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第一章.小国メンデエル
10.クラウスの話
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急いで部屋着に着替えて居間に戻ると、クラウスは専用の低いテーブルの前に座って食事をしていて、その横に二コラが立っていた。
二コラは一日の労働に疲れているのだろう、立ったまま今にも舟を漕ぎだしそうな感じだ。
私は二コラに「二コラ、今日はもういいわ。上がってお休みなさいな。女中頭には言っておくから」と優しく話しかけた。
二コラははっとしたように顔を上げ「いえ…大丈夫です、申し訳ありません」と真っ赤になる。
「これからクラウスと話があるの。
ほら、侍女のグレーテルもいないでしょう。
もう下がってもらったのよ」
私が重ねて言うと二コラは辺りを見回し、本当に侍女たちも小姓もいないのを認識して「はい…では、失礼します」と深々とお辞儀をした。
「クラウスさん、ありがとうございました」
小さく言って部屋を出ていこうとする。
「こちらこそ、ありがとう」とクラウスは料理を指さして言った。
二コラはにこっとして、また頭を下げて扉を開け、そっと出て行った。
私はクラウスの斜向かいのソファに腰かけ、話し出す。
「早速で悪いんだけど、食べながら聞いてね。
1か月後にルーマデュカへ輿入れすることが決まったわ」
クラウスは手を止めて私を見て、カトラリーを置いて立ち上がる。
「ああ、やはりそうだったか…
おめでとうございます」
さきほどの二コラのように深く頭を下げる。
私はいつもとまったく様子の違うクラウスに違和感を覚え、戸惑ってわざと明るく言う。
「おめでたいって言えば、まあそうね。
違う意味だけどね。
お母様はいたくご立腹だったわ。
私がお姉様の身代わりに、女誑しで悪名高い王太子の許へ嫁ぐなんて許せないって」
クラウスは暗い表情で小さくうなずく。
「姫が晩餐に行っている間、私も城の中を歩き回って情報を集めた。
ルーマデュカの大使団が滞在している部屋の近くまで行った」
「えっ」
私は驚く。
「あまり危ないことしないでよ。
衛兵たちも殺気立ってるわよ、そういう場所は…」
「大丈夫、誰も私をヒトだと思っていないから。
ネコやイヌが歩いているのと同じだ。
せいぜい、しっしっと追っ払われるくらいだよ」
自嘲気味に言うクラウスに、私はかけるべき言葉が見つからず口ごもった。
「…それで、いろいろ調べた結果を考察して、私なりの推論を組み立てた。
今回、突然大使たちが来た理由は、やはり王太子の女性問題に端を発しているようだ」
でしょうね…王様が病床にあるなんて聞いたことないもの。
私はため息をつく。
「王太子の女癖の悪さはもう幼いころからだが、今回は相手が悪い。
ルーマデュカの筆頭公爵家の令嬢だ。
公爵は王太子の女好きを早くから見抜いていて、領地から令嬢を出したことがなかったのだが。
3か月ほど前に令嬢が社交界にデビューするため、初めて宮廷に来て、王太子の毒牙にかかってしまった」
あーあー。
可哀想に。
私は令嬢に同情する。
二コラは一日の労働に疲れているのだろう、立ったまま今にも舟を漕ぎだしそうな感じだ。
私は二コラに「二コラ、今日はもういいわ。上がってお休みなさいな。女中頭には言っておくから」と優しく話しかけた。
二コラははっとしたように顔を上げ「いえ…大丈夫です、申し訳ありません」と真っ赤になる。
「これからクラウスと話があるの。
ほら、侍女のグレーテルもいないでしょう。
もう下がってもらったのよ」
私が重ねて言うと二コラは辺りを見回し、本当に侍女たちも小姓もいないのを認識して「はい…では、失礼します」と深々とお辞儀をした。
「クラウスさん、ありがとうございました」
小さく言って部屋を出ていこうとする。
「こちらこそ、ありがとう」とクラウスは料理を指さして言った。
二コラはにこっとして、また頭を下げて扉を開け、そっと出て行った。
私はクラウスの斜向かいのソファに腰かけ、話し出す。
「早速で悪いんだけど、食べながら聞いてね。
1か月後にルーマデュカへ輿入れすることが決まったわ」
クラウスは手を止めて私を見て、カトラリーを置いて立ち上がる。
「ああ、やはりそうだったか…
おめでとうございます」
さきほどの二コラのように深く頭を下げる。
私はいつもとまったく様子の違うクラウスに違和感を覚え、戸惑ってわざと明るく言う。
「おめでたいって言えば、まあそうね。
違う意味だけどね。
お母様はいたくご立腹だったわ。
私がお姉様の身代わりに、女誑しで悪名高い王太子の許へ嫁ぐなんて許せないって」
クラウスは暗い表情で小さくうなずく。
「姫が晩餐に行っている間、私も城の中を歩き回って情報を集めた。
ルーマデュカの大使団が滞在している部屋の近くまで行った」
「えっ」
私は驚く。
「あまり危ないことしないでよ。
衛兵たちも殺気立ってるわよ、そういう場所は…」
「大丈夫、誰も私をヒトだと思っていないから。
ネコやイヌが歩いているのと同じだ。
せいぜい、しっしっと追っ払われるくらいだよ」
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「…それで、いろいろ調べた結果を考察して、私なりの推論を組み立てた。
今回、突然大使たちが来た理由は、やはり王太子の女性問題に端を発しているようだ」
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私はため息をつく。
「王太子の女癖の悪さはもう幼いころからだが、今回は相手が悪い。
ルーマデュカの筆頭公爵家の令嬢だ。
公爵は王太子の女好きを早くから見抜いていて、領地から令嬢を出したことがなかったのだが。
3か月ほど前に令嬢が社交界にデビューするため、初めて宮廷に来て、王太子の毒牙にかかってしまった」
あーあー。
可哀想に。
私は令嬢に同情する。
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