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第七章 スキャンダル

4.勃発

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 年始の謁見とその後のパーティーには、私はやはり呼ばれなかった。
 しかし陛下の容態が少し落ち着いたことはお妃様やお医師から聞いたようで、またたくさんの贈り物が王太子から届いた。
 私を呼ばなかったのは、連日の徹夜のことをガレアッツォ翁に聞いたためらしい。
 王太子からのメモみたいな走り書きの手紙を読んで、私は何故か心が浮き立つのを覚えた。
 私のことを気にかけてくれているのだと判ったから…
 
 アンヌ=マリーは贈り物のことを知っているのかしら、知っていたらどう思われるだろうと私は不安に思って、ジェルヴェに訊いてみた。
 ジェルヴェはきょとんとして、それから破顔する。
 「そんなこと、リンスターがお気になさらなくていいのですよ。
 堂々としていらっしゃい、あなたは我が国の王太子妃なのです。
 メンデエル国から正式に嫁してこられた、あなたに何も後ろ暗いところはない」

 うーん…それはそうなんだけど…
 率直に言って、アンヌ=マリーはどうでもいいというか、ま、どうでもいいんだけど。
 そのバックについている、巨大な権力者であるお父上の存在と嫌がらせが迷惑なのよねぇ。
 私を秘密裏に消すことだってやろうと思えば簡単にできそうじゃないの?

 それに「メンデエル国から正式に嫁してきた」とは言っても…
 そもそもは第一王女であるお姉様が嫁いで来られるはずだった。
 1か月で嫁いで来いと言われて、お身体の弱く掌中の珠であるお姉様をお父様が手放したがらなかったから、私にお鉢が回ってきただけで。

 しかも最初の扱いときたら…
 思い出すだに腹が立つ。
 ジェルヴェが私の味方になってくれなかったら、まだ、あんな扱いを受けたままだったかもしれない。

 王様の容態は、良いとはとても言えないけれど。
 何も口にできなかったのが、ほんの僅かだけど召し上がれるようになってきた。
 司厨長は張り切って、栄養価の高い食材を使い消化の良いスープを作ってくれた。
 
 一週間も続いた新年のパーティーで、最終日にその事件は起きた、らしい。
 私はいつものように陛下のお部屋を訪れて、自分の部屋へ戻ってきて明日の治療や食事のことをガレアッツォ翁や司厨長と相談しようと、テーブルを囲んで座った時だった。

 もはやおとないもなく、ジェルヴェが「麗しのリンスター!」と言いながら勝手に入ってくる。
 そしてテーブルのメンバーを見て「おっと、作戦会議ですか」と笑う。

 いつものおどけた感じはあるものの、その表情に少し翳りがあるように見えて私は「ジェルヴェ、どうしたの?何かあった?」と訊いた。
 「さすがリンスター。
 あなたに隠し事はできないですね」
 ジェルヴェは苦笑して、私の隣の椅子に腰かけた。

 その時、小姓のマルクが遠慮がちに私の隣へ来た。
 「申し上げます。
 只今、コルビュジェ侯爵ご令嬢クリスティーヌ様とドゥラクロワ子爵様がお越しになりまして、お妃様にお目通り願いたいと」
 「あ、たぶん、私と同じ用件でしょう。
 お通しして構わないよ」
 ジェルヴェがさらっと答え、マルクはお辞儀して立ち去った。

 ちょっとぉ、ここ私の部屋なんですけど…
 私が抗議の声を上げる間もなく、バタバタとお茶の用意が追加され、二人が案内されて入ってきた。
 「すみません急に…
 どうしてもリンスター様と話したいと思いまして」
 「ジェルヴェ殿下もきっと、ここにいらっしゃると思い、失礼とは存じますが来てしまいました」

 二人はガレアッツォ翁と司厨長(の顔は多分知らないから、ただの太った偉そうなおじさんに見えていることだろう)を見て、恐縮したように頭を下げる。
 二人ともジェルヴェ同様に夜会服を着ていて、パーティーの会場から直接来たのだと判る。
 「今、ジェルヴェから話を聞こうとしていたところなの。
 おかけになって」

 私は二人を促して、腰かけさせる。
 そしてジェルヴェに「何があったの?」と訊くと、ジェルヴェはクリスティーヌとドゥラクロワ子爵の顔を見て、小さくうなずいて口を開いた。

 「アンヌ=マリー嬢が騙りかた詐欺に遭ったようです。
 先ほどの新年のパーティーの会場で突然オランド枢機卿が暴露して、大騒ぎになりました」

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