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第六章 シエーラの戦闘
10.大騒ぎの晩餐会
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その日の晩餐会は、ダリスカーナの歴史書に残るほどの大騒ぎとなった。
アレク様と宰相とエセルバート様で、大公爵であるエヴァンジェリスタ公爵(オズヴァルド様のお父上)とそのほかの重鎮を説き伏せ、なんとか首都を守る約束をさせた。
エヴァンジェリスタ公爵様はご嫡男のオズヴァルド様を、いわば人質に取られたような格好になってしまい、しかも息子の出来で張り合っていたヴァラリオーティ侯爵様は、公衆の面前で家督を長男に譲らされて強制的に隠居の身となってしまった。
抵抗を諦めたのか、それともアレク様の主張が理屈が通っていると思ったのか、最後はアレク様とご一緒になって貴族たちの説得にあたっていた。
極めて戦況が悪いと判断したアレク様が、兵士を増やすため貴族たちに出した条件は、苛烈ともいえるものだった。
明日までに、各々の領地から兵士か、もしくは物資を集めてシエーラに援軍を送ること。
できなければ、あるいは参加しない貴族は、この戦争が終わった後に領地と爵位を剥奪する。
暴君の暴論に、貴族は皆震えあがった。
政治と宮廷の中枢にいた、老獪で絶大な権力を持ったヴァラリオーティ侯爵を、簡単に追い詰めて失脚させた大公様のことだ、我々の首など眉一つ動かさずに刎ねてしまわれるだろう。
だけど蒙昧で暗愚だという、今までの陛下の評判・イメージとはまったく違うじゃないか?
無茶に思えるけれど、しかし理は大公様にある。
このまま放っておいたら、南部は隣国のものになってしまう。
元々、あまり仲の良くない隣国だ。
勢いに乗って、どこまで侵攻してくるか…
大公爵のエヴァンジェリスタ公も陛下のお味方だ。
これは…従うしかない。
私は、ご愛妾候補の方々に混ざって、端っこのほうで事の成り行きを見守っていた。
ひっそりと混ざっている私のことなど気づいていないようで、ご愛妾候補の方々はお国訛りでそれぞれ小声で話をしていた。
彼女たちもすぐに故郷に帰されることとなって、南部に近い地方の出身の娘たちは怖がっていた。
「どうなるっちゃろ…、お父様は首都の邸に居れば良かと言いよんしゃあばってんが…」
パドローナ・ラピーノの帽子屋で見かけた、派手なお嬢さんが不安そうに呟いていて、周りのお嬢さんたちも「せやなぁ、私も都の邸にいてるかな…」と話している。
私は早く、シエーラに帰りたい。
先ほどの兵士の報告より後にもまた連絡が来て、レオ兄様やにぃ兄様、オズヴァルド様たちもエルヴィーノ様と一緒に精鋭部隊に混ざって先を急いでいるそうだ。
今日中に州境まで進み、夜通し行けば明け方にはシエーラ付近に到着するだろうとのことだった。
エルヴィーノ様、お兄様方…ご無事で…
私もすぐに追うからね。
何の役にも立たないけれど、でも、シエーラにいて、皆と一緒に戦いたい。
ヴァネッサをひとりで帰してしまったことも、私の心に負荷を与えていた。
ヴァネッサとにぃ兄様とシエーラに一緒に帰るって、それをモチベーションにしてここまで頑張ってきたのに。
ヴァネッサと一緒に、お館様を説得することができれば、もしかしたら翻意してくれるかもしれない。
戦を治めることができれば。
晩餐会どころではなくなってしまったが、晩餐は用意されてしまっていたので、互いの不安な表情を見合いながら食事をした。
アレク様は主だった貴族たち(領地に伝令を送るために中座している人も多かった)と、真剣な表情で戦況や戦略について、それに細かいことまで話し合っているようだった。
こんな時だけど、やっぱりアレク様素敵だなあ…
と見惚れていると、アレク様がふと顔を上げて、ご愛妾候補の方々に混ざっている私の方を見て微笑んだ。
「陛下が私の方を見てくださったわ!」
「いえ、私よ、私の方をご覧になっていたんだわ!」
俄かに辺りが騒がしくなって、私はひとりうつむく。
私、だと思うんだけど…
違ったら嫌だな。
アレク様と宰相とエセルバート様で、大公爵であるエヴァンジェリスタ公爵(オズヴァルド様のお父上)とそのほかの重鎮を説き伏せ、なんとか首都を守る約束をさせた。
エヴァンジェリスタ公爵様はご嫡男のオズヴァルド様を、いわば人質に取られたような格好になってしまい、しかも息子の出来で張り合っていたヴァラリオーティ侯爵様は、公衆の面前で家督を長男に譲らされて強制的に隠居の身となってしまった。
抵抗を諦めたのか、それともアレク様の主張が理屈が通っていると思ったのか、最後はアレク様とご一緒になって貴族たちの説得にあたっていた。
極めて戦況が悪いと判断したアレク様が、兵士を増やすため貴族たちに出した条件は、苛烈ともいえるものだった。
明日までに、各々の領地から兵士か、もしくは物資を集めてシエーラに援軍を送ること。
できなければ、あるいは参加しない貴族は、この戦争が終わった後に領地と爵位を剥奪する。
暴君の暴論に、貴族は皆震えあがった。
政治と宮廷の中枢にいた、老獪で絶大な権力を持ったヴァラリオーティ侯爵を、簡単に追い詰めて失脚させた大公様のことだ、我々の首など眉一つ動かさずに刎ねてしまわれるだろう。
だけど蒙昧で暗愚だという、今までの陛下の評判・イメージとはまったく違うじゃないか?
無茶に思えるけれど、しかし理は大公様にある。
このまま放っておいたら、南部は隣国のものになってしまう。
元々、あまり仲の良くない隣国だ。
勢いに乗って、どこまで侵攻してくるか…
大公爵のエヴァンジェリスタ公も陛下のお味方だ。
これは…従うしかない。
私は、ご愛妾候補の方々に混ざって、端っこのほうで事の成り行きを見守っていた。
ひっそりと混ざっている私のことなど気づいていないようで、ご愛妾候補の方々はお国訛りでそれぞれ小声で話をしていた。
彼女たちもすぐに故郷に帰されることとなって、南部に近い地方の出身の娘たちは怖がっていた。
「どうなるっちゃろ…、お父様は首都の邸に居れば良かと言いよんしゃあばってんが…」
パドローナ・ラピーノの帽子屋で見かけた、派手なお嬢さんが不安そうに呟いていて、周りのお嬢さんたちも「せやなぁ、私も都の邸にいてるかな…」と話している。
私は早く、シエーラに帰りたい。
先ほどの兵士の報告より後にもまた連絡が来て、レオ兄様やにぃ兄様、オズヴァルド様たちもエルヴィーノ様と一緒に精鋭部隊に混ざって先を急いでいるそうだ。
今日中に州境まで進み、夜通し行けば明け方にはシエーラ付近に到着するだろうとのことだった。
エルヴィーノ様、お兄様方…ご無事で…
私もすぐに追うからね。
何の役にも立たないけれど、でも、シエーラにいて、皆と一緒に戦いたい。
ヴァネッサをひとりで帰してしまったことも、私の心に負荷を与えていた。
ヴァネッサとにぃ兄様とシエーラに一緒に帰るって、それをモチベーションにしてここまで頑張ってきたのに。
ヴァネッサと一緒に、お館様を説得することができれば、もしかしたら翻意してくれるかもしれない。
戦を治めることができれば。
晩餐会どころではなくなってしまったが、晩餐は用意されてしまっていたので、互いの不安な表情を見合いながら食事をした。
アレク様は主だった貴族たち(領地に伝令を送るために中座している人も多かった)と、真剣な表情で戦況や戦略について、それに細かいことまで話し合っているようだった。
こんな時だけど、やっぱりアレク様素敵だなあ…
と見惚れていると、アレク様がふと顔を上げて、ご愛妾候補の方々に混ざっている私の方を見て微笑んだ。
「陛下が私の方を見てくださったわ!」
「いえ、私よ、私の方をご覧になっていたんだわ!」
俄かに辺りが騒がしくなって、私はひとりうつむく。
私、だと思うんだけど…
違ったら嫌だな。
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