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第五章 宮廷

14.剥奪と付与

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 ヴァラリオーティ侯爵様は呆然として、アレク様、エルヴィーノ様を見回し、最後にご長男を見た。
 「ちょ…っと待ってくれ…
 今、何が起きている?」

 そしてアレク様の後ろに控える、宰相様に目を遣って、そこに自分と同じ驚きを見て取ったらしい。
 私が宰相様の方を見ると、宰相様は驚愕の表情でアレク様を見つめていた。

 アレク様はふっと皮肉な笑いをこぼす。
 「俺は、短気で浅慮で尊大で頭の悪い暴君だと。
 世間巷間には思われているらしいな?
 ま、その通りだよ。
 しかし、国の存亡にかかわる危機に気づかないほどのバカじゃないんだな。
 残念だったなあ?」

 そう言って、アレク様は侯爵様を射貫くように見据えた。
 アレク様の表情が真剣なものに変わり、纏っている空気もぴりっと張りつめた。

 「アルフレード・ヴァラリオーティ。
 あなたには、宰相と同じように幼いころからとても世話になってきた。
 ともすれば宰相を凌ぐほどのそなたの野心には、小さいころから気づいていた。
 いつか何かが起こる、そう思っていた」

 「今回の愛妾候補にまつわる、山賊たちの突然のおかしいほどの暗躍、討伐隊の苦戦に加えて。
 唐突な南部の小競り合い、しかし首謀者が見当たらない。
 誰がどこで最初にこんなことを起こしたのかが見えない。
 誰かが裏で糸を引いているように感じた。
 俺としては、いよいよだなと」

 アレク様は私の腰に回していた手を離し、エルヴィーノ様に近づいて手を差し伸べて立たせ、二人並んで侯爵様を見下ろす。
 ご長男もお二人の隣に来た。

 「エルヴィーノとステファノの件で、幼かったがゆえに知らなかった、そなたとキアッフレードの話を初めて調べてみた。
 実の兄に濡れ衣を着せ、ありもしない罪に陥れて、都に一生幽閉しようとしたんだな。
 キアッフレードの方が先回りして南部に逃げて、子爵令嬢と結婚した。
 そのことすらも、自分の手柄のように吹聴して居たそうじゃないか」

 「そして今度の、南部の蜂起だ。
 俺が何も知らないとでも?
 宰相に次ぐ、盲目の馬鹿だなお前は」

 空気の入れ替えに窓が少し開けられ始めた。
 大広間の蝋燭が、大勢の小姓たちの手によって端から取り替えられていく。
 何事が起こるのかと、固唾を飲んで見守っている聴衆は、新鮮な空気にほっとしたように息をついた。

 明るくなった大広間に、アレク様の声が響く。
 「余の権限において、アルフレードの爵位を剥奪し、キアッフレードに返還する。
 アルフレードの長男のバルダッサーレが後を襲うか?
 それとも…」

 アレク様は視線を上げて、レオ兄様を見た。
 レオ兄様は息を呑んで、居住まいを正す。
 「キアッフレードの長男の、レオンツィオに付与するか?」

 「お待ちください!
 そんな…急に…私は今まで、暴君のあなた様に黙って仕えてきた!
 政治のことや宮廷内のあれこれを、幼いころから、貴方様にご教授申し上げたのは私だ!」
 「だからといって、俺を傀儡の大公にし、宰相を追い落として摂政になろうなどというのは、度が過ぎた夢だな。
 この場でそなたを断罪し、爵位剥奪くらいで済ませてやるのは、今までのそなたの功績に対する、余の温情である!」

 だんだん声が大きくなり、最後は大喝する。
 そんなアレク様を見て、何か言おうとするけど言葉が出てこない様子で、侯爵様は紙のように白い顔色になり、がっくりと両手を床についた。

 「さて…どうする?
 俺が決めてやっても良いが…
 禍根を残すことになっては良くないしな」
 アレク様は、レオ兄様とバルダッサーレ様を交互に見る。

 「私は…幼いころから、父の姿を見て育ってまいりました。
 父は、度外れた途方もない野心家ですが、仕事はできたと思いますし、立ち居振る舞いも宮廷の中では際立っていました。
 私は父のような野心はないし、お恥ずかしいがその能力もない。
 こう申してはなんですが、南部育ちでいらっしゃるレオンツィオ殿が、突然宮廷の重鎮として迎え入れられても、なかなか難しいのではあるまいか」

 バルダッサーレ様は、馬鹿にするふうでもなく、淡々と事実を述べる。
 レオ兄様はぎゅっと拳を握りしめた。
 お母様とにぃ兄様が心配そうに寄り添う。

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