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第七章 スキャンダル
6.ネックレスの行方
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「アンヌ=マリー様が金切り声をあげて衛兵を呼び、オランド枢機卿は何か叫びながら引きずられるようにして退出していきました。
私たちは皆、唖然として事の成り行きを見守っていたのですが…
王太子殿下が『皆、申し訳なかった。今宵はこれで散会とする』としがみつくアンヌ=マリー様を宥めながら仰って、皆は御前を下がってきたのです」
ため息をついて、ドゥラクロワ子爵がお茶を飲んだ。
皆も重苦しい気持ちで、カップを口に運ぶ。
「その場にいらっしゃった方々は、皆、こうやっていろいろな方にお話しなさって、噂は瞬く間に宮廷内外に広がってしまうでしょうな。
人の口に戸は立てられぬ、というのをご承知で、王太子殿下は敢えて皆の口を塞がなかったのか…」
意外とお酒よりも甘いものの好きなガレアッツォ翁が、小さな焼きショコラを口に入れて「おお、リンスター妃殿下、これは新作ですか。美味しいですね、疲れがとれるようだ」と目を細める。
私はガレアッツォ翁に微笑んでみせ、自分も口にひとつ入れた。
「ショコラは栄養価が高いし、お砂糖も滋養にいいからこれを陛下にも差し上げようかと思って。
クリスティーヌ、どうかしら。
もう少し甘さを抑えたほうがいい?」
クリスティーヌは少し考えて、にこっと笑う。
「そうですわね、陛下や殿方にはもう少し抑えめの方が宜しいかと思いますが…
女性にはこれくらいの方が喜ばれると存じますわ」
私はうんうんと頷いて「司厨長、ビュラン(パティシエ)に伝えておいてくださる?」と言い、司厨長は「畏まりました」と恭しく私とクリスティーヌに向かってお辞儀した。
「ボーマルシェ夫妻はオランド枢機卿を騙して作らせたネックレスをどこへ持ち去ったのかしら。
今どこにいるか所在は判っているの?
それとも…ボーマルシェ夫妻の手にも渡っていなくて、宝石商がお金だけ受け取って逃げた、とか?」
私は誰にともなく疑問を口にする。
「そこらへんは、フィリベールが宰相に指示を出していたから、おいおい解明するとは思いますが…
オランド枢機卿は請求書のようなものを懐から出して喚いていたので、モノは恐らくボーマルシェ夫妻が持ち逃げしているかと思われますねえ…
それが降誕祭前だとすると、もう、ルーマデュカ国内にはいないと考えた方が宜しいでしょう」
ジェルヴェがまた腕を組んで、唸るように話した。
「アンヌ=マリー様のサロンの評判が、また堕ちてしまうかもしれませんね。
最近はシャミナード伯爵の自死や、異国の外交官皇子が頻繁に出入りして、なんとなくきな臭い感じも漂っているし」
ドゥラクロワ子爵が思案顔で小さく言う。
私は、ソロモンのことが心配だった。
調査のためとはいえ、あまり深入りしては彼自身の身にも何か良くないことが起こるのではないだろうか。
「バルバストル公爵という、王家をも凌駕するほどの権力財力を持つ方の後ろ盾があっても、これ以上続けていくのは難しいかもしれないな…
しかし、そもそもサロンという名を冠していても、結局は賭博場など王宮の中に作るべきではないのだから、これで良いのかもな」
ジェルヴェも考え込んで言う。
あ、…でも賭博場は隠れ蓑で、本当はご禁制の品の売買を目的としているって…
それを知っていたシャミナード伯爵は消されてしまって、反バルバストルの筆頭であるエスコフィエ侯爵も身辺に気をつけろって大公爵自身が言っていたと、ガレアッツォ翁から聞いた。
それで、ソロモンはその調査のため国の皇帝から命じられて、賭博好きの皇子を装ってルーマデュカに来ていて…
ああ、頭がごちゃごちゃになる。
どうしたらいいんだろう。
王太子は、どう考えているんだろう。
そんな私の思いを他所に、事態は勝手に進んでいった。
私たちは皆、唖然として事の成り行きを見守っていたのですが…
王太子殿下が『皆、申し訳なかった。今宵はこれで散会とする』としがみつくアンヌ=マリー様を宥めながら仰って、皆は御前を下がってきたのです」
ため息をついて、ドゥラクロワ子爵がお茶を飲んだ。
皆も重苦しい気持ちで、カップを口に運ぶ。
「その場にいらっしゃった方々は、皆、こうやっていろいろな方にお話しなさって、噂は瞬く間に宮廷内外に広がってしまうでしょうな。
人の口に戸は立てられぬ、というのをご承知で、王太子殿下は敢えて皆の口を塞がなかったのか…」
意外とお酒よりも甘いものの好きなガレアッツォ翁が、小さな焼きショコラを口に入れて「おお、リンスター妃殿下、これは新作ですか。美味しいですね、疲れがとれるようだ」と目を細める。
私はガレアッツォ翁に微笑んでみせ、自分も口にひとつ入れた。
「ショコラは栄養価が高いし、お砂糖も滋養にいいからこれを陛下にも差し上げようかと思って。
クリスティーヌ、どうかしら。
もう少し甘さを抑えたほうがいい?」
クリスティーヌは少し考えて、にこっと笑う。
「そうですわね、陛下や殿方にはもう少し抑えめの方が宜しいかと思いますが…
女性にはこれくらいの方が喜ばれると存じますわ」
私はうんうんと頷いて「司厨長、ビュラン(パティシエ)に伝えておいてくださる?」と言い、司厨長は「畏まりました」と恭しく私とクリスティーヌに向かってお辞儀した。
「ボーマルシェ夫妻はオランド枢機卿を騙して作らせたネックレスをどこへ持ち去ったのかしら。
今どこにいるか所在は判っているの?
それとも…ボーマルシェ夫妻の手にも渡っていなくて、宝石商がお金だけ受け取って逃げた、とか?」
私は誰にともなく疑問を口にする。
「そこらへんは、フィリベールが宰相に指示を出していたから、おいおい解明するとは思いますが…
オランド枢機卿は請求書のようなものを懐から出して喚いていたので、モノは恐らくボーマルシェ夫妻が持ち逃げしているかと思われますねえ…
それが降誕祭前だとすると、もう、ルーマデュカ国内にはいないと考えた方が宜しいでしょう」
ジェルヴェがまた腕を組んで、唸るように話した。
「アンヌ=マリー様のサロンの評判が、また堕ちてしまうかもしれませんね。
最近はシャミナード伯爵の自死や、異国の外交官皇子が頻繁に出入りして、なんとなくきな臭い感じも漂っているし」
ドゥラクロワ子爵が思案顔で小さく言う。
私は、ソロモンのことが心配だった。
調査のためとはいえ、あまり深入りしては彼自身の身にも何か良くないことが起こるのではないだろうか。
「バルバストル公爵という、王家をも凌駕するほどの権力財力を持つ方の後ろ盾があっても、これ以上続けていくのは難しいかもしれないな…
しかし、そもそもサロンという名を冠していても、結局は賭博場など王宮の中に作るべきではないのだから、これで良いのかもな」
ジェルヴェも考え込んで言う。
あ、…でも賭博場は隠れ蓑で、本当はご禁制の品の売買を目的としているって…
それを知っていたシャミナード伯爵は消されてしまって、反バルバストルの筆頭であるエスコフィエ侯爵も身辺に気をつけろって大公爵自身が言っていたと、ガレアッツォ翁から聞いた。
それで、ソロモンはその調査のため国の皇帝から命じられて、賭博好きの皇子を装ってルーマデュカに来ていて…
ああ、頭がごちゃごちゃになる。
どうしたらいいんだろう。
王太子は、どう考えているんだろう。
そんな私の思いを他所に、事態は勝手に進んでいった。
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