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第七章 焦土

12.報告

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 天幕の中で、エセルバート様と一緒に交渉の報告をする。
 「敵がどう出てくるかは判らないが…
 そなたたちの話では、隣国の領主がずいぶん及び腰になっているようだから、もしかすると停戦になり続いて終戦にこぎつけられるかもしれないな」

 エセルバート様がうなずくのを見て、アレク様は私に視線を移し「期待以上の成果だ。よくやった」と笑みを浮かべた。
 「いえ、わたくしは何も。
 エセルバート様やエルヴィーノ様、兄のお陰でございます。
 それから、何故か突然現れた、ヴァネッサの存在も大きかったと存じますわ」

 「ああ、急に丸腰で飛び込んできた嬢ちゃんか。
 驚きましたよ、見張りの兵士に斬られそうになってもまったく怯んでいなかった。
 この野営地から兵士の荷物に紛れ込んで領主館近くまで行ったようです」

 エセルバート様が呆れたような感心したような様子で言い、私はぞっとして両手を握りしめた。
 ヴァネッサ…そんな無茶をして。
 無事だったから良かったけど…

 ヴァネッサも本気でペデルツィーニとブリジッタ様を助けたいと思ったに違いない。
 何としてもこの戦は終わらせなければ。
 このままでは、誰にも良いことがない。

 天幕の外でがやがやと人の声がし、にぃ兄様の少し畏まった声が聞こえた。
 「陛下、只今戻りました。
 昼食ちゅうじきの時間でございますが、いかがなさいますか」

 アレク様は机の上に広げた地図から顔を上げ、「そう言えば腹減ったな」と呟いた。
 「宜しい、入れ」
 アレク様が言うと、天幕の入り口が開いてにぃ兄様が「只今戻りました」と言いながら入ってきた。
 後ろから「失礼申し上げます」とお辞儀して給仕の兵士たちが入ってくる。
 参謀長が慌ててテーブルの上のものを片付けた。
 
 「ご苦労だった。
 エルヴィーノは?」
 アレク様はにぃ兄様をねぎらって、にぃ兄様の背後を見る。
 
 「あ、今化粧を落としていらっしゃいます。
 すぐにいらっしゃると思います」
 にぃ兄様は苦笑して言い、私は、すごい美人だったのに、ちょっともったいないなあと残念に思う。

 「なんだ、見てみたかったのに」
 アレク様はからかうように呟き、私を手招きして「エルヴィーノの女装はどうだった?」と楽しげに訊く。
 「とてもお綺麗でしたわ」
 抱き寄せられて私は心から呟き、にぃ兄様とエセルバート様も苦笑いしつつうなずいた。

 「何だよ、皆で人を笑いものにして」
 怒ったような声で言いながら、エルヴィーノ様が天幕の入り口の布をばさっと音を立ててめくって入ってきた。
 「笑いものになどしていませんよ、率直な感想です」
 にぃ兄様は宥めるように言う。

 「ご苦労だった」
 可笑しそうに笑いながらアレク様はエルヴィーノ様をねぎらった。
 
 「ブリジッタ様のご様子はいかがでしたか?」
 急に領主館から出て馬車に揺られて大丈夫だったか心配になり私は尋ねた。

 エルヴィーノ様とにぃ兄様は「ああ…」と少し暗い表情になる。
 「ペデルツィーニの妻がどうと言うより、避難所の女性達の反応がなあ…」
 「当然かもしれませんが、領民からは相当恨まれ憎まれているようです。
 母上がきちんと預かると言ってくださったので、大丈夫とは思いますが」

 ヴァネッサのことも、冷たくあしらうような感じだったと言う。
 シエーラを勝手に戦場にして、日々の生活も家畜も農産物もめちゃくちゃにされて怒るなと言う方が無理だろうと思う。
 けど…ブリジッタ様の窶れようを見れば、どれだけ苦しまれたか判るだろうから、何とか受け入れてほしいと願うばかりだ。

 食前のお祈りを捧げ、私たちは食事を始めた。
 これからの停戦交渉、それから終戦の協議について話し合う。

 領主館にはもうあまり食糧や物資も無いそうだ。
 その上、先程の会見でペデルツィーニとバルベルデの間に亀裂が入り、エセルバート様が兵士に結構な肉体的精神的ダメージを与えた。
 籠城も時間の問題だろうという話になった。

 しかし、食事が終わった頃。
 天幕の外に斥候が来て、焦ったような大きな声で報告した。

 「申し上げます!
 ペデルツィーニ並びにバルベルデ軍が、攻撃を再開しました!」
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