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第十章 戴冠式及び国葬
2.控室
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皆の見送りを受けて執事について部屋を出る。
並んでお辞儀する使用人たちの中にクラウスがいるのを見て、おやと思った。
昨日、部屋に居座った割に、クラウスは一言も発さず、泣き崩れた私がフォルクハルトに抱きかかえられて寝室へ行ったときには、部屋から消えていたような気がする。
まあ、口を利かなかったのは、メンデエルの人達だったからかもしれない。
お兄様もユーベルヴェーク子爵も、フォルクハルトでさえ、クラウスが話せることすら知らないのだから。
でも、じゃあどうしてあそこにいたのかしら。
いつもの情報収集…?
後で聞いてみようと思いながら、私は黙って執事の後を歩く。
「妃殿下、もとい、王妃陛下はお歩きになられるのがお早いですね。
いつも感心しております。
陛下も日頃からお身体を鍛えておられるので、歩くのは大変お早いのです。
わたくしはいつもついていくのが大変でございます」
私の沈黙を緊張と解釈したのか、執事が初めて話しかけてきた。
王太子は、私が王妃にならないことを皆に言ってないのかな?
もうホント、あいつには振り回されるわね、私もあなたも。
私は少し微笑んで言う。
「わたくしは、ご愛妾になられるような方々と違って、野育ちに近うございますのよ。
祖国では毎日、城の庭を駆け回っておりましたの」
「さようでございますか。
これからこの国のモードは、健康的になるのでしょうな。
わたくしは賛成でございますよ」
執事は私の方を向きほんの少し、顔をほころばせて言った。
私はなんと返して良いか判らず、苦笑に近い笑みを浮かべた。
お姉様が健康的な王妃になるとはとても思えないけれど。
王太子の部屋に向かおうとする執事を、私は押しとどめる。
「直接、大聖堂に向かいましょう。
殿下の早足に、流石にわたくしはついていけないわ」
執事は驚いたように足を止めて私を見たが、「畏まりました」と言うと、衛兵の一人に王太子に私たちが直接大聖堂に向かう旨を伝えに行かせた。
なるべく会いたくない。
会ってしまうと、あの姿を見たら、決心が鈍ってしまいそうだから。
城の中にある大聖堂に着き、控室に入る。
そこにいた王太子付きの侍従たちは驚いていたが、私はにこやかに話しかけ、談笑していた。
陛下の崩御から彼らとは何かと顔を合わせていたので、話題は尽きない。
やがて王太子が入ってくる。
私を見て、ちょっと目を瞠り、不機嫌そうに「何故、余が選んだドレスを着ない?」と言った。
「着たくなかったからですわ」
私はそっけなく答える。
それしかないでしょ、理由なんて。
語調とは裏腹に、私の目は王太子の凛々しく近寄りがたいほどの雄々しい美しさに奪われてしまう。
あの隣に並んでいられると思うと、私の胸は高鳴る。
ダメだ、あんまり見ては。
変に思われるし、私の思っていることなんて簡単にこの聡明な王太子にはバレてしまう。
王太子はつかつかと近づいてきて、私の座る椅子の前に立つ。
手を伸ばし、私の頤に指をかけて顔をあげさせる。
まともに視線がぶつかって、私の心臓は跳ね上がり胸の中で騒がしく打つ。
私は四阿でのことを思い出し、また何かひどいことを言われるのではないかと思って目を逸らした。
王太子は手を離して「だが、これも悪くない」と優しい声で言って髪を撫でた。
その拍子に、私の髪から花が一輪、外れて床に落ちる。
おっ、と言って王太子は屈んでその花を拾い上げ、私の髪に挿した。
「可憐な花だな。
そなたのようだ」
呟くように言った王太子の頬は少し染まっているようで、私は戸惑う。
この人の考えてることは、全くわからない。
全然、一貫性がない。
お姉様もご苦労なさるわね、きっと。
「殿下、お時間でございます」
侍従長が呼びに来た。
「よし、行くぞ」
王太子はきりっと顔をあげて呟き、私の手を取った。
並んでお辞儀する使用人たちの中にクラウスがいるのを見て、おやと思った。
昨日、部屋に居座った割に、クラウスは一言も発さず、泣き崩れた私がフォルクハルトに抱きかかえられて寝室へ行ったときには、部屋から消えていたような気がする。
まあ、口を利かなかったのは、メンデエルの人達だったからかもしれない。
お兄様もユーベルヴェーク子爵も、フォルクハルトでさえ、クラウスが話せることすら知らないのだから。
でも、じゃあどうしてあそこにいたのかしら。
いつもの情報収集…?
後で聞いてみようと思いながら、私は黙って執事の後を歩く。
「妃殿下、もとい、王妃陛下はお歩きになられるのがお早いですね。
いつも感心しております。
陛下も日頃からお身体を鍛えておられるので、歩くのは大変お早いのです。
わたくしはいつもついていくのが大変でございます」
私の沈黙を緊張と解釈したのか、執事が初めて話しかけてきた。
王太子は、私が王妃にならないことを皆に言ってないのかな?
もうホント、あいつには振り回されるわね、私もあなたも。
私は少し微笑んで言う。
「わたくしは、ご愛妾になられるような方々と違って、野育ちに近うございますのよ。
祖国では毎日、城の庭を駆け回っておりましたの」
「さようでございますか。
これからこの国のモードは、健康的になるのでしょうな。
わたくしは賛成でございますよ」
執事は私の方を向きほんの少し、顔をほころばせて言った。
私はなんと返して良いか判らず、苦笑に近い笑みを浮かべた。
お姉様が健康的な王妃になるとはとても思えないけれど。
王太子の部屋に向かおうとする執事を、私は押しとどめる。
「直接、大聖堂に向かいましょう。
殿下の早足に、流石にわたくしはついていけないわ」
執事は驚いたように足を止めて私を見たが、「畏まりました」と言うと、衛兵の一人に王太子に私たちが直接大聖堂に向かう旨を伝えに行かせた。
なるべく会いたくない。
会ってしまうと、あの姿を見たら、決心が鈍ってしまいそうだから。
城の中にある大聖堂に着き、控室に入る。
そこにいた王太子付きの侍従たちは驚いていたが、私はにこやかに話しかけ、談笑していた。
陛下の崩御から彼らとは何かと顔を合わせていたので、話題は尽きない。
やがて王太子が入ってくる。
私を見て、ちょっと目を瞠り、不機嫌そうに「何故、余が選んだドレスを着ない?」と言った。
「着たくなかったからですわ」
私はそっけなく答える。
それしかないでしょ、理由なんて。
語調とは裏腹に、私の目は王太子の凛々しく近寄りがたいほどの雄々しい美しさに奪われてしまう。
あの隣に並んでいられると思うと、私の胸は高鳴る。
ダメだ、あんまり見ては。
変に思われるし、私の思っていることなんて簡単にこの聡明な王太子にはバレてしまう。
王太子はつかつかと近づいてきて、私の座る椅子の前に立つ。
手を伸ばし、私の頤に指をかけて顔をあげさせる。
まともに視線がぶつかって、私の心臓は跳ね上がり胸の中で騒がしく打つ。
私は四阿でのことを思い出し、また何かひどいことを言われるのではないかと思って目を逸らした。
王太子は手を離して「だが、これも悪くない」と優しい声で言って髪を撫でた。
その拍子に、私の髪から花が一輪、外れて床に落ちる。
おっ、と言って王太子は屈んでその花を拾い上げ、私の髪に挿した。
「可憐な花だな。
そなたのようだ」
呟くように言った王太子の頬は少し染まっているようで、私は戸惑う。
この人の考えてることは、全くわからない。
全然、一貫性がない。
お姉様もご苦労なさるわね、きっと。
「殿下、お時間でございます」
侍従長が呼びに来た。
「よし、行くぞ」
王太子はきりっと顔をあげて呟き、私の手を取った。
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