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第八章 崩御と弾劾

11.鞠訊

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 ここからは、あとで聞いたことなのだけど、伝聞調だと紛らわしいのでその場にいたように書いちゃうわね。

 バルバストル公爵は、その時、王宮内にいた。
 まるで自分が王になるかのように戴冠式の采配を振って、笏を持ち王冠を横に置いて玉座に腰かけんばかりの様子だった。

 玉座の間に突然、ものすごい数の近衛兵(下っ端含む)が入ってきて、バルバストル公爵を取り囲む。
 公爵は驚いて、周りの兵たちに怒鳴りつけた。
 「なんだ!ここは玉座の間だぞ!
 お前たちのような者が入っていい場所ではない!」

 「あなたもですよ、バルバストル公爵」
 冷ややかな声がして、入ってきたのはフィリベール王太子だった。
 彼の後ろから入ってきたのは、愛娘のアンヌ=マリー。
 アンヌ=マリーの顔色は蒼白で、公爵は何か、得体の知れない不安が胸を満たしていくのを感じた。

 「お父様!」
 アンヌ=マリーは小走りに公爵の方へ足を踏み出す。
 が、よろけてしまって、公爵が差し延べた腕にすがるようにして抱きついてきた。
 「おい、どうした…
 殿下に何かされたのか?」
 公爵はフィリベール王太子をぎろっと睨みつける。

 背の高い王太子は腕を組んで、二人を見下ろした。
 「…まだ気づいていなかったのか、自分の娘の異変に。
 権力という魔に魅入られた哀れな男だ」
 そう言って、その端正な顔に冷たい笑みを浮かべる。

 「な…にを…」
 いつもは自分に阿るような、気弱な笑みを浮かべている王太子しか見たことがなかった。
 今は冷酷ともいえる、片頬だけをあげて笑う王太子の姿に、公爵は焦りを覚える。
 そして、腕にしがみついているアンヌ=マリーを見る。

 最近のアンヌ=マリーの顔色の悪さには、気づいていないわけではなかった。
 もしかしたら、王太子の子を身ごもったのではないかと、密かに期待していた。
 しかし、今、至近距離で見る娘は、肌も荒れているようだし呼吸も不規則だ。
 バルバストル公爵は、自分を見上げる娘の瞳を見て、息を呑んだ。

 「もしかして…そなた…まさか!」
 公爵は驚愕の表情で娘の肩を掴む。
 「痛い!お父様!」
 「あの、キャンディを食べたのか?!」
 「だって、美味しかったんだもの。
 男の人が食べて良いなら、わたくしだって」

 アンヌ=マリーの言葉に、公爵は膝から崩れ落ちそうになる。
 「愚かな娘を持つと苦労するな、公爵殿」
 小馬鹿にしたように言って、クックと笑う王太子を、公爵は信じられない思いで見上げた。

 王太子はゆっくり歩いて、段の上に昇り、玉座の前に立った。
 「公爵、そなたが最初から、私の妃にしようと目論んで娘をわざと近づけたのは判っていた。
 そなたの企みに気づきながら、それに気づかぬふりで乗ったのは、父上との計画があったからだ。
 すなわち、ルーマデュカの膿ともいえる、公爵一派の掃討だ」

 「ふざけるな!この、小童が!」
 怒りで顔を赤黒く染めながら公爵は言い放つ。
 「何を言っているのだ、この愚昧な王子が!
 この国の国王は代々、我らがいなければ何もできないのだ。
 儂に逆らってこの国で生きていけると思うなよ!
 思いあがるな、何も知らないクソガキが!」

 唾を飛ばして、周りの兵たちに命令する。
 「衛兵!近衛兵!
 バルバストル公爵の命令だ!
 この、王太子とやら名乗る男をひっとらえろ!
 どちらが正しいか、裁判にかけてやる!」

 しかし、公爵の周りを取り囲む近衛兵たちは微動だにせず、表情一つ変えることなく、一歩、公爵に近づいた。
 「残念だな、公爵。
 そなたの言う裁判は、一般的には私刑リンチと言うのだよ。
 何が裁判だ、バカバカしい」

 残酷な笑みを頬に刻む王太子は「さあ、お楽しみはこれからだ」と言って、近衛兵が取り囲む公爵の背後に合図した。
 
 
 

 

 
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