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第六章 シエーラの戦闘

14.作戦会議

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 小一時間、私たちは参謀次長と兵長と会議をして、現在の戦況の分析とこれからの作戦について細かく話した。
 参謀次長と兵長は、戦争の作戦会議に女性(しかも大公妃)がどうして参画しているのか訝しげだったが、アレク様とエセルバート様が黙っているので、さすがに何も言わずに会議を進めていった。
 恐らく、暴君の呼び名で知られるアレク様が、気まぐれを起こしたくらいにしか思っていないのだろう。
 まあ実際、その側面は強いけれど…

 エセルバート様に1か月半くらいすごく鍛えられ、またサン=バルロッテ館の様々な戦争に関する小説や兵法を読み漁った私は、自分でも意外なことに皆さんの話を理解し、自分なりの意見さえ頭に浮かんだ。

 アレク様は話に集中しているように見えて私の表情を観察していたらしく、議論が煮詰まりそうになってきたときに声をかけてきた。
 「クレメンティナ、何か言いたそうだな。
 意見があるなら言ってみろ」

 私は少し驚いて、アレク様の言葉に「はぁ?」って感じで、私を見る視線がちょっとバカにしている感じの参謀次長と兵長に少し臆しながら、でも思い切って口を開いた。
 「わたくしは、先ほどのエセルバート様のご意見を少し発展させたらどうかなと思います。
 ここの崖のように切り立っているところは、実は古い遺跡で、崩れかかっていますが通り抜けられます。
 地元の者は商いのときなどに街道をショートカットするために利用するので、生活の道ですが…」

 私が話すと、皆の瞳の色が変わる。
 「!…そうか。
 そうすると、少人数なら隠れて通行できるな?」
 「はい、大掛かりなものでなければ、武器も携行できると思います。
 投石器みたいなものは、ちょっと難しいかもしれませんが」

 「そこまでは今のところは考えてない。
 弓兵に火薬を撃ち込ませようと思ってる。
 精鋭部隊を二つに分けて、こちらからのルートとそして、このルートで挟み撃ちにできれば」
 「かなり敵に損害を与えられるでしょうな」
 皆でうんうんと頷く。

 アレク様は矢継ぎ早に命令を下し、参謀次長と兵長は私にも深くお辞儀して、命令を実行するために足早に部屋を出て行った。

 「さすが、シエーラに何世代も根を張る貴族の令嬢ですな。
 地元の道をよく知り、的確な情報をくれるのは大変ありがたい」
 満足げにエセルバート様が言い、アレク様は手近な椅子に腰かけて私を抱き寄せ、膝に座らせる。

 「いえ、とんでもないですわ。
 その情報が必要かどうかを判断できる知識を与えてくださったのは、エセルバート様です」
 私は答えながらなんとか立ち上がろうと試みるが、アレク様にがっちり抱きしめられていて身動きが取れない。

 「エセルバートの教え方も良いんだろうが…
 クレメンティナの賢さがそれをモノにしたんだろうな。
 頼もしい奥方だ」
 アレク様はそう言って、コルセットのせいで座高が高くなっている私の首筋にキスした。
 私は赤くなって「おやめくださいまし」と小声で叱る。
 
 アレク様はくっくっと喉の奥で笑い「判ったよ、また今夜」と囁いて、私を膝から降ろして立ち上がらせた。
 「できれば、今日中に出発したい。
 さすがに兵をすべてシエーラに投入するわけにはいかないし、強行軍になるだろうから、人数はあまり増やせないが…
 クレメンティナも少しは自衛できるだろうし、俺がずっと傍にいる」
 
 「お供いたしますよ、今日中にここを出ましょう」
 エセルバート様は穏やかに笑いながら言い、アレク様は少し焦ったようにエセルバート様に近づく。

 「いや、でも…それは有難いが…
 あまり、無理は…あなたは伝令を飛ばしながら、ここにいて作戦に集中してくれても良いのだが」
 「ダイアナ様も、ぜひダリスカーナのために一肌脱いでくれと仰ってくださいました。
 僭越ながら、この老兵も今一度戦場で大暴れしたいと存じましてね。
 昨日も申しましたが、弟子たちの教育の成果も見届けなければ」
 にやっと笑って言い、アレク様も笑いだした。

 「これはとんでもないことになるな、クレメンティナ。
 戦場ではおっそろしい神のような人だからな。
 悪魔かもしれない。
 覚悟しとけ」

 私はぽかんとして、アレク様の言葉を聞いていたが、やがてその意味を知るところとなる。
 
 
 
 
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