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第九章 戴冠式の準備
6.王太子との関係
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私は戴冠式までの間、王太子の部屋に連日呼ばれ、執事や侍従などから宮廷のことを少しずつ教わっていった。
王太子は執務もすべてこなしながら常に私の横にいて、判りやすいようにさまざま説明を補足してくれる。
戴冠式に合わせて、近隣諸国からの招待客の来訪への対応もあった。
王太子の隣に並んで挨拶を受けるのは、最初はとても気恥ずかしかったけれど、王太子がなにくれとなく気を遣ってくれてだんだん慣れていくことができた。
意外と優しくて親切なんだな…
私は王太子への評価が、自分の中で変わっていくのを自覚する。
冷たくて不遜で威張ってるだけの我儘王子かと思っていた。
最初の印象が最悪だったから。
しかしだからと言って、王太子と私が世に言う恋人のようになれるような気はしなかった。
何というのだろう、同志?とでもいうのかな。
このルーマデュカという国を共に牽引して、世界に冠たる国にしていくという、単なる同志。
王太子も私に感謝の言葉を述べたけれど、ジェルヴェやソロモンのように愛してるだとか好きだとか、そういう甘い言葉を口にしたことはない。
ま、そういう感情はないんでしょうね。
王太子みたいな見目麗しく気品があり物腰も洗練されていて、頭も良くて切れ者で気力も胆力もある、生まれながらの王者が、私みたいな美しくもなく頭も良くなくて気も利かない人間を相手にするわけはない。
お姉様のような、﨟長けて美しく教養も豊かで仕草も愛らしい、そんな女性がお似合いだ。
今の状態もきっと、新たな愛妾が侍るまでの間だけなのだろう。
王太子は尊敬できる人だ、そう思おう。
恋とか愛とかいう、そういう感情を超えて、親しい友人のように国を守る戦友のように過ごせればそれでいい。
私は私の役目を果たそう。
そう思って幾分気は楽になったものの、私の心は晴れなかった。
私はこうやって、誰にも愛されずに年を取って死にゆくのだろうか。
祖国の、一応婚約者だった人の顔を思い出して、ため息をつく。
彼も私を好きだとか言ったことはなかった。
当然のように隣にはいたけれど、舞踏会とかでも私より他の女性と踊るのが好きなようだったし、お姉様が珍しくそういう場に現れた時には、いつだって見惚れていた。
だからこそ、ジェルヴェやソロモンの言うことがどうも信じられない。
私がそういうことに疎いと判っていて、からかって遊んでいるのではないのかと、いつも疑ってしまう。
あーあ。
女性としてはまったく自信がない。
自信を持つ要素が、全く見当たらない。
私自身、誰かを好きになったことがない。
好きになってもきっと自分が苦しいだけだろうと思うと、どうしても腰が引けてしまう。
アンヌ=マリーのように、可愛らしく男性の気を引けたなら…
王太子も少しは、私を女性として見てくれただろうか。
そんな日々を過ごして、ある晩、深更になるまで政治や産業についてのレクチャーを受け、くたくたになって部屋へ戻ると、中にジェルヴェが待ち構えていた。
「え、ジェルヴェ…?」
驚く私にジェルヴェは駆け寄ってきて抱きつく。
「ちょ、っと何?!」
私は身体を捩ってジェルヴェの腕から逃げ出そうとするが、ジェルヴェはきつく抱きしめて離そうとしない。
「フィリベールが朝から遅くまであなたを傍に置いて片時も離さないから、私はもう嫉妬で気が狂いそうですよ。
陛下が崩御なさって、フィリベールがバルバストル公爵との一騎討ちに勝利した時は、私はあなたを諦めなければと思ったのですが、やっぱり無理だ」
苦しそうに言い、私の髪にキスする。
「あなたの輝くような笑顔、愛らしい仕草、理知的で心地よい声…何もかもが私を惹き付けて止まない。
愛してる。
諦められない…」
私は男の人の腕力に締めつけられて、息苦しくて目を閉じる。
本当に…?
ジェルヴェ、あなたは本当に私を愛してくれるの?
そしてだんだん、意識が遠のいていった。
王太子は執務もすべてこなしながら常に私の横にいて、判りやすいようにさまざま説明を補足してくれる。
戴冠式に合わせて、近隣諸国からの招待客の来訪への対応もあった。
王太子の隣に並んで挨拶を受けるのは、最初はとても気恥ずかしかったけれど、王太子がなにくれとなく気を遣ってくれてだんだん慣れていくことができた。
意外と優しくて親切なんだな…
私は王太子への評価が、自分の中で変わっていくのを自覚する。
冷たくて不遜で威張ってるだけの我儘王子かと思っていた。
最初の印象が最悪だったから。
しかしだからと言って、王太子と私が世に言う恋人のようになれるような気はしなかった。
何というのだろう、同志?とでもいうのかな。
このルーマデュカという国を共に牽引して、世界に冠たる国にしていくという、単なる同志。
王太子も私に感謝の言葉を述べたけれど、ジェルヴェやソロモンのように愛してるだとか好きだとか、そういう甘い言葉を口にしたことはない。
ま、そういう感情はないんでしょうね。
王太子みたいな見目麗しく気品があり物腰も洗練されていて、頭も良くて切れ者で気力も胆力もある、生まれながらの王者が、私みたいな美しくもなく頭も良くなくて気も利かない人間を相手にするわけはない。
お姉様のような、﨟長けて美しく教養も豊かで仕草も愛らしい、そんな女性がお似合いだ。
今の状態もきっと、新たな愛妾が侍るまでの間だけなのだろう。
王太子は尊敬できる人だ、そう思おう。
恋とか愛とかいう、そういう感情を超えて、親しい友人のように国を守る戦友のように過ごせればそれでいい。
私は私の役目を果たそう。
そう思って幾分気は楽になったものの、私の心は晴れなかった。
私はこうやって、誰にも愛されずに年を取って死にゆくのだろうか。
祖国の、一応婚約者だった人の顔を思い出して、ため息をつく。
彼も私を好きだとか言ったことはなかった。
当然のように隣にはいたけれど、舞踏会とかでも私より他の女性と踊るのが好きなようだったし、お姉様が珍しくそういう場に現れた時には、いつだって見惚れていた。
だからこそ、ジェルヴェやソロモンの言うことがどうも信じられない。
私がそういうことに疎いと判っていて、からかって遊んでいるのではないのかと、いつも疑ってしまう。
あーあ。
女性としてはまったく自信がない。
自信を持つ要素が、全く見当たらない。
私自身、誰かを好きになったことがない。
好きになってもきっと自分が苦しいだけだろうと思うと、どうしても腰が引けてしまう。
アンヌ=マリーのように、可愛らしく男性の気を引けたなら…
王太子も少しは、私を女性として見てくれただろうか。
そんな日々を過ごして、ある晩、深更になるまで政治や産業についてのレクチャーを受け、くたくたになって部屋へ戻ると、中にジェルヴェが待ち構えていた。
「え、ジェルヴェ…?」
驚く私にジェルヴェは駆け寄ってきて抱きつく。
「ちょ、っと何?!」
私は身体を捩ってジェルヴェの腕から逃げ出そうとするが、ジェルヴェはきつく抱きしめて離そうとしない。
「フィリベールが朝から遅くまであなたを傍に置いて片時も離さないから、私はもう嫉妬で気が狂いそうですよ。
陛下が崩御なさって、フィリベールがバルバストル公爵との一騎討ちに勝利した時は、私はあなたを諦めなければと思ったのですが、やっぱり無理だ」
苦しそうに言い、私の髪にキスする。
「あなたの輝くような笑顔、愛らしい仕草、理知的で心地よい声…何もかもが私を惹き付けて止まない。
愛してる。
諦められない…」
私は男の人の腕力に締めつけられて、息苦しくて目を閉じる。
本当に…?
ジェルヴェ、あなたは本当に私を愛してくれるの?
そしてだんだん、意識が遠のいていった。
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