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第一章 何処へ?

8.許嫁とは・・・

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 あたしは式部さんと内侍さんに支えられて何とか起き上がる。
 白い薄手の着物しか着ていないので、ちょっと寒い。
 高熱で汗をたくさんかいたせいもあるのかな。

 外が薄暗くなってきたのか、今灯されているのよりもう少し大きくて明るい灯台が部屋の四隅に立てられた。
 式部さんが侍女の人に手伝わせて、あたしの背からいい薫りのする重い着物をかけてくれる。
 あったかいけど、重すぎる…

 左近衛中将様を簾の外から呼ぶ声がする。
 帰るのかな?
 寝室にいる女の人たち(女房とかいうんだったっけ?)も、動こうとしない左近衛中将様を横目でちらちらと見ながら食事の準備をしている。

 内侍さんが見かねたように左近衛中将様に声をかける。
 「左近衛中将様、お姫様はこれからお食事とお薬湯でございます。
 本日のところはこれにて…」
 たおやかに言葉を切り、手をついて頭を下げた。

 左近衛中将様は、俯いて手に持った扇を開いたり閉じたりしていたが、思い切ったように顔を上げてあたしを見た。
 「今少し、ここに居てはいけないでしょうか。
 ここ数日、私は伊都子姫の容体が一進一退を繰り返すたびに生きた心地が致しませんでした。
 やっとお会いできて、お話もできて…(涙)」

 内侍さんは困ったように、しかし退かない態度で言った。
 「お気持ちは大変嬉しく有り難く存じます。
 主人に成り代わりましてお礼を申し上げ奉ります。
 ですが…殿方の御前で物を召し上がるなどということは…お姫様のお立場にては致しかねることでございます」

 左近衛中将様は一瞬ひるんだが、身を乗り出して必死の面持ちで言う。
 「色事を解さない朴念仁と巷で言われていることは知っています。
 洗練された物腰ではないし、気の利いたことも申し上げられない、伊都子姫には釣り合わない男であることも判っています」

 「しかし私は右大臣殿や北の方様、主上からもお認めいただいた、れっきとした伊都子姫の婚約者なのです。
 露顕ところあらわしが済めば、夫婦として食事だって一緒に摂れるようになるのだから」

 え?
 えーっ?!

 あたしはびっくりして大声をあげそうになった。
 許嫁って、そうか!
 婚約者のことか!

 大声は我慢したけど、変なしゃっくりみたいな音が喉から出て、内侍さんと左近衛中将様が怪訝そうな顔であたしを見た。

 「あ、あの…」
 何か言わなくちゃ。えーと、えーと。
 「せっかく来てくれたんだし、今日は良いんじゃない?
 居て頂いても」

 その瞬間。
 皆、ものすごく驚いたように固まり、場が凍りついた。
 なんかいけないこと言っちゃったかなぁ。

 でも、新生・伊都子姫なんだから。
 思ったこと全部言っちゃう。
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