゆっくりゆっくり進む牛車の中で、大した話でもないのに盛り上がる。

 少輔さんは端正な見た目を裏切る、おちゃめな性格の人だった。
 お殿様のものまねをして、あたしたちを大笑いさせる。
 あたし、現代ではとにかく孤独で、こんなふうに友達と笑い合うなんてしたことなかったから、涙が出るほど嬉しかった。

 本格的にお腹が空いてきたぞ、というころ、やっと車は昨日から場所取りしてあった右大臣家の家紋の旗が立っている場所に着いた。
 御簾があげられ、風が通る。
 
 式部さんが待ちきれないように、市女笠を被って「では姫様、失礼いたします」と後方の御簾を全部上げて、従者に手を取られて外へ出た。
 あたしたちは手を振って見送った。
 親子でいい時間を過ごしてね!
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