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第十三章 二度目の輿入れ
7.翌朝
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王は爆睡していて、私が胸の上から転がしても起きなかった。
しかし寝ながらもぞもぞと動いて、私に抱きついてべったりくっついてそのまま朝を迎えた。
本当に寝てるのかな…?
私は王の金髪を撫でてみる。
王は私の額に頬をすりつけて、健やかに寝息を立てている。
わぁ、睫ながーい。
私はきめ細かい王の肌や、間近で見ても整って美しい顔を眺めて、うっとりしてしまう。
この人が私の夫で、私にキスして抱きたいって言ってくれたんだ…
私は今更ながらに先程の王の情熱的なキスや、滾るような熱を宿した瞳を思い出して、王の胸の中で一人赤面した。
私、…この人に抱かれたいって思った。
怖いという感情よりも、その欲望が勝った。
生まれて初めての感情に、戸惑いがないわけではないけれど。
政略結婚でそんなふうに思える人と出会えるなんて、私は幸せ者だ。
最初は間に合わせの、望まれない王太子妃だったけど、私は王に愛されている。
と思う。
と思いたい。
私を抱きしめる王の暖かい頬の感触を愛しく思いながら、私は目を閉じた。
私と王が起きたのは、昼近くになってからだった。
事情を知っていて起こさないようにと気を遣っていたグレーテルも、さすがにこの時間では…と起こしに来た。
王は目を覚まして、腕の中にいる私の顔を見て事態を思い出したらしい。
『うわ…最悪だ…
一生の不覚だ』
呻いて仰向けになり、腕を顔の上で交差させた。
私が声のかけようもなくて、起き上がって王に触れると、王は腕を解いて私を見た。
わぉ、顔が真っ赤だ。
『ごめん』
『いえ、最初に寝ててすっぽかしたのはわたくしですし…』
私も赤くなりながら言うと、王は勢いをつけて起き上がり、頭を抱えた。
『昨夜のあの飲まされ方…
絶対、ギルベルトとソロモンはグルだ。
ギルベルトがソロモンに同情したってとこか』
しょうがねえ、と呟いて王は私の方を向いて頬に触れた。
『ルーマデュカに帰ったら…』
私は王が全部言う前に、目をぎゅっとつぶって何度もうなずいた。
『ありがとう。
さあ、帰国の準備をしよう』
王は嬉しそうにしっかりと私を抱きしめて囁いた。
その日は、帰国の準備に忙殺された。
お父様とお母様がさまざまに用意してくれた、ルーマデュカへのお土産や贈り物を何台も馬車を連ねて積み込む。
私が昨日、お姉様の嫁入り支度の賑やかな音を聞いてつらかったように、お姉様も今、耳を塞ぎたい気持ちでいらっしゃるだろうか。
私はやはりどうしても、一言お姉様に謝りたくて面会を申し込んだのだけど、にべもなく断られてしまった。
贈り物を侍女に託けて、私はすごすごと引き下がった。
ルーマデュカに帰ったらお手紙を書こう。
フォルクハルトにも会えなかった。
私は共通の友人である伯爵令嬢に、手紙を託けた。
彼女は快く引き受けてくれて
「承知いたしました、大丈夫ですわ。
フォルクハルト様もきっと、お気づきでいらっしゃったと思いますの。
リンスター様が王様に心惹かれていらっしゃること」
と微笑んだ。
え…そうかなあ。
私自身、王への自分の気持ちに本当の意味で気づいたのは、王が馬車から降りてきた時だったのに。
ああでも、そうだ。
ルートヴィヒが、王が第二王女をくださいと言っていると追いかけてきたとき「戻りましょう」と方向転換させたのはフォルクハルトだったし、王がリンスター!と呼んだ時「お行きなさい」と背を押してくれたのもそうだった。
涙を浮かべながらも、微笑んでくれていた。
ありがとう。
私は頑張って王と一緒に幸せになる。
フォルクハルトの幸せも、遠くルーマデュカから祈っている。
夜にはまた晩餐会があり、皆で私を送り出すお祝いをしてくれた。
私は仲の良かった令嬢たちと涙ながらに別れを惜しみ、手紙を出すことを約束した。
王は終始、私の傍にいて整った顔に美しい笑みを貼りつけていたが、男性が近づいてくると眉を顰めて追っ払っていた。
「陛下はすごいヤキモチ妬きですのね。
リンスター様、愛されていらっしゃるわね」
と少し年上の侯爵夫人に耳打ちされ、私は苦笑を禁じえなかった。
そうなんだよ…
独占欲強いなって前から思ってたけど、今夜は特に酷い気がする。
だけど王だって、メンデエルの女性たちから大人気だ。
厳つくて無骨なメンデエルの男性にはあまりない、優美で雅な雰囲気でにこやかに微笑むと、女性は皆、ほーっとため息をつく。
私も努力しなくちゃかなあ。
王が他の女性に興味持たないように。
だけどそもそも、王がどうして私なんかを愛してると言っているのかが判らないから、どこにどう努力するべきなのか…
ううーん。
悩むわ。
しかし寝ながらもぞもぞと動いて、私に抱きついてべったりくっついてそのまま朝を迎えた。
本当に寝てるのかな…?
私は王の金髪を撫でてみる。
王は私の額に頬をすりつけて、健やかに寝息を立てている。
わぁ、睫ながーい。
私はきめ細かい王の肌や、間近で見ても整って美しい顔を眺めて、うっとりしてしまう。
この人が私の夫で、私にキスして抱きたいって言ってくれたんだ…
私は今更ながらに先程の王の情熱的なキスや、滾るような熱を宿した瞳を思い出して、王の胸の中で一人赤面した。
私、…この人に抱かれたいって思った。
怖いという感情よりも、その欲望が勝った。
生まれて初めての感情に、戸惑いがないわけではないけれど。
政略結婚でそんなふうに思える人と出会えるなんて、私は幸せ者だ。
最初は間に合わせの、望まれない王太子妃だったけど、私は王に愛されている。
と思う。
と思いたい。
私を抱きしめる王の暖かい頬の感触を愛しく思いながら、私は目を閉じた。
私と王が起きたのは、昼近くになってからだった。
事情を知っていて起こさないようにと気を遣っていたグレーテルも、さすがにこの時間では…と起こしに来た。
王は目を覚まして、腕の中にいる私の顔を見て事態を思い出したらしい。
『うわ…最悪だ…
一生の不覚だ』
呻いて仰向けになり、腕を顔の上で交差させた。
私が声のかけようもなくて、起き上がって王に触れると、王は腕を解いて私を見た。
わぉ、顔が真っ赤だ。
『ごめん』
『いえ、最初に寝ててすっぽかしたのはわたくしですし…』
私も赤くなりながら言うと、王は勢いをつけて起き上がり、頭を抱えた。
『昨夜のあの飲まされ方…
絶対、ギルベルトとソロモンはグルだ。
ギルベルトがソロモンに同情したってとこか』
しょうがねえ、と呟いて王は私の方を向いて頬に触れた。
『ルーマデュカに帰ったら…』
私は王が全部言う前に、目をぎゅっとつぶって何度もうなずいた。
『ありがとう。
さあ、帰国の準備をしよう』
王は嬉しそうにしっかりと私を抱きしめて囁いた。
その日は、帰国の準備に忙殺された。
お父様とお母様がさまざまに用意してくれた、ルーマデュカへのお土産や贈り物を何台も馬車を連ねて積み込む。
私が昨日、お姉様の嫁入り支度の賑やかな音を聞いてつらかったように、お姉様も今、耳を塞ぎたい気持ちでいらっしゃるだろうか。
私はやはりどうしても、一言お姉様に謝りたくて面会を申し込んだのだけど、にべもなく断られてしまった。
贈り物を侍女に託けて、私はすごすごと引き下がった。
ルーマデュカに帰ったらお手紙を書こう。
フォルクハルトにも会えなかった。
私は共通の友人である伯爵令嬢に、手紙を託けた。
彼女は快く引き受けてくれて
「承知いたしました、大丈夫ですわ。
フォルクハルト様もきっと、お気づきでいらっしゃったと思いますの。
リンスター様が王様に心惹かれていらっしゃること」
と微笑んだ。
え…そうかなあ。
私自身、王への自分の気持ちに本当の意味で気づいたのは、王が馬車から降りてきた時だったのに。
ああでも、そうだ。
ルートヴィヒが、王が第二王女をくださいと言っていると追いかけてきたとき「戻りましょう」と方向転換させたのはフォルクハルトだったし、王がリンスター!と呼んだ時「お行きなさい」と背を押してくれたのもそうだった。
涙を浮かべながらも、微笑んでくれていた。
ありがとう。
私は頑張って王と一緒に幸せになる。
フォルクハルトの幸せも、遠くルーマデュカから祈っている。
夜にはまた晩餐会があり、皆で私を送り出すお祝いをしてくれた。
私は仲の良かった令嬢たちと涙ながらに別れを惜しみ、手紙を出すことを約束した。
王は終始、私の傍にいて整った顔に美しい笑みを貼りつけていたが、男性が近づいてくると眉を顰めて追っ払っていた。
「陛下はすごいヤキモチ妬きですのね。
リンスター様、愛されていらっしゃるわね」
と少し年上の侯爵夫人に耳打ちされ、私は苦笑を禁じえなかった。
そうなんだよ…
独占欲強いなって前から思ってたけど、今夜は特に酷い気がする。
だけど王だって、メンデエルの女性たちから大人気だ。
厳つくて無骨なメンデエルの男性にはあまりない、優美で雅な雰囲気でにこやかに微笑むと、女性は皆、ほーっとため息をつく。
私も努力しなくちゃかなあ。
王が他の女性に興味持たないように。
だけどそもそも、王がどうして私なんかを愛してると言っているのかが判らないから、どこにどう努力するべきなのか…
ううーん。
悩むわ。
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