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第九章 戴冠式の準備
3.ジェルヴェの生い立ち
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「それに引き換え、この私は…
陛下とフィリベールの、この無謀ともいえる計画は全然知らされていなかった。
情けないことです。
私は幼いころからまったく、陛下には信用がない」
ふうっと大きく息をついてジェルヴェはうつむく。
「陛下が早めに告解しておきたいと、神父様をお呼びになったときに、最後にお話しできたのです。
計画は極めて秘密裏に運ばなければならなかったから、ずっとフィリベールと二人だけで進めていて、ごくごく僅かな者にしか話して居なかった。
最後になってエスコフィエ侯爵やガレアッツォ翁、異国の皇子までが加勢してくれてここまで追いつめられる材料が揃ったと、陛下は仰っていた」
皆はしんとして、ジェルヴェの話を聞いている。
私は、気遣うような表情のクリスティーヌとオーギュストを見て、何か噂があるのかな、と感じた。
王と王弟の確執?みたいなもの??
「そういえば、陛下とジェルヴェ殿下の御年はずいぶん離れていらっしゃいますね。
私の一番上の兄と、一番下の第12皇子も25歳以上離れていますが、母親が違いますからね…
一番年若い母は、私の一つ上ですし」
お茶のお代わりを言いつけながら、ソロモンがのんびりと言った。
ああ…一夫多妻制だとそういうことがあるんだねえ…
皆、一様に感心したような顔になるが、ジェルヴェの表情は曇る。
「クリスティーヌ嬢とオーギュストは御存じでしょうが、…私は先王弟の胤ではないとの噂があるのですよ。
先王は王妃陛下(リンスターの大叔母上ですね)との間にお子を授からなかったので、王弟の子である陛下と私が養子になったのです。
陛下と私は親子ほども年が離れているので、もし万が一、陛下に王子ができなかったら、私が王位を継承するはずでした」
「母上が私を身籠ったとき、父上は病床にあったそうです。
母上はもちろん私が父上の子であることを最期まで主張していました。
両親とも亡き今、誰にも真偽のほどは判りません。
しかし…それが原因なのか、私に王者の資質が無いからなのか、それとももうフィリベールがいたからなのか、幼いころから陛下は私には何も話してくださらなかった」
ジェルヴェは片手で目を覆った。
「今回のことも、最後の最後まで、私は何も知らなかった。
リンスターを通じて知っていた、この計画の周囲や経過を知らなかったら、私は、今日大広間に集められた貴族たちと全く変わりがなかった。
甥のフィリベールは、あんなに立派に、ひとりで関係者と折衝し説得し計画を進めて、皆の前で大公爵を糾弾し弾劾し断罪まで持っていったというのに」
辛そうに独白するジェルヴェに、私たちはかけるべき言葉が見つからず、私はただジェルヴェの肩を撫でていた。
メンデエルにいる私のきょうだいだって、似たようなものだ。
父王は、愛妻の忘れ形見である第一王女のお姉様と、第一王子で王太子であるお兄様にしか、ほんっとうにご興味がない。
私や弟妹たちは、まともに声をかけていただいた記憶すらない。
私なんか、お父様から初めて言葉をかけられたと思ったら『輿入れ先が決まった、姉の代わりに嫁げ』だったし。
王家というのは、どこも家族としての形は歪んでいるものなのかもしれない。
長年、王家の継承というシナリオだけに多大な労力を費やしてきた結果、人間らしい感情はどこかへ置き去りになっているのか…
私はそうはなりたくない。
だけど、王太子はまた、次の愛妾公妾を持つのだろうか。
そうなんだろうなぁ。
王太子と子供を設けて家庭を持つ、なんて…
望まれない王太子妃である私が考えてはいけないんだ。
陛下とフィリベールの、この無謀ともいえる計画は全然知らされていなかった。
情けないことです。
私は幼いころからまったく、陛下には信用がない」
ふうっと大きく息をついてジェルヴェはうつむく。
「陛下が早めに告解しておきたいと、神父様をお呼びになったときに、最後にお話しできたのです。
計画は極めて秘密裏に運ばなければならなかったから、ずっとフィリベールと二人だけで進めていて、ごくごく僅かな者にしか話して居なかった。
最後になってエスコフィエ侯爵やガレアッツォ翁、異国の皇子までが加勢してくれてここまで追いつめられる材料が揃ったと、陛下は仰っていた」
皆はしんとして、ジェルヴェの話を聞いている。
私は、気遣うような表情のクリスティーヌとオーギュストを見て、何か噂があるのかな、と感じた。
王と王弟の確執?みたいなもの??
「そういえば、陛下とジェルヴェ殿下の御年はずいぶん離れていらっしゃいますね。
私の一番上の兄と、一番下の第12皇子も25歳以上離れていますが、母親が違いますからね…
一番年若い母は、私の一つ上ですし」
お茶のお代わりを言いつけながら、ソロモンがのんびりと言った。
ああ…一夫多妻制だとそういうことがあるんだねえ…
皆、一様に感心したような顔になるが、ジェルヴェの表情は曇る。
「クリスティーヌ嬢とオーギュストは御存じでしょうが、…私は先王弟の胤ではないとの噂があるのですよ。
先王は王妃陛下(リンスターの大叔母上ですね)との間にお子を授からなかったので、王弟の子である陛下と私が養子になったのです。
陛下と私は親子ほども年が離れているので、もし万が一、陛下に王子ができなかったら、私が王位を継承するはずでした」
「母上が私を身籠ったとき、父上は病床にあったそうです。
母上はもちろん私が父上の子であることを最期まで主張していました。
両親とも亡き今、誰にも真偽のほどは判りません。
しかし…それが原因なのか、私に王者の資質が無いからなのか、それとももうフィリベールがいたからなのか、幼いころから陛下は私には何も話してくださらなかった」
ジェルヴェは片手で目を覆った。
「今回のことも、最後の最後まで、私は何も知らなかった。
リンスターを通じて知っていた、この計画の周囲や経過を知らなかったら、私は、今日大広間に集められた貴族たちと全く変わりがなかった。
甥のフィリベールは、あんなに立派に、ひとりで関係者と折衝し説得し計画を進めて、皆の前で大公爵を糾弾し弾劾し断罪まで持っていったというのに」
辛そうに独白するジェルヴェに、私たちはかけるべき言葉が見つからず、私はただジェルヴェの肩を撫でていた。
メンデエルにいる私のきょうだいだって、似たようなものだ。
父王は、愛妻の忘れ形見である第一王女のお姉様と、第一王子で王太子であるお兄様にしか、ほんっとうにご興味がない。
私や弟妹たちは、まともに声をかけていただいた記憶すらない。
私なんか、お父様から初めて言葉をかけられたと思ったら『輿入れ先が決まった、姉の代わりに嫁げ』だったし。
王家というのは、どこも家族としての形は歪んでいるものなのかもしれない。
長年、王家の継承というシナリオだけに多大な労力を費やしてきた結果、人間らしい感情はどこかへ置き去りになっているのか…
私はそうはなりたくない。
だけど、王太子はまた、次の愛妾公妾を持つのだろうか。
そうなんだろうなぁ。
王太子と子供を設けて家庭を持つ、なんて…
望まれない王太子妃である私が考えてはいけないんだ。
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