73 / 161
第七章 スキャンダル
1.降誕祭の晩餐
しおりを挟む
降誕祭の夕食にはジェルヴェを招いた。
どなたかと一緒に過ごすならそちらを優先して、と言ったのだけど「リンスターが最優先です。他の人はずーっと後ですから」と真剣な表情で言われ、私は嬉しくもあったけど、良いのかなという思いは拭えなかった。
王太子にも一応声をかけたけど、当然のことながらと言うか、シカトだった。
まあ、アンヌ=マリーと過ごすのが当たり前なんでしょうが…
でも、昨夜勝手に私の寝室に来て(秘密の通路で来たらしい)、私の寝顔を眺めた挙句、手首のキスマークまで発見するとか…失礼すぎる!
一言謝って欲しかったわ。
クラウスに昨夜の王太子のことを聞いたけど、珍しく言葉を濁して、捗々しい返事はなかった。
「あんなにお怒りになっていたのに、ぐっすりお寝みのお妃様を起こして問いただすことはなさらなかったのですから。
案外お優しい方なのでは?」
とか言ってはぐらかしてばかりだった。
しかし、私がむくれると少し口調を変えて宥めるように言った。
「大丈夫でございます。
王太子殿下は聡明な方です、全部ご存知でいらっしゃいますし、対処もきちんと考えていらっしゃいます」
「…何でクラウスにそんなことが判るのよ」
王太子が聡明?
どっからそんな発想が…
「恐れ多くも王太子殿下とこのクラウスはある意味、同士でございますから」
クラウスは謎めいた微笑を浮かべてそんなことを言い、そのあと私が何を聞いてももう答えなかった。
ジェルヴェが宮廷の晩餐会を欠席する理由に、私との晩餐を言ってしまったらしく、ドゥラクロワ子爵とクリスティーヌも巧みに欠席して、私の部屋に遊びに来てしまった。
ジェルヴェは「失敗しました…リンスターからのお誘いが嬉しすぎてつい、本当のことを言ってしまった。せっかくの二人での晩餐が…」と歯噛みして悔しがっていた。
司厨長は宮廷の晩餐会の準備があってとても忙しかったのに、私たちのためにメンデエル料理をアレンジした降誕祭の晩餐を作ってくれた。
ドゥラクロワ子爵もクリスティーヌも「こんな降誕祭の料理は初めてです。宮廷のつまらない晩餐会よりこちらの方がずっと楽しいですね」と言って喜んでいた。
バルバストル公爵という人は普段はそうでもないそうなのだが、お酒が入ると口汚くなり誰彼に絡む酒癖の悪い人だそうで、皆、そういう時は敬遠して近寄らなくなってしまうのだそうだ。
その令嬢のアンヌ=マリーは自分のことしか話さないし、王太子にべったりくっついていちゃいちゃしていて、いつも晩餐会はあまり盛り上がらなくてつまらない、とクリスティーヌは酷評する。
「そう言えば昨日のミサに、主教様と一緒にオランド枢機卿がいらっしゃってましたね。
アンヌ=マリー様にあれほど嫌われているのに、よくいらっしゃったなと思っていましたが…」
ドゥラクロワ子爵が考え込むように言う。
「ああ、そう言われるとそうだね。
最近はあまり宮廷にも顔を出していなかったが…」
ジェルヴェがワイングラスを揺らして答え、クリスティーヌもうなずいている。
私がきょとんとしていると、皆が代わる代わる話してくれた。
「オランド枢機卿は、聖職者のくせに賭け事が大好きで、以前はよくアンヌ=マリー嬢のサロンに出入りしていました。
領地で作られる絹織物が国の特産品になっていることもあって、彼には常に莫大な収入があり、賭け事にも大枚をつぎ込んでいたようです」
「でも、イカサマの容疑があり、枢機卿本人は否定して確たる証拠もなかったのですが…
そういう噂が立つことによってサロンに来る人が一時減り、アンヌ=マリー様の怒りを買ってサロンに出入り禁止になってしまったのです。
あとそれから、…これは噂の域をでないのですが、どうも枢機卿はアンヌ=マリー様に言い寄った、とか…」
「それ本当よ。
アンヌ=マリー様が、おじさんのくせにわたくしに言い寄るなんて最低!って怒っていらしたから」
クリスティーヌがしれっと暴露して、「…きっついですね」とジェルヴェとドゥラクロワ子爵が苦笑する。
「アンヌ=マリー様とオランド枢機卿が和解するようなきっかけでもあったのでしょうか」
「…どうかしら。
アンヌ=マリー様、最近は王太子殿下よりリンディア帝国の皇子様と…って噂もあるけれど」
ソロモンのことだ、と私はどきっとする。
昨日『私のこの香りに包まれてそういう反応ができるとは…アンヌ=マリー嬢などはイチコロでしたが』と言っていた。
ソロモンは、ご禁制の品のことを調べるために、アンヌ=マリーに近づいているらしいけれど…
私は皆に訊いてみたい衝動に駆られたが、内緒だというソロモンとの約束を思い出し、黙って聞いていた。
そんな話をしながら、降誕祭の夜は楽しく更けていった。
どなたかと一緒に過ごすならそちらを優先して、と言ったのだけど「リンスターが最優先です。他の人はずーっと後ですから」と真剣な表情で言われ、私は嬉しくもあったけど、良いのかなという思いは拭えなかった。
王太子にも一応声をかけたけど、当然のことながらと言うか、シカトだった。
まあ、アンヌ=マリーと過ごすのが当たり前なんでしょうが…
でも、昨夜勝手に私の寝室に来て(秘密の通路で来たらしい)、私の寝顔を眺めた挙句、手首のキスマークまで発見するとか…失礼すぎる!
一言謝って欲しかったわ。
クラウスに昨夜の王太子のことを聞いたけど、珍しく言葉を濁して、捗々しい返事はなかった。
「あんなにお怒りになっていたのに、ぐっすりお寝みのお妃様を起こして問いただすことはなさらなかったのですから。
案外お優しい方なのでは?」
とか言ってはぐらかしてばかりだった。
しかし、私がむくれると少し口調を変えて宥めるように言った。
「大丈夫でございます。
王太子殿下は聡明な方です、全部ご存知でいらっしゃいますし、対処もきちんと考えていらっしゃいます」
「…何でクラウスにそんなことが判るのよ」
王太子が聡明?
どっからそんな発想が…
「恐れ多くも王太子殿下とこのクラウスはある意味、同士でございますから」
クラウスは謎めいた微笑を浮かべてそんなことを言い、そのあと私が何を聞いてももう答えなかった。
ジェルヴェが宮廷の晩餐会を欠席する理由に、私との晩餐を言ってしまったらしく、ドゥラクロワ子爵とクリスティーヌも巧みに欠席して、私の部屋に遊びに来てしまった。
ジェルヴェは「失敗しました…リンスターからのお誘いが嬉しすぎてつい、本当のことを言ってしまった。せっかくの二人での晩餐が…」と歯噛みして悔しがっていた。
司厨長は宮廷の晩餐会の準備があってとても忙しかったのに、私たちのためにメンデエル料理をアレンジした降誕祭の晩餐を作ってくれた。
ドゥラクロワ子爵もクリスティーヌも「こんな降誕祭の料理は初めてです。宮廷のつまらない晩餐会よりこちらの方がずっと楽しいですね」と言って喜んでいた。
バルバストル公爵という人は普段はそうでもないそうなのだが、お酒が入ると口汚くなり誰彼に絡む酒癖の悪い人だそうで、皆、そういう時は敬遠して近寄らなくなってしまうのだそうだ。
その令嬢のアンヌ=マリーは自分のことしか話さないし、王太子にべったりくっついていちゃいちゃしていて、いつも晩餐会はあまり盛り上がらなくてつまらない、とクリスティーヌは酷評する。
「そう言えば昨日のミサに、主教様と一緒にオランド枢機卿がいらっしゃってましたね。
アンヌ=マリー様にあれほど嫌われているのに、よくいらっしゃったなと思っていましたが…」
ドゥラクロワ子爵が考え込むように言う。
「ああ、そう言われるとそうだね。
最近はあまり宮廷にも顔を出していなかったが…」
ジェルヴェがワイングラスを揺らして答え、クリスティーヌもうなずいている。
私がきょとんとしていると、皆が代わる代わる話してくれた。
「オランド枢機卿は、聖職者のくせに賭け事が大好きで、以前はよくアンヌ=マリー嬢のサロンに出入りしていました。
領地で作られる絹織物が国の特産品になっていることもあって、彼には常に莫大な収入があり、賭け事にも大枚をつぎ込んでいたようです」
「でも、イカサマの容疑があり、枢機卿本人は否定して確たる証拠もなかったのですが…
そういう噂が立つことによってサロンに来る人が一時減り、アンヌ=マリー様の怒りを買ってサロンに出入り禁止になってしまったのです。
あとそれから、…これは噂の域をでないのですが、どうも枢機卿はアンヌ=マリー様に言い寄った、とか…」
「それ本当よ。
アンヌ=マリー様が、おじさんのくせにわたくしに言い寄るなんて最低!って怒っていらしたから」
クリスティーヌがしれっと暴露して、「…きっついですね」とジェルヴェとドゥラクロワ子爵が苦笑する。
「アンヌ=マリー様とオランド枢機卿が和解するようなきっかけでもあったのでしょうか」
「…どうかしら。
アンヌ=マリー様、最近は王太子殿下よりリンディア帝国の皇子様と…って噂もあるけれど」
ソロモンのことだ、と私はどきっとする。
昨日『私のこの香りに包まれてそういう反応ができるとは…アンヌ=マリー嬢などはイチコロでしたが』と言っていた。
ソロモンは、ご禁制の品のことを調べるために、アンヌ=マリーに近づいているらしいけれど…
私は皆に訊いてみたい衝動に駆られたが、内緒だというソロモンとの約束を思い出し、黙って聞いていた。
そんな話をしながら、降誕祭の夜は楽しく更けていった。
1
お気に入りに追加
1,871
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる