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第二章 賀茂祭・流鏑馬神事
9.棟梁との会見と、返事の返事
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それから、たまたま手が空いていたという大工の棟梁を呼んでもらって(こちらから出向くのはおかしいと皆さんに止められた)、料理長同様、震えながらやってきた棟梁と御簾越しに、厨房の改装について話し込んだ。
棟梁は最初、あの厨房では不衛生だとあたしが言っても「何がいけないんですかい」と、本当に理解しかねるといった様子で、首をひねっていた。
あたしは目に見えない菌やウィルスを持ち出してもダメだろうと考えを替え、ネズミやG(名前を言いたくない)がもたらす病気について説いた。
いろいろと納得はしていないようだったが、あたしの熱意に押され「厨の長と話し合ってみますわ。なんとかうまくいくと良いけどな」と請け合ってくれた。
「お姫さんはお殿さんと北の方に言っといてくださいますかい。
勝手には俺らもやれねえんで」
と言われ、それもそうかと思って
「判ったわ、任せておいて」
と頷いた。
棟梁がぺこぺこしながら部屋から出て行くと、侍女さんたちがぱっと来て床を綺麗に拭いた。
「姫様…よくあのような者どもとお話あそばせますこと…」
内侍さんがと驚いたように言った。
「わたくしには、あの者の言葉が半分も判りませなんだ…」
と衛門さんも頷いて呟いた。
あなた方とあたしとでは、出自が違うのさ。
あたしは自嘲気味に思った。
あなた方だって右大臣家の姫の女房になれるくらいの、そこそこのお家のお嬢様方なんだから、庶民中の庶民のあたしとは生まれつき違うんだよ。
そこへ、式部さんが手紙を持って入ってきた。
「姫様、左近衛中将様から、お文が参りましたわ」
えっ?さっき返事だしたよ?
驚くあたしに、内侍さんが袖で笑いを隠しながら言った。
「お返事のお返事でございますわね。
姫様のお文がよほどお嬉しかったのでございましょう」
あたしはドキドキする心臓を持て余しながら、式部さんから手紙を受け取って開いた。
いつもみたいに綺麗にお花を巻きつけたりとかしてない。
なんか、素っ気なくない…?
ちょっと不安になる。
後で内侍さんに訊いたら、微笑んで教えてくれた。
「お文の演出の一つでございますわ。
取るものもとりあえず急いでお返事を書いたので何も装飾などが間に合いませんでした、という意味でしょうか」
『終わったらすぐに伺います。
天翔ける馬があったら良いのに。
貴女の許へまっすぐに飛んでいきたい』
あたしはノックアウトされてしまって、手紙に顔を埋めた。
耳まで真っ赤になってるのが自分でもよく判る。
恥ずかしくて、顔があげられない。
式部さん達は目配せをして、御帳台からそっと出て行った。
うう…気が利く女房さん達…ありがとう。
あたしはそれから、一文字一文字の筆の運びや墨のかすれ具合まで覚えてしまうほど、何度もなんどもその手紙を眺めた。
今までの人生の中で一度もモテたことのないあたしが、男の人からこんな手紙をもらえるなんて…
しかも好きな人から。
もうここで人生終わっちゃってもいい!
棟梁は最初、あの厨房では不衛生だとあたしが言っても「何がいけないんですかい」と、本当に理解しかねるといった様子で、首をひねっていた。
あたしは目に見えない菌やウィルスを持ち出してもダメだろうと考えを替え、ネズミやG(名前を言いたくない)がもたらす病気について説いた。
いろいろと納得はしていないようだったが、あたしの熱意に押され「厨の長と話し合ってみますわ。なんとかうまくいくと良いけどな」と請け合ってくれた。
「お姫さんはお殿さんと北の方に言っといてくださいますかい。
勝手には俺らもやれねえんで」
と言われ、それもそうかと思って
「判ったわ、任せておいて」
と頷いた。
棟梁がぺこぺこしながら部屋から出て行くと、侍女さんたちがぱっと来て床を綺麗に拭いた。
「姫様…よくあのような者どもとお話あそばせますこと…」
内侍さんがと驚いたように言った。
「わたくしには、あの者の言葉が半分も判りませなんだ…」
と衛門さんも頷いて呟いた。
あなた方とあたしとでは、出自が違うのさ。
あたしは自嘲気味に思った。
あなた方だって右大臣家の姫の女房になれるくらいの、そこそこのお家のお嬢様方なんだから、庶民中の庶民のあたしとは生まれつき違うんだよ。
そこへ、式部さんが手紙を持って入ってきた。
「姫様、左近衛中将様から、お文が参りましたわ」
えっ?さっき返事だしたよ?
驚くあたしに、内侍さんが袖で笑いを隠しながら言った。
「お返事のお返事でございますわね。
姫様のお文がよほどお嬉しかったのでございましょう」
あたしはドキドキする心臓を持て余しながら、式部さんから手紙を受け取って開いた。
いつもみたいに綺麗にお花を巻きつけたりとかしてない。
なんか、素っ気なくない…?
ちょっと不安になる。
後で内侍さんに訊いたら、微笑んで教えてくれた。
「お文の演出の一つでございますわ。
取るものもとりあえず急いでお返事を書いたので何も装飾などが間に合いませんでした、という意味でしょうか」
『終わったらすぐに伺います。
天翔ける馬があったら良いのに。
貴女の許へまっすぐに飛んでいきたい』
あたしはノックアウトされてしまって、手紙に顔を埋めた。
耳まで真っ赤になってるのが自分でもよく判る。
恥ずかしくて、顔があげられない。
式部さん達は目配せをして、御帳台からそっと出て行った。
うう…気が利く女房さん達…ありがとう。
あたしはそれから、一文字一文字の筆の運びや墨のかすれ具合まで覚えてしまうほど、何度もなんどもその手紙を眺めた。
今までの人生の中で一度もモテたことのないあたしが、男の人からこんな手紙をもらえるなんて…
しかも好きな人から。
もうここで人生終わっちゃってもいい!
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