愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket

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第十三章 二度目の輿入れ

6.寝室

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 それからは、私はいろんな人からダンスを申し込まれ、王も妹のマルグレートや私の友達の令嬢たちと踊って、ルーマデュカ風のダンスはすっかり若い人たちのトレンドになりつつあった。
 お姉様はいつの間にか広間から姿を消していた。
 私は、謝罪に行こうかと思ったのだけど、王やお母様、きょうだいたちにもそんな必要はないと強く言われて、やめてしまった。

 私が話をしたい、謝罪したいと思っても、お姉様には当てつけのように思われて終わってしまうのかもしれない。
 王は『これ以上、リンスターが傷つく必要はない』と言うけれど…

 お姉様と仲違いをしたいわけではない。
 だけど、…王のことは譲れない。
 たとえお姉様でも。
 
 いつかお姉様にも、お幸せが訪れてくれますように。
 今は、そう願うしかないのかな。

 舞踏会は予想外に盛り上がって、誰もが名残惜しそうに、私と王に挨拶に来た。
 王はどの人に対しても丁寧に話をし、私をルーマデュカで幸せにすると言ってくれた。
 私は、ものすごく嬉しくて、王の隣で泣きそうな顔で笑っていた。

 良いのかな私…
 こんなに幸せで。

 皆が帰った後、私たちも部屋に引き上げようとしていると、お兄様とソロモンが語り合おうと言って王を呼びに来た。
 「え…本気だったのですか」
 王は嫌そうな顔を隠そうともせずに言う。
 「あたりまえでしょう、今宵は男同士、王子同士、とことん語り合いますよ」
 お兄様は、自分の部屋に来てくださいと嬉しそうに誘って、広間の扉から出て行く。

 ソロモンもお兄様の後を追って出て行こうとし、扉の前で立ち止まって振り返り、王を待っている。
 王は大きくため息をつき、私の頬に手を触れた。
 『仕方ない。
 少しだけ行ってくる。
 リンスターの部屋に行くから、待ってろよ』
 
 私は胸がドキドキしてきて、片足を引いてお辞儀する。
 顔を上げると、王の顔がやたら近くにあり、私はビックリして下がろうとする。
 王は私の腕をつかんで引き寄せぎゅっと一度抱きしめて、離れて行った。

 ドキドキと跳ね回る心臓を持て余しながら、部屋へ戻って化粧を落とし髪を解いて着替えをする。
 グレーテルも頬を上気させ、いそいそと手伝ってくれた。
 
 すっかり支度が終わって、暖まった部屋のベッドで王を待つ。
 温かいお茶を飲んでほっと息をついた。
 
 まだかな…
 私は小さく欠伸する。
 
 今日は、いろいろあった。
 朝にはこんな展開になるとは夢にも思っていなかった。
 王はお姉様に求婚に来るのだと疑っていなかったし、まさかお父様や国の皆にリンスターを王妃として下さいと言いに来たなんて。
 そのためにわざわざ教皇の許可証まで取って離婚するなんて、誰が思うだろうか。
 
 変な人だ。
 だけどお姉様に劣等感まみれの、美しくもなければ賢くもない私のためにそこまでしてくれるなんて、何かの間違いでは、という気持ちは完全に拭うことはできないけれど…
 また何かのサプライズで、本当は最初からお姉様が結婚してましたなんてことにならないと良いなあ。

 そんなことをつらつら考えているうちに、私はいつの間にかベッドに横になり、まだかな~と思いながらいつしか寝入ってしまった。

 喉が渇いて、ふと目を覚ます。
 鶏が時を作っているのが聞こえ、もう朝か…と思った。
 晩餐会で勧められて、私にしてはお酒をだいぶ飲んだし、部屋が暑いよなんか。
 起き上がろうとして身じろぎして、横に王が寝ているのを発見して仰天し、思わず声をあげそうになる。

 「…!!」
 口を両手で塞いで後ずさりする。
 王は『ん…』と呟いて、目を開ける。

 『また寝てたなお前…』
 手を伸ばして私の頬に触れながら、王は笑って小さく言う。
 『いえ、あの、お待ちしては居りました、のですが…』
 私があわあわと答えつつ、まだ退こうとしていると、王は片肘をついて起き上がり反対の手で私の腕をつかむ。

 『逃げるなよ』
 『いえ、でも、喉が渇いたので』
 ああ、何で水差しが王の背後のテーブルに置いてあるの…
 
 私の視線を感じたのか、王は私の腕を離し後ろを振り返って『ああ、ここか』と言って起き上がり、グラスに水を注いで渡してくれた。
 『ありがとう、ございます…』
 私は両手で受け取り、水を飲む。

 『私にもくれ』
 と言って王は私の手からグラスを取って飲み干した。
 ふう、と大きく息をついて、王は片手で目を覆い『あ~~』と呻いた。

 『ギルベルトは蟒蛇うわばみだなありゃあ…
 限度がないのか、ずーっと飲み続けててテンションが変わらない。
 ソロモンも「私は宗教上、酒は禁じられているので」とかなんとか言いながら、勧められる酒全部飲んで、ケロッとして顔色一つ変えない。
 あれ絶対、常習的に飲酒してるよな』
 
 『ああ、我が国の人は皆、お酒には強いです。
 王家の人間は特に…』
 ソロモンも強そうだわ、お酒とかクスリとか。
 宗教上ってのも「表向き」ってことなんだろうなぁ…
 ま、よくある話よね。

 と言って、あれ?と思う。
 名前で呼んでる…?
 舞踏会の時まではギルベルト王太子殿下とかスレイマン皇子殿下とか言っていたような。

 王は目の上から手を外して、首を傾けて私を見た。
 『話してると、二人ともすごく良いやつで、意外と気が合った。
 ソロモンがリンスターに関していちいちマウント取ってくるのが腹立たしいが…』

 そう言うとグラスを置いて、私の方へにじり寄り抱きしめる。
 うわ、お酒くさい。
 寄りかかるように私に体重を預け、首の下辺りで呟いた。
 『だが、リンスターを抱けるのは私だけだ』

 私はバクバク音を立てて打つ心臓の音が聞かれてるよな…と恥ずかしくて、なにも言わずこくこくと頷いた。
 王はくすっと笑って体重をかけて、私を押し倒す。
 『リンスター…愛してる。
 やっと私のものになった』

 囁いて唇にキスする。
 角度を変えて何度も口づけ、次第に深く舌を入れてくる。
 私は息苦しくなって顔を背けてしまった。
 王は構わず私の頬や耳朶にキスを落とし、首筋に舌を這わせ、また抱きしめて、

 …そのまま動きが止まった。

 「え、…」
 私は、胸の上で無防備に寝息をたてている王を呆然と見おろす。

 そりゃ、馬を何日もかっ飛ばして来て、お父様やお姉様の前で長口舌を振るって、晩餐会や舞踏会に出席して、いい加減疲れてるところに、しこたまお酒を呑まされて眠いだろうけどっ!

 だからって、この状況でいきなり寝るなんてあり?
 おーい! 


 
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