愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket

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第七章 スキャンダル

1.降誕祭の晩餐

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 降誕祭の夕食にはジェルヴェを招いた。
 どなたかと一緒に過ごすならそちらを優先して、と言ったのだけど「リンスターが最優先です。他の人はずーっと後ですから」と真剣な表情で言われ、私は嬉しくもあったけど、良いのかなという思いは拭えなかった。

 王太子にも一応声をかけたけど、当然のことながらと言うか、シカトだった。
 まあ、アンヌ=マリーと過ごすのが当たり前なんでしょうが…
 でも、昨夜勝手に私の寝室に来て(秘密の通路で来たらしい)、私の寝顔を眺めた挙句、手首のキスマークまで発見するとか…失礼すぎる!
 一言謝って欲しかったわ。

 クラウスに昨夜の王太子のことを聞いたけど、珍しく言葉を濁して、捗々はかばかしい返事はなかった。
 「あんなにお怒りになっていたのに、ぐっすりお寝みのお妃様を起こして問いただすことはなさらなかったのですから。
 案外お優しい方なのでは?」
 とか言ってはぐらかしてばかりだった。

 しかし、私がむくれると少し口調を変えて宥めるように言った。
 「大丈夫でございます。
 王太子殿下は聡明な方です、全部ご存知でいらっしゃいますし、対処もきちんと考えていらっしゃいます」
 「…何でクラウスにそんなことが判るのよ」
 王太子が聡明?
 どっからそんな発想が…
 
 「恐れ多くも王太子殿下とこのクラウスはある意味、同士でございますから」
 クラウスは謎めいた微笑を浮かべてそんなことを言い、そのあと私が何を聞いてももう答えなかった。
 
 ジェルヴェが宮廷の晩餐会を欠席する理由に、私との晩餐を言ってしまったらしく、ドゥラクロワ子爵とクリスティーヌも巧みに欠席して、私の部屋に遊びに来てしまった。
 ジェルヴェは「失敗しました…リンスターからのお誘いが嬉しすぎてつい、本当のことを言ってしまった。せっかくの二人での晩餐が…」と歯噛みして悔しがっていた。
 
 司厨長は宮廷の晩餐会の準備があってとても忙しかったのに、私たちのためにメンデエル料理をアレンジした降誕祭の晩餐を作ってくれた。
 ドゥラクロワ子爵もクリスティーヌも「こんな降誕祭の料理は初めてです。宮廷のつまらない晩餐会よりこちらの方がずっと楽しいですね」と言って喜んでいた。

 バルバストル公爵という人は普段はそうでもないそうなのだが、お酒が入ると口汚くなり誰彼に絡む酒癖の悪い人だそうで、皆、そういう時は敬遠して近寄らなくなってしまうのだそうだ。
 その令嬢のアンヌ=マリーは自分のことしか話さないし、王太子にべったりくっついていちゃいちゃしていて、いつも晩餐会はあまり盛り上がらなくてつまらない、とクリスティーヌは酷評する。

 「そう言えば昨日のミサに、主教様と一緒にオランド枢機卿がいらっしゃってましたね。
 アンヌ=マリー様にあれほど嫌われているのに、よくいらっしゃったなと思っていましたが…」
 ドゥラクロワ子爵が考え込むように言う。
 「ああ、そう言われるとそうだね。
 最近はあまり宮廷にも顔を出していなかったが…」
 ジェルヴェがワイングラスを揺らして答え、クリスティーヌもうなずいている。

 私がきょとんとしていると、皆が代わる代わる話してくれた。
 「オランド枢機卿は、聖職者のくせに賭け事が大好きで、以前はよくアンヌ=マリー嬢のサロンに出入りしていました。
 領地で作られる絹織物が国の特産品になっていることもあって、彼には常に莫大な収入があり、賭け事にも大枚をつぎ込んでいたようです」

 「でも、イカサマの容疑があり、枢機卿本人は否定して確たる証拠もなかったのですが…
 そういう噂が立つことによってサロンに来る人が一時減り、アンヌ=マリー様の怒りを買ってサロンに出入り禁止になってしまったのです。
 あとそれから、…これは噂の域をでないのですが、どうも枢機卿はアンヌ=マリー様に言い寄った、とか…」

 「それ本当よ。
 アンヌ=マリー様が、おじさんのくせにわたくしに言い寄るなんて最低!って怒っていらしたから」
 クリスティーヌがしれっと暴露して、「…きっついですね」とジェルヴェとドゥラクロワ子爵が苦笑する。

 「アンヌ=マリー様とオランド枢機卿が和解するようなきっかけでもあったのでしょうか」
 「…どうかしら。
 アンヌ=マリー様、最近は王太子殿下よりリンディア帝国の皇子様と…って噂もあるけれど」
 
 ソロモンのことだ、と私はどきっとする。
 昨日『私のこの香りに包まれてそういう反応ができるとは…アンヌ=マリー嬢などはイチコロでしたが』と言っていた。
 ソロモンは、ご禁制の品のことを調べるために、アンヌ=マリーに近づいているらしいけれど…
 私は皆に訊いてみたい衝動に駆られたが、内緒だというソロモンとの約束を思い出し、黙って聞いていた。

 そんな話をしながら、降誕祭の夜は楽しく更けていった。

 
 
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