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第八章 領主館
8.レセンデス王
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私たちは将軍に案内され、城の中に入る。
将軍によると、この城はバルベルデの居城ではなく、普段は警備の者が少しいるだけの使われていないものだそうだ。
突然国王が来ることになって、しかも隣国の大公まで訪ねてくるとなった使用人たちの気持ちと準備の過酷さを考えると同情してしまうけれど、急拵えの割には綺麗に掃除され調度品なども程よい位置に飾られて落ち着いた空間を演出していた。
「ふうん…
山城なのかと思っていたら意外と平山城って感じだな。
地形を生かして攻めにくくはあるけど利便性は良さそうですね」
私とアレク様の後ろを歩きながら、エルヴィーノ様はエセルバート様に向かって小さな声で話している。
エセルバート様は声が大きくて内緒話には不向きなので黙ってうなずいているだけだ。
エセルバート様は、そこに居るだけで周り中を圧倒するような凄まじい威圧感は封じているようだ。
ってことは、今のところは大丈夫なのかな…
よく考えてみたら、敵(に等しい)の領地に乗り込むって、本来ならめちゃくちゃ危険だよね。
私を連れてくるってことは、そんなに危険はないってことなのかしら。
やがて将軍はひとつの大きな扉の前で立ち止まった。
衛兵が扉の前で十字になるよう斜めに構えていた槍をまっすぐに立て直すのと同時に扉をノックする。
『ダリスカーナ大公国、大公陛下をご案内申し上げました』
ラ・カドリナ国の言葉でお腹の底から響くような声で告げると、そのまま把手に手をかけて大きく開く。
中には大きなテーブルがあり、たくさんの燭台に灯された蝋燭の光の下には美しい食器のシルバーが輝きを放っていた。
美味しそうな匂いが充満しており、私は思わず目が食卓に釘付けになってしまう。
『ようこそお越しくださいました、アレッサンドロ大公』
ラ・カドリナ国の国王、レセンデス王が両手を広げて迎え入れてくれた。
壮年で恰幅が良く堂々として、口髭を蓄えているが鬘はかぶっておらず、てっぺんだけ禿頭が蝋燭の光を反射して光っている。
「お久しぶりです、クラウディオ王。
お元気そうで何より」
アレク様はダリスカーナ語でにこやかに応じ、二人は歩み寄って握手を交わした。
私はちょっと意外な気がして、目の前の光景を眺めていた。
なんか…年の差もそうだけど、お互いをファーストネームで呼ぶとかすごい親しげなのが…
アレク様の外交って、もっと強硬的なのかなって勝手に思っていたから。
「アレクの外面の良さは天下一品だからな」
私の隣に来ていたエルヴィーノ様が呟くように言う。
「まあ…幼くして大公になったアレクが、外国の老獪な爺い為政者どもと渡り合っていくためには、必要不可欠なスキルともいえるけど」
そうよね…
国内では暴君と呼ばれるような厳しい施政をして、国外の権力者とは幼いながらに互角に渡り合って、このダリスカーナを平和に守り抜いてきたのだ。
私は改めて、アレク様に尊敬の念を抱いた。
アレク様と莞爾たる笑顔で握手したクラウディオ・レセンデス王は、アレク様の背後にいる私をちらっと見た。
『ほう、あのお方が新たな妃陛下ですな。
お連れになられるとは思わなかった。
…さあ、まずは冷めないうちに食事をしましょう。
遠くからいらしていただいて、お腹もすいているでしょうから』
私は咄嗟にお辞儀をして表情を隠す。
心臓が早鐘のように打ち、汗が額ににじみ出てくる。
何だろう…あの、一瞬私を見た時の針のように刺す視線…
呟くように言った声の冷たさ…
「クレメンティナ」
アレク様が私の肩を抱いて身を起こさせ、少し心配そうに顔を覗き込む。
「大丈夫か…ちょっと顔色が悪いが…
言葉の方は問題ないな?」
私は急いで「体調も言葉も、何も問題ありませんわ」と答えた。
国境近くに住む者の常として、隣国の人たちとも生活物資などの取引や交通の往来をするため、親しく交流とまではいかなくても日常会話くらいはできる。
アレク様と私、それからエルヴィーノ様とエセルバート様は長方形の大きなテーブルの長い辺に並んで腰かけ、向かい側にはレセンデス王と将軍、それから第2王子と思しき若い男性と…美しく着飾った若い女性。
若い女性はキラキラした瞳でこちらを見ている。
微笑んできゅっと上がった口角は蠱惑的で、とても魅力的だった。
私の胸を、言い知れぬ不安が満たしていく。
何だか…良くないことが起こりそうな予感がする…
将軍によると、この城はバルベルデの居城ではなく、普段は警備の者が少しいるだけの使われていないものだそうだ。
突然国王が来ることになって、しかも隣国の大公まで訪ねてくるとなった使用人たちの気持ちと準備の過酷さを考えると同情してしまうけれど、急拵えの割には綺麗に掃除され調度品なども程よい位置に飾られて落ち着いた空間を演出していた。
「ふうん…
山城なのかと思っていたら意外と平山城って感じだな。
地形を生かして攻めにくくはあるけど利便性は良さそうですね」
私とアレク様の後ろを歩きながら、エルヴィーノ様はエセルバート様に向かって小さな声で話している。
エセルバート様は声が大きくて内緒話には不向きなので黙ってうなずいているだけだ。
エセルバート様は、そこに居るだけで周り中を圧倒するような凄まじい威圧感は封じているようだ。
ってことは、今のところは大丈夫なのかな…
よく考えてみたら、敵(に等しい)の領地に乗り込むって、本来ならめちゃくちゃ危険だよね。
私を連れてくるってことは、そんなに危険はないってことなのかしら。
やがて将軍はひとつの大きな扉の前で立ち止まった。
衛兵が扉の前で十字になるよう斜めに構えていた槍をまっすぐに立て直すのと同時に扉をノックする。
『ダリスカーナ大公国、大公陛下をご案内申し上げました』
ラ・カドリナ国の言葉でお腹の底から響くような声で告げると、そのまま把手に手をかけて大きく開く。
中には大きなテーブルがあり、たくさんの燭台に灯された蝋燭の光の下には美しい食器のシルバーが輝きを放っていた。
美味しそうな匂いが充満しており、私は思わず目が食卓に釘付けになってしまう。
『ようこそお越しくださいました、アレッサンドロ大公』
ラ・カドリナ国の国王、レセンデス王が両手を広げて迎え入れてくれた。
壮年で恰幅が良く堂々として、口髭を蓄えているが鬘はかぶっておらず、てっぺんだけ禿頭が蝋燭の光を反射して光っている。
「お久しぶりです、クラウディオ王。
お元気そうで何より」
アレク様はダリスカーナ語でにこやかに応じ、二人は歩み寄って握手を交わした。
私はちょっと意外な気がして、目の前の光景を眺めていた。
なんか…年の差もそうだけど、お互いをファーストネームで呼ぶとかすごい親しげなのが…
アレク様の外交って、もっと強硬的なのかなって勝手に思っていたから。
「アレクの外面の良さは天下一品だからな」
私の隣に来ていたエルヴィーノ様が呟くように言う。
「まあ…幼くして大公になったアレクが、外国の老獪な爺い為政者どもと渡り合っていくためには、必要不可欠なスキルともいえるけど」
そうよね…
国内では暴君と呼ばれるような厳しい施政をして、国外の権力者とは幼いながらに互角に渡り合って、このダリスカーナを平和に守り抜いてきたのだ。
私は改めて、アレク様に尊敬の念を抱いた。
アレク様と莞爾たる笑顔で握手したクラウディオ・レセンデス王は、アレク様の背後にいる私をちらっと見た。
『ほう、あのお方が新たな妃陛下ですな。
お連れになられるとは思わなかった。
…さあ、まずは冷めないうちに食事をしましょう。
遠くからいらしていただいて、お腹もすいているでしょうから』
私は咄嗟にお辞儀をして表情を隠す。
心臓が早鐘のように打ち、汗が額ににじみ出てくる。
何だろう…あの、一瞬私を見た時の針のように刺す視線…
呟くように言った声の冷たさ…
「クレメンティナ」
アレク様が私の肩を抱いて身を起こさせ、少し心配そうに顔を覗き込む。
「大丈夫か…ちょっと顔色が悪いが…
言葉の方は問題ないな?」
私は急いで「体調も言葉も、何も問題ありませんわ」と答えた。
国境近くに住む者の常として、隣国の人たちとも生活物資などの取引や交通の往来をするため、親しく交流とまではいかなくても日常会話くらいはできる。
アレク様と私、それからエルヴィーノ様とエセルバート様は長方形の大きなテーブルの長い辺に並んで腰かけ、向かい側にはレセンデス王と将軍、それから第2王子と思しき若い男性と…美しく着飾った若い女性。
若い女性はキラキラした瞳でこちらを見ている。
微笑んできゅっと上がった口角は蠱惑的で、とても魅力的だった。
私の胸を、言い知れぬ不安が満たしていく。
何だか…良くないことが起こりそうな予感がする…
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