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第八章 崩御と弾劾
1.王太子との話
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やがて夕刻になり、王太子が来ると言っていた時刻が近づく。
ガレアッツォ翁が私の部屋に来て、クラウスと共に寝室に通す。
ソロモンは話の都合上、仕方ないとして…その他の人は後で必ず話すからと、居間の方で待機してもらうことにした。
ジェルヴェはもう拗ねたり怒ったり泣いたり、宥めるのが大変だったけど、そんなにたくさんの人が入れるほど広くないし、私の寝室だし!
約束の刻限通りに王太子が暖炉の横から現れ、私以外の三人を見てぎょっとする。
「なん…で…」
驚きのあまり言葉が続かない様子の王太子を見て、私はこみあげる笑いをこらえながら左足のつま先を引いてお辞儀をする。
他の三人も深くお辞儀した。
「いらしてくださってありがとうございます殿下」
私が言うと、少しおいて「…ああ」とようやく返事をした王太子は、用意してあった椅子に腰かけ「皆も座ってくれ」と促した。
「リンスターはこちらへ」
ソロモンが小さく囁き、優雅に流れるような動作で私の腰を抱き、二人掛けの長椅子に自然に隣に座らせた。
王太子の顔色が変わり、ガレアッツォ翁は苦笑し、クラウスは拳を握る。
私はいたたまれなくなって立ち上がろうとするのだが、ソロモンは涼しい顔で私を離さない。
いつまでもそうしてもいられないので、仕方なくそのままで話し始めた。
「今日、いらしていただいたのは、アンヌ=マリー様とバルバストル公爵について、殿下にお話し申し上げたいことがあったからです。
人目と耳を憚る話でしたので、殿下にご足労を願いました」
「それは判った。
で、何で異国の皇子がそこにいるんだ。
しかも…私の妃とそのように近しく」
王太子はその端正な顔を歪め、苦々しく言う。
「私も殿下にお話があったからですよ。
私はリンスターと一刻も離れていたくないのでこのような状態でお話しさせていただきますね」
しゃあしゃあとにこやかに答え、ソロモンは自身の入国目的を話し出した。
私は驚いてクラウスと目配せする。
正直なところ、ソロモンに同席してもらうかは微妙なところだった。
もしかしたらルーマデュカの内部情報を聞き出して、自国に持ち帰るつもりなのではないか、麻薬の取引に関することなどおくびにも出さないでただ情報を集めようとしているだけなのではないかと勘繰っていたからだ。
王太子も驚愕したように身を乗り出してソロモンの話に聞き入っていた。
アンヌ=マリーのキャンディの話になると、ぐっと椅子の背にもたれかかって渋い顔をする。
「…あれを、皇子殿下に差し上げたというのか?
アンヌ=マリーが?」
「ベッドを共にする男性には、あげているような口吻でしたよ。
私はああいったものには耐性があるので、何ともありませんでしたが、王太子殿下は大丈夫なんですか?
見たところ、ご存知だったようだが…」
ソロモンは意外そうに言い、いつの間にか彼の膝の上にいた私もこくこくと頷く。
ってか、ソロモン…アンヌ=マリーと…そういうことしたの??
私は全身の力を込めてソロモンの膝から逃げ出し、息を切らしながら空いていた椅子に座る。
王太子はそんな私を見て少し微笑み、ソロモンに向かって話す。
「最初に一度、食べてみてこれはヤバいと思った。
それからは食べたふりしてやり過ごしていた。
誰かに成分の分析を頼めないかと考えてはいたのが…公爵の息のかかっていない科学者や医者を探せなくて…」
「それは今日、陛下からいただいて分析しましたよ。
非常に効果の弱いものではありますが…完全に麻薬です」
「えっ!
ガレアッツォ翁が?!」
穏やかな口調で何気なく物騒な話をするガレアッツォ翁を振り向いて、王太子は椅子から立ち上がりそうになる。
ガレアッツォ翁は表情を引き締めた。
「今朝、王太子妃殿下と二人で陛下のお食事をお持ちしました」
ガレアッツォ翁は順序だてて、今朝の話をしていく。
その後の成分分析の詳しい話は、私には全然判らなかったけれど、王太子やクラウスは理解しているようだった。
「アンヌ=マリーの挙動がここ最近は特に、おかしい事には気づいていた。
外交の場には出せないこともある。
元々、ダンスは苦手なのだが、最近はすぐによろけたりして踊れないんだ。
スレイマン皇子殿下の歓迎晩餐会の時も、リンディア帝国との関係を重視したこともあったが、実は挙措に不安があったから妃に出てもらったのだが…」
そんなに摂取していたのか、と苦しそうな表情をする。
アンヌ=マリーのこと、そんなに心配なんだ…
私の心を暗く重いものが満たしていき、私はわずかに息苦しさを感じた。
「リンスター、お顔の色が悪いですよ。
大丈夫ですか?」
気づくとソロモンが私のすぐ横に膝をついて、心配そうに顔を覗き込んでいた。
ソロモンがなだめるように優しく撫でている私の手が、椅子のひじ掛けを握りしめて色を失っていることに気づいて、慌てて手を離した。
ガレアッツォ翁が私の部屋に来て、クラウスと共に寝室に通す。
ソロモンは話の都合上、仕方ないとして…その他の人は後で必ず話すからと、居間の方で待機してもらうことにした。
ジェルヴェはもう拗ねたり怒ったり泣いたり、宥めるのが大変だったけど、そんなにたくさんの人が入れるほど広くないし、私の寝室だし!
約束の刻限通りに王太子が暖炉の横から現れ、私以外の三人を見てぎょっとする。
「なん…で…」
驚きのあまり言葉が続かない様子の王太子を見て、私はこみあげる笑いをこらえながら左足のつま先を引いてお辞儀をする。
他の三人も深くお辞儀した。
「いらしてくださってありがとうございます殿下」
私が言うと、少しおいて「…ああ」とようやく返事をした王太子は、用意してあった椅子に腰かけ「皆も座ってくれ」と促した。
「リンスターはこちらへ」
ソロモンが小さく囁き、優雅に流れるような動作で私の腰を抱き、二人掛けの長椅子に自然に隣に座らせた。
王太子の顔色が変わり、ガレアッツォ翁は苦笑し、クラウスは拳を握る。
私はいたたまれなくなって立ち上がろうとするのだが、ソロモンは涼しい顔で私を離さない。
いつまでもそうしてもいられないので、仕方なくそのままで話し始めた。
「今日、いらしていただいたのは、アンヌ=マリー様とバルバストル公爵について、殿下にお話し申し上げたいことがあったからです。
人目と耳を憚る話でしたので、殿下にご足労を願いました」
「それは判った。
で、何で異国の皇子がそこにいるんだ。
しかも…私の妃とそのように近しく」
王太子はその端正な顔を歪め、苦々しく言う。
「私も殿下にお話があったからですよ。
私はリンスターと一刻も離れていたくないのでこのような状態でお話しさせていただきますね」
しゃあしゃあとにこやかに答え、ソロモンは自身の入国目的を話し出した。
私は驚いてクラウスと目配せする。
正直なところ、ソロモンに同席してもらうかは微妙なところだった。
もしかしたらルーマデュカの内部情報を聞き出して、自国に持ち帰るつもりなのではないか、麻薬の取引に関することなどおくびにも出さないでただ情報を集めようとしているだけなのではないかと勘繰っていたからだ。
王太子も驚愕したように身を乗り出してソロモンの話に聞き入っていた。
アンヌ=マリーのキャンディの話になると、ぐっと椅子の背にもたれかかって渋い顔をする。
「…あれを、皇子殿下に差し上げたというのか?
アンヌ=マリーが?」
「ベッドを共にする男性には、あげているような口吻でしたよ。
私はああいったものには耐性があるので、何ともありませんでしたが、王太子殿下は大丈夫なんですか?
見たところ、ご存知だったようだが…」
ソロモンは意外そうに言い、いつの間にか彼の膝の上にいた私もこくこくと頷く。
ってか、ソロモン…アンヌ=マリーと…そういうことしたの??
私は全身の力を込めてソロモンの膝から逃げ出し、息を切らしながら空いていた椅子に座る。
王太子はそんな私を見て少し微笑み、ソロモンに向かって話す。
「最初に一度、食べてみてこれはヤバいと思った。
それからは食べたふりしてやり過ごしていた。
誰かに成分の分析を頼めないかと考えてはいたのが…公爵の息のかかっていない科学者や医者を探せなくて…」
「それは今日、陛下からいただいて分析しましたよ。
非常に効果の弱いものではありますが…完全に麻薬です」
「えっ!
ガレアッツォ翁が?!」
穏やかな口調で何気なく物騒な話をするガレアッツォ翁を振り向いて、王太子は椅子から立ち上がりそうになる。
ガレアッツォ翁は表情を引き締めた。
「今朝、王太子妃殿下と二人で陛下のお食事をお持ちしました」
ガレアッツォ翁は順序だてて、今朝の話をしていく。
その後の成分分析の詳しい話は、私には全然判らなかったけれど、王太子やクラウスは理解しているようだった。
「アンヌ=マリーの挙動がここ最近は特に、おかしい事には気づいていた。
外交の場には出せないこともある。
元々、ダンスは苦手なのだが、最近はすぐによろけたりして踊れないんだ。
スレイマン皇子殿下の歓迎晩餐会の時も、リンディア帝国との関係を重視したこともあったが、実は挙措に不安があったから妃に出てもらったのだが…」
そんなに摂取していたのか、と苦しそうな表情をする。
アンヌ=マリーのこと、そんなに心配なんだ…
私の心を暗く重いものが満たしていき、私はわずかに息苦しさを感じた。
「リンスター、お顔の色が悪いですよ。
大丈夫ですか?」
気づくとソロモンが私のすぐ横に膝をついて、心配そうに顔を覗き込んでいた。
ソロモンがなだめるように優しく撫でている私の手が、椅子のひじ掛けを握りしめて色を失っていることに気づいて、慌てて手を離した。
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