76 / 161
第七章 スキャンダル
4.勃発
しおりを挟む
年始の謁見とその後のパーティーには、私はやはり呼ばれなかった。
しかし陛下の容態が少し落ち着いたことはお妃様やお医師から聞いたようで、またたくさんの贈り物が王太子から届いた。
私を呼ばなかったのは、連日の徹夜のことをガレアッツォ翁に聞いたためらしい。
王太子からのメモみたいな走り書きの手紙を読んで、私は何故か心が浮き立つのを覚えた。
私のことを気にかけてくれているのだと判ったから…
アンヌ=マリーは贈り物のことを知っているのかしら、知っていたらどう思われるだろうと私は不安に思って、ジェルヴェに訊いてみた。
ジェルヴェはきょとんとして、それから破顔する。
「そんなこと、リンスターがお気になさらなくていいのですよ。
堂々としていらっしゃい、あなたは我が国の王太子妃なのです。
メンデエル国から正式に嫁してこられた、あなたに何も後ろ暗いところはない」
うーん…それはそうなんだけど…
率直に言って、アンヌ=マリーはどうでもいいというか、ま、どうでもいいんだけど。
そのバックについている、巨大な権力者であるお父上の存在と嫌がらせが迷惑なのよねぇ。
私を秘密裏に消すことだってやろうと思えば簡単にできそうじゃないの?
それに「メンデエル国から正式に嫁してきた」とは言っても…
そもそもは第一王女であるお姉様が嫁いで来られるはずだった。
1か月で嫁いで来いと言われて、お身体の弱く掌中の珠であるお姉様をお父様が手放したがらなかったから、私にお鉢が回ってきただけで。
しかも最初の扱いときたら…
思い出すだに腹が立つ。
ジェルヴェが私の味方になってくれなかったら、まだ、あんな扱いを受けたままだったかもしれない。
王様の容態は、良いとはとても言えないけれど。
何も口にできなかったのが、ほんの僅かだけど召し上がれるようになってきた。
司厨長は張り切って、栄養価の高い食材を使い消化の良いスープを作ってくれた。
一週間も続いた新年のパーティーで、最終日にその事件は起きた、らしい。
私はいつものように陛下のお部屋を訪れて、自分の部屋へ戻ってきて明日の治療や食事のことをガレアッツォ翁や司厨長と相談しようと、テーブルを囲んで座った時だった。
もはや訪いもなく、ジェルヴェが「麗しのリンスター!」と言いながら勝手に入ってくる。
そしてテーブルのメンバーを見て「おっと、作戦会議ですか」と笑う。
いつものおどけた感じはあるものの、その表情に少し翳りがあるように見えて私は「ジェルヴェ、どうしたの?何かあった?」と訊いた。
「さすがリンスター。
あなたに隠し事はできないですね」
ジェルヴェは苦笑して、私の隣の椅子に腰かけた。
その時、小姓のマルクが遠慮がちに私の隣へ来た。
「申し上げます。
只今、コルビュジェ侯爵ご令嬢クリスティーヌ様とドゥラクロワ子爵様がお越しになりまして、お妃様にお目通り願いたいと」
「あ、たぶん、私と同じ用件でしょう。
お通しして構わないよ」
ジェルヴェがさらっと答え、マルクはお辞儀して立ち去った。
ちょっとぉ、ここ私の部屋なんですけど…
私が抗議の声を上げる間もなく、バタバタとお茶の用意が追加され、二人が案内されて入ってきた。
「すみません急に…
どうしてもリンスター様と話したいと思いまして」
「ジェルヴェ殿下もきっと、ここにいらっしゃると思い、失礼とは存じますが来てしまいました」
二人はガレアッツォ翁と司厨長(の顔は多分知らないから、ただの太った偉そうなおじさんに見えていることだろう)を見て、恐縮したように頭を下げる。
二人ともジェルヴェ同様に夜会服を着ていて、パーティーの会場から直接来たのだと判る。
「今、ジェルヴェから話を聞こうとしていたところなの。
おかけになって」
私は二人を促して、腰かけさせる。
そしてジェルヴェに「何があったの?」と訊くと、ジェルヴェはクリスティーヌとドゥラクロワ子爵の顔を見て、小さくうなずいて口を開いた。
「アンヌ=マリー嬢が騙り詐欺に遭ったようです。
先ほどの新年のパーティーの会場で突然オランド枢機卿が暴露して、大騒ぎになりました」
しかし陛下の容態が少し落ち着いたことはお妃様やお医師から聞いたようで、またたくさんの贈り物が王太子から届いた。
私を呼ばなかったのは、連日の徹夜のことをガレアッツォ翁に聞いたためらしい。
王太子からのメモみたいな走り書きの手紙を読んで、私は何故か心が浮き立つのを覚えた。
私のことを気にかけてくれているのだと判ったから…
アンヌ=マリーは贈り物のことを知っているのかしら、知っていたらどう思われるだろうと私は不安に思って、ジェルヴェに訊いてみた。
ジェルヴェはきょとんとして、それから破顔する。
「そんなこと、リンスターがお気になさらなくていいのですよ。
堂々としていらっしゃい、あなたは我が国の王太子妃なのです。
メンデエル国から正式に嫁してこられた、あなたに何も後ろ暗いところはない」
うーん…それはそうなんだけど…
率直に言って、アンヌ=マリーはどうでもいいというか、ま、どうでもいいんだけど。
そのバックについている、巨大な権力者であるお父上の存在と嫌がらせが迷惑なのよねぇ。
私を秘密裏に消すことだってやろうと思えば簡単にできそうじゃないの?
それに「メンデエル国から正式に嫁してきた」とは言っても…
そもそもは第一王女であるお姉様が嫁いで来られるはずだった。
1か月で嫁いで来いと言われて、お身体の弱く掌中の珠であるお姉様をお父様が手放したがらなかったから、私にお鉢が回ってきただけで。
しかも最初の扱いときたら…
思い出すだに腹が立つ。
ジェルヴェが私の味方になってくれなかったら、まだ、あんな扱いを受けたままだったかもしれない。
王様の容態は、良いとはとても言えないけれど。
何も口にできなかったのが、ほんの僅かだけど召し上がれるようになってきた。
司厨長は張り切って、栄養価の高い食材を使い消化の良いスープを作ってくれた。
一週間も続いた新年のパーティーで、最終日にその事件は起きた、らしい。
私はいつものように陛下のお部屋を訪れて、自分の部屋へ戻ってきて明日の治療や食事のことをガレアッツォ翁や司厨長と相談しようと、テーブルを囲んで座った時だった。
もはや訪いもなく、ジェルヴェが「麗しのリンスター!」と言いながら勝手に入ってくる。
そしてテーブルのメンバーを見て「おっと、作戦会議ですか」と笑う。
いつものおどけた感じはあるものの、その表情に少し翳りがあるように見えて私は「ジェルヴェ、どうしたの?何かあった?」と訊いた。
「さすがリンスター。
あなたに隠し事はできないですね」
ジェルヴェは苦笑して、私の隣の椅子に腰かけた。
その時、小姓のマルクが遠慮がちに私の隣へ来た。
「申し上げます。
只今、コルビュジェ侯爵ご令嬢クリスティーヌ様とドゥラクロワ子爵様がお越しになりまして、お妃様にお目通り願いたいと」
「あ、たぶん、私と同じ用件でしょう。
お通しして構わないよ」
ジェルヴェがさらっと答え、マルクはお辞儀して立ち去った。
ちょっとぉ、ここ私の部屋なんですけど…
私が抗議の声を上げる間もなく、バタバタとお茶の用意が追加され、二人が案内されて入ってきた。
「すみません急に…
どうしてもリンスター様と話したいと思いまして」
「ジェルヴェ殿下もきっと、ここにいらっしゃると思い、失礼とは存じますが来てしまいました」
二人はガレアッツォ翁と司厨長(の顔は多分知らないから、ただの太った偉そうなおじさんに見えていることだろう)を見て、恐縮したように頭を下げる。
二人ともジェルヴェ同様に夜会服を着ていて、パーティーの会場から直接来たのだと判る。
「今、ジェルヴェから話を聞こうとしていたところなの。
おかけになって」
私は二人を促して、腰かけさせる。
そしてジェルヴェに「何があったの?」と訊くと、ジェルヴェはクリスティーヌとドゥラクロワ子爵の顔を見て、小さくうなずいて口を開いた。
「アンヌ=マリー嬢が騙り詐欺に遭ったようです。
先ほどの新年のパーティーの会場で突然オランド枢機卿が暴露して、大騒ぎになりました」
1
お気に入りに追加
1,873
あなたにおすすめの小説
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!
れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。
父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。
メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。
復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*)
*なろうにも投稿しています
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜
津ヶ谷
恋愛
ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。
次期公爵との婚約も決まっていた。
しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。
次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。
そう、妹に婚約者を奪われたのである。
そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。
そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。
次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。
これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる