愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket

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第十二章 求婚

1.祖国

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 メンデエルでのお兄様の人気は絶大だ。
 如何にもメンデエル人らしい、眼窩が深く眉が太くきりっとした顔立ちと堂々たる体躯、賢く豪胆で次期国王に相応しい風格がありながら、気さくで明るい性格が国内外に知れ渡っているからかな。
 
 お妃候補はまだ、ラウツェニング宰相が選びに選んでいる状態らしい。
 メンデエル国は歴史が古くて縁戚と呼べる国がたくさんある。
 そして強固な中央集権国家だと思う。
 皆で一丸となって国を守っていかなければならないからだ。
 小国の運命でもある。
 
 しかしそれでもやっぱり、歴代の王は国内をまとめること、それから外交に腐心してきた。
 だから、私や弟妹達のように、国内の貴族と結婚させられて国内の結束を強化するということに重点をおくのかもしれない。

 ソロモンの歓迎晩餐会の時、王(当時は王太子)は『バルバストル公爵には逆らうな、この国はまだ完全な中央集権じゃない』と言っていた。
 バルバストル元公爵を宮廷から放逐して、少しは変わっていくのだろうか。
 王は、どのように掌握していくのだろう。

 メンデエル国に入るな否や、大歓待を受ける。
 その地方で一番立派な旅館の主人が、両手を広げて迎えてくれた。

 私たちは湯浴みをし、明日の入城に備える。
 メンデエル語が飛び交い、料理もメンデエルの味がして、私は、ああ、帰ってきたんだ、と実感する。
 グレーテルも嬉しそうに笑みこぼして、宿のメイドと話をしていた。

 そして翌日、朝からいっぱい食べさせられて(いや、美味しかったけども)、私たちは支度をして王宮へ向かう。
 半年ぶりのメンデエル…
 一面の雪景色、灰色の空に低い雲。
 木々は針葉樹が多く、雪をかぶった木々のシルエットが寒々しく見える。
 ルーマデュカよりやはり寒い。

 私は厚い生地で作られたドレスの裾と、肩にかけたショールを引き寄せて、寒さをしのぐ。
 温石を持たされてはいるものの、この寒さではそれほど効果がない。

 「寒いですね、ルーマデュカは暖かい国だ」
 寒そうに呟いて、フォルクハルトは私をぎゅっと引き寄せた。
 「エリーザベト様も、過ごしやすいルーマデュカでなら、ご体調も宜しくなられるでしょうね」
 
 ああ、そうね…
 私は結露で曇ってしまった馬車の窓を指で拭いて外を眺める。
 お城に帰ったら、お姉様とも話をしなくちゃいけないのかしら…
 憂鬱。

 夕方、といっても日の暮れるのが早いメンデエルではもう真っ暗だったが、漸く王都に辿り着く。
 大門は開け放たれ、いくつもの大松明の火が両側に赤々と燃えて、私たちを迎え入れた。
 わあ、王太子のお兄様が帰ってくるとこんな感じなのねえ…
 私は兄妹格差をこんなところで実感する。

 馬車は車寄せまで入って行き、私は出迎えの人の多さにビックリする。
 馬車から降りると、一斉に「お帰りなさいませ」と頭を下げる。
 ラウツェニング宰相がお兄様と私の前に来て「お帰りなさいませ、王太子殿下、王女殿下」と恭しくお辞儀をした。
 
 「うん、帰ったよ。
 出迎えありがとう、宰相」
 お兄様はにこりと笑うとラフに言って、私の背を押して城の中へ入った。
 「このまま、父上のところへ行こう。
 宰相のあの様子だと、母上がよほどお怒りなのだろうから、母上につかまる前に先に父上に会っておかないと会えなくなっちゃうぞ」

 お兄様の言葉に、私は思わず笑いをこぼす。
 そうね…宰相のあの畏まった姿は、なかなか見られない。
 お母様のお怒りがすさまじいんだろうな。

 お母様、すぐにも会いたい。
 だけど、先に、お父様、か~~
 気が重い。

 
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