愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

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第二章 歓迎晩餐会

6.晩餐会の準備

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 翌日は朝から大忙しだった。
 旅装を解くのもままならないままに、晩餐会の準備が始まる。
 ゆっくりしてていいわよと伝えておいたグレーテルも朝早くから起きだして、あれこれと動き回っている。

 疲れたわ…
 やっと昨日の夕方に城に着いたばかりなのに。
 今日が歓迎晩餐会で、明日が結婚式!
 有り得ないわ、メンデエル国から誰も来られないじゃないの。

 ルーマデュカに駐在している大使が、慌てふためいた様子で面会に来た。
 『リンスター王女様!
 ご到着なさったと聞きましたのが、今朝で…
 何しろ急なことで、お出迎えも致しませんで申し訳ありません』

 くどくどと謝る大使の言葉を遮り、私はルーマデュカの侍女のルイーズと今日着るドレスを選びながら言った。
 『それはもういいですわ。
 今更何か言っても仕方ありませんし、わたくしは歓迎されざる王太子妃なのですから。
 それで、今日明日は、メンデエル国からはどなたが来てくださるの?』

 大使は両手をもみ絞り、額に汗を浮かべて苦渋の表情になる。
 『それが…ルーマデュカから列席者については、とても厳しい身分制限が設けられまして…
 伯爵以上の身分の者でなければ列席不可、と』

 『ええ?
 じゃあ、来られるのは?』
 『当初、結婚式までにはまだ間があるという話でありましたので、アウフレヒト侯爵夫妻が只今、こちらに向かっておられますが、とても間に合いません。
 今日明日で、となりますと、私と妻、だけになります』
 大使は伯爵だから、ってことか…

 私はまた、昨日ここに到着した時のような激しい寂寥感に襲われる。
 疎外の仕方が、生半可ではない。
 どうしてここまでされなければならないのだろう。

 『ここの国の大公爵の御令嬢が、王太子殿下の御愛妾ということで、大公爵に忖度した臣下が徹底的に王女様の輿入れに反対しているようです。
 もしかしたら、大公爵ご自身が…』
 『しっ!』
 私は慌てて大使の繰り言を遮る。
 どこに誰の目が、耳があるか判らない。
 用心するに越したことはない。

 『判りましたわ。
 では、大使と夫人には今日明日、列席していただけるのね。
 よろしくお願い申し上げますね』
 私は笑って、大使を下がらせた。
 
 彼も大変だ。
 よりによって自分がルーマデュカ大使の時に、こんな大事が出来するなんて、と迷惑に思っていることだろう。
 
 「王女様、このドレスはいかがでしょうか。
 イブニングドレスに宜しいかと思いますが…」
 ドレスをあれこれ並べていたルイーズが、1着のドレスを手に取って私に差し出した。

 私は豪奢なそのドレスに目を奪われながらも、そのデザインの斬新さにちょっと引いてしまう。
 「ちょっと…露出が多くないかしら」
 「今の宮廷のモードですわ。
 皆さまもっと背中の開いたドレスをお召しになります」
 ルイーズは高い鼻をつんと上げるようにして、上から目線で言う。

 ええ~…
 これより??
 じゃあこれ着た方がいいのかしら。
 私はそうは思っても、やはりそのデザインに躊躇してしまう。

 「ん~…
 でもやっぱり最初だし、王様と王妃様に謁見もするから、モードではなくてクラシカルなドレスにするわ」
 と言って、メンデエルから持ってきたドレスを手に取った。
 「…さようでございますか。
 畏まりました」
 ルイーズは、低い声で言うと、さっさと片付け始めた。

 大使とのメンデエル語での会見と、メンデエルのドレスを選んだことが、ルイーズの反感を買ってしまったことに、この時の私はまだ、気づいていなかった。
 
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