愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket

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第九章 戴冠式の準備

8.思ってもみない話

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 その夜は、あまり眠れなかった。
 フォルクハルトはどうして来るのだろう。
 お父様は、宰相ラウツェニングは、いったい何を考えているのだろう。

 輾転反側して、やっと夜が明けたころ、ユリアナがそっと寝室に入ってきた。
 「お妃様…
 お寝みでいらっしゃいますか」
 「…いいえ、大丈夫よ、起きているわ」

 私が答えると、ユリアナは近づいてきてベッドの周りに下がっているカーテンを開けた。
 「ジェルヴェ殿下がいらっしゃっています。
 王太子殿下がお妃様をお呼びになる前に、お話ししたいと仰って」

 「…判ったわ。
 着替えをするから」
 ユリアナの後ろからジョアナとソレンヌも入ってきて、私の支度を手伝ってくれる。
 
 寝不足で疲れた肌と表情を、お化粧で何とかごまかしてもらい、ジェルヴェの待つ居間へと移動する。
 ジェルヴェは私を見ると立ち上がって、その場で深くお辞儀した。
 「おはようございます、リンスター。
 朝早くに押しかけまして申し訳ありません」

 「いえ…どうなさったの?」
 私が近づくと、ジェルヴェは私の手を取ってテーブルに導く。
 テーブルの上には、簡単な食事が用意してあった。
 
 「よくお寝みになれましたか」
 向かい合わせに座ったジェルヴェは、テーブルの向こうから気遣うように私を見る。
 私は「…あんまり」と正直に答える。

 「昨夜は大変申し訳ありませんでした。
 感情が昂ってしまって…あなたを抱き潰してしまった。
 どこか具合の悪いようなところは…」
 「大丈夫ですわ、それより…」
 私は、昨夜グレーテルが言っていた話を促す。

 「兄の随行者として、フォルクハルトが来るということを、昨日グレーテルから聞いて…
 何故なのかしら。
 フォルクハルトって、あの…わたくしの、メンデエル国の婚約者だった人で…」
 「愛していらっしゃった?」
 ジェルヴェの言葉に顔を上げると、彼は苦しそうに私を見つめていて、私は急いで首を横に振る。

 「いえ、愛しているとか、そういう感情はなかったですわ。
 父王の決めたことですから従うだけというか、幼馴染の延長線上にある人というか」
 「そうですか…」
 ジェルヴェはほっと息をつき、椅子の背に身体を預けて、私に朝食を摂るように促しながら口を開く。
 
 「陛下が崩御なさって、フィリベールの次期国王の即位が明らかになったとき辺りより、メンデエル国からの大使やお使者が頻繁に来るようになりましてね。
 フィリベールは弾劾やら後始末やら、その後の国葬や戴冠式のことまでひとりでやっていたので忙しくてあまり会えないでいたので、私が代わりに会ったのです。
 リンスターには知らせないでくれということで、何かおかしいなと思っていたのですが…」
 
 「歯切れの悪い話し方のお使者の話を辛抱強く聞いていて、漸く話の概要を把握した時、私は驚きで後ろに倒れそうになりました。
 約束をたがえて、第二王女をルーマデュカに差し上げたのは間違いだった。
 即位式及び戴冠式には、ぜひ第一王女を妃として待遇していただきたい。
 教皇にお願いして、第二王女との結婚は白紙に戻す準備をしていると」

 私は持っていたフォークを取り落とす。
 どういう…こと?

 お姉様が…王妃になって、私は?
 
 「リンスター!大丈夫ですか!」
 ジェルヴェは慌てたように立ち上がって私の方へきて、倒れそうになる私の身体を支えた。
 私は自分が蒼白になっているのを感じる。
 身体がガタガタと震えて、抑えられない。

 「それで…?」
 私は声を振り絞る。
 「すみません、こんな話をして…
 それで、第二王女には、実はメンデエルに婚約者がいて、その者がそもそもは自分が結婚するはずだった、どうしても第二王女を取り戻したいと言っている。 
 ついては、戴冠式後に一緒にメンデエルに帰してほしいと」

 「王太子は…殿下は何と?」
 「話はしたのですが…
 そうか、と言って、そのまま何かを考え込むような感じで、特に返事も感想もなく…
 フィリベールから何か聞いていますか?」

 私はジェルヴェの腕の中で力なく首を横に振る。
 「何も…
 そんな話があったなんて、一言も」

 「まあ、そんな話は断る気でいるからなんでしょうが…
 今日はもう、メンデエルの王太子殿下やリンスターの婚約者殿がご到着になるので、リンスターがもしフィリベールから聞いていないならお知らせしなければと。
 …というか、もし、フィリベールがその話を承諾して、リンスターがメンデエルの婚約者殿を愛していないのなら…
 私の妻になって、ルーマデュカに残っていただきたいと思って…」
 そう囁いて、私を優しく抱きしめる。

 「昨日も言いましたが、私も一度はあなたを諦めようと思いました。
 しかし、どうしても無理だ。
 フィリベールの妃になるのも、婚約者殿とメンデエルに帰ってしまうのも…
 承服できない」
 
 私はひどく混乱し、ジェルヴェのなすがままに、ただ抱きしめられていた。
 
 王太子は、どうするの?
 お姉様と…結婚する気でいるの?
 
 
 
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