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第二章 賀茂祭・流鏑馬神事

7.立場の自覚

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 その後あたしは料理長と話し込んでしまって、真っ青になって屋敷中を探し回っていた伊都子姫付きの侍女さん達によって部屋に無事に連れ戻された。
 「姫様っ!」
 駆け寄ってきた式部さんと内侍さんは、あたしの恰好を見て、引いた。
 
 大騒ぎで下着まで着替えをさせられ、長い髪も裾の方だけ水を替えて何度も洗ってもらった。
 いや~…こんな大騒ぎになるとは。
 スミマセン。

 洗濯…大変だろうなあ。
 今度からもうちょっと、やり方を考えねば。
 でも、料理長は「試作してみます。お楽しみになさっておいでください」と笑って請けあってくれたし。
 成果はあったな。

 「姫様、何故、あのような場所に…」
 やっと落ち着いて、山盛りのお団子(米粉を練って、丸めて茹でたっぽい)と野イチゴのような果物を目の前に置きながら、式部さんは訊いた。
 内侍さんも式部さんの言葉に頷きながら、甘酒の入った容器を傾けて杯にそそいでくれる。

 あたしは着替えの前に、探しに来てくれた皆さんも集めてもらって、まず謝罪した。
 皆さんは一様に「信じられない」という表情をしていて、あたしは不謹慎と思いながらも笑ってしまった。
 なんとなく場が和んで、皆さんはそれぞれのお仕事に戻っていった。

 「ごめんなさい、心配かけて」
 あたしは頭を下げた。
 「いえもう、それは…宜しいのですが…何か、ご不満でもございましたか」

 「最初は、お屋敷の中をお散歩してみようと思っただけなの。
 この、長い廊下の突き当りからお庭を見ていたら、女の子が通りかかって、重い荷物を厨まで運ぶと聞いて、行ってみたいと思って…」
 「よくまあ…誰にも会われずに…」
 内侍さんが驚いたように言った。
 
 式部さんが、急に居住まいを正して、あたしを正面から見た。
 怖い。
 怒られるぞぅ…

 「姫様。お叱りを受けようとも、これだけは申し上げさせていただきます。
 このお屋敷にはたくさんの使用人、出入りしている業者の者、お殿様や伊靖様のお勤めのお役目関係の方々、などが日常的に歩き回っております」

 「一応、使用人や業者については素性のはっきりした者を雇うようにはしておりますが、いつどこで賊に化けるやもしれません。
 お殿様の政敵の間者が、見えないところに潜んでおるやも判りません」

 「今回は事なきを得て本当に良うございましたが、お願いでございます。
 例えお屋敷の中であっても、おひとりでお歩きなるなど、金輪際おやめくださいませ」

 あたしは言葉もなかった。
 お姫様って、自分の立場をちゃんと自覚してなきゃダメなんだ。
 お姫様って、きらびやかで楽しんでるばかりかと思ってたけど、責任ある職務なんだ。

 あたしはうなだれて「はい」と言った。
 式部さんは、ちょっと慌てたように言った。
 「申し上げ方がきつくなってしまいました。お許しくださいませ」
 
 「さあ、お腹がお空きあそばしたでしょう」
 とお団子を目の前に置いてくれる。
 ダイエットへの道のりは遠い…
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