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第八章 崩御と弾劾
5.パーティーの様子
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まず、ジェルヴェが駆け込んできた。
「あっやっぱりスレイマン殿下がいらっしゃってる!
パーティの途中、気分の悪そうなアンヌ=マリー嬢と一緒に出て行って、パーティが終わった後にアンヌ=マリー嬢がフィリベールと戻ってきて…
もしかして作戦の実行に関わる何かをなさっているのかとも思ったのですが」
言いながらずかずかと近づいてきて、私の手を握るソロモンの手を強引に外す。
ソロモンは肩をすくめて苦笑いした。
「もちろんそうですよ。
アンヌ=マリー嬢が敵の仲間に合図を送る手はずになっていたことを私は事前に知っていましたので、それを妨害したのです。
本人はそうとは知らなかったようですが…
事前にアンヌ=マリー様がサプライズがあるから、侯爵夫人がご挨拶にいらっしゃったら伯爵に報せるようにと言われていたみたいです」
ジェルヴェに手を引っ張られて立ち上がった私は、えっと驚いてジェルヴェの腕の中に囲われながら振り向いてソロモンを見つめる。
「アンヌ=マリー嬢のグラスにちょっとした仕掛けを施しましてね。
ごくごく軽い薬物を少し飲み物に入れたんです。
ご気分が悪くなった時を見計らって声をかけたんですよ。
彼女は侯爵夫人にサプライズがあるという敵の言葉を信じていたようだから、王太子殿下と一緒に戻ってきたのでしょう。
ま、合図するタイミングは完全に逸しましたけどね」
私はジェルヴェの腕を振りほどき、ソロモンに向き直る。
「グラスに仕掛けって…
ソロモンがやったっていう証拠は残らないの?
あまり、危ないことはしないでちょうだい」
ソロモンはふっと微笑んで私を見つめた。
漆のような深く煌めく瞳が熱を帯びて艶めく。
私は吸い込まれそうな気がして目を逸らした。
「心配してくださるのですか、あなたは本当に優しい。
本当ならこんな血なまぐさい事柄には巻き込みたくなかった。
あなたは何も心配しないでいいのですよ」
「そうですよ。
私たちが、手足となって働けば良いのです。
あなたはここで、楽しく明るく笑っていてくだされば」
ジェルヴェが私の手を取って口づける。
なんか、それもちょっとバカっぽいって言うか、この立場でアハハケラケラと過ごしてればいいとは思えないけれども…
私はなんだか釈然としない思いでジェルヴェに頭を撫でられていた。
「お疲れ様でした。
いよいよですね」
オーギュストがクリスティーヌの手を引き、ガレアッツォ翁と共に入ってきた。
皆、少し緊張の面持ちだ。
ガレアッツォ翁を椅子に掛けさせ、私は侍女たちにお茶の支度を指示する。
皆でテーブルを囲み、落ち着かない気持ちで私は皆をねぎらった。
「お疲れ様。
何か、変わったことはなかった?
殿下のご様子は?」
「いつもと同じように振る舞うのが大変でした。
変な汗をかきました。
特に、変わったことはなかったような…」
「あ、でも、アンヌ=マリー様が途中でご気分がお悪くなったようで退出されましたわ。
エスコフィエ侯爵ご夫妻がお帰りになってから戻っていらして、王太子殿下に癇癪を起してかなり怒っておられて。
王太子殿下も宥めるのが大変なご様子でお気の毒でしたわ」
私はちらっとソロモンを見遣る。
ソロモンは涼しい顔でお茶のカップを口に運んでいる。
窓の外で何か音がした。
ソロモンが顔を上げ、傍に立っていたグレーテルを呼んで何事か命じている。
グレーテルは片足を引いてお辞儀し、窓の方へ近づく。
背の高い小姓を呼んで、鎧戸を外して窓を開けた。
雪交じりの風が吹き込んでくる。
小姓は「あ、ありました」と言って何かを窓枠から引き抜きグレーテルに渡した。
グレーテルは急いでそれをソロモンに差し出す。
それは矢だった。
矢尻が赤く塗られている。
矢を見たソロモンはにこりと微笑んだ。
「うまくいきました。
賊は一網打尽に捕まえましたよ。
勿論無傷でね」
「あっやっぱりスレイマン殿下がいらっしゃってる!
パーティの途中、気分の悪そうなアンヌ=マリー嬢と一緒に出て行って、パーティが終わった後にアンヌ=マリー嬢がフィリベールと戻ってきて…
もしかして作戦の実行に関わる何かをなさっているのかとも思ったのですが」
言いながらずかずかと近づいてきて、私の手を握るソロモンの手を強引に外す。
ソロモンは肩をすくめて苦笑いした。
「もちろんそうですよ。
アンヌ=マリー嬢が敵の仲間に合図を送る手はずになっていたことを私は事前に知っていましたので、それを妨害したのです。
本人はそうとは知らなかったようですが…
事前にアンヌ=マリー様がサプライズがあるから、侯爵夫人がご挨拶にいらっしゃったら伯爵に報せるようにと言われていたみたいです」
ジェルヴェに手を引っ張られて立ち上がった私は、えっと驚いてジェルヴェの腕の中に囲われながら振り向いてソロモンを見つめる。
「アンヌ=マリー嬢のグラスにちょっとした仕掛けを施しましてね。
ごくごく軽い薬物を少し飲み物に入れたんです。
ご気分が悪くなった時を見計らって声をかけたんですよ。
彼女は侯爵夫人にサプライズがあるという敵の言葉を信じていたようだから、王太子殿下と一緒に戻ってきたのでしょう。
ま、合図するタイミングは完全に逸しましたけどね」
私はジェルヴェの腕を振りほどき、ソロモンに向き直る。
「グラスに仕掛けって…
ソロモンがやったっていう証拠は残らないの?
あまり、危ないことはしないでちょうだい」
ソロモンはふっと微笑んで私を見つめた。
漆のような深く煌めく瞳が熱を帯びて艶めく。
私は吸い込まれそうな気がして目を逸らした。
「心配してくださるのですか、あなたは本当に優しい。
本当ならこんな血なまぐさい事柄には巻き込みたくなかった。
あなたは何も心配しないでいいのですよ」
「そうですよ。
私たちが、手足となって働けば良いのです。
あなたはここで、楽しく明るく笑っていてくだされば」
ジェルヴェが私の手を取って口づける。
なんか、それもちょっとバカっぽいって言うか、この立場でアハハケラケラと過ごしてればいいとは思えないけれども…
私はなんだか釈然としない思いでジェルヴェに頭を撫でられていた。
「お疲れ様でした。
いよいよですね」
オーギュストがクリスティーヌの手を引き、ガレアッツォ翁と共に入ってきた。
皆、少し緊張の面持ちだ。
ガレアッツォ翁を椅子に掛けさせ、私は侍女たちにお茶の支度を指示する。
皆でテーブルを囲み、落ち着かない気持ちで私は皆をねぎらった。
「お疲れ様。
何か、変わったことはなかった?
殿下のご様子は?」
「いつもと同じように振る舞うのが大変でした。
変な汗をかきました。
特に、変わったことはなかったような…」
「あ、でも、アンヌ=マリー様が途中でご気分がお悪くなったようで退出されましたわ。
エスコフィエ侯爵ご夫妻がお帰りになってから戻っていらして、王太子殿下に癇癪を起してかなり怒っておられて。
王太子殿下も宥めるのが大変なご様子でお気の毒でしたわ」
私はちらっとソロモンを見遣る。
ソロモンは涼しい顔でお茶のカップを口に運んでいる。
窓の外で何か音がした。
ソロモンが顔を上げ、傍に立っていたグレーテルを呼んで何事か命じている。
グレーテルは片足を引いてお辞儀し、窓の方へ近づく。
背の高い小姓を呼んで、鎧戸を外して窓を開けた。
雪交じりの風が吹き込んでくる。
小姓は「あ、ありました」と言って何かを窓枠から引き抜きグレーテルに渡した。
グレーテルは急いでそれをソロモンに差し出す。
それは矢だった。
矢尻が赤く塗られている。
矢を見たソロモンはにこりと微笑んだ。
「うまくいきました。
賊は一網打尽に捕まえましたよ。
勿論無傷でね」
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