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第五章 宮廷
5.お邸からの出発
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翌朝早く、何となく目が覚めてしまって、起き上がって窓を開けた。
山中の要塞のような山賊討伐の館と違って、街中の邸ということもあり鎧戸はそれほど重厚ではなく、割と軽く開くものだった。
太陽は地平線から顔を出し、夏の暑い日差しをすでに感じさせる光を城下町に投げかけている。
今日も暑くなりそう…
私は、もう働き出している街の人々をしばらく眺めた。
今日のパーティに出席して帰ってきたら、エルヴィーノ様にお願いして、にぃ兄様とヴァネッサと一緒に、一度シエーラに帰ろう。
にぃ兄様は恐らくベアトリーチェ様とのご結婚をお話になりたいだろうし、私もヴァネッサを無事に領主館に送り届けて、それからお母様とお兄様に、アレク様のことをお話したい。
アレク様とはどういう展開になるのだろうか。
それは今の時点では全然判らないけれど、でも私はできれば、サン=バルロッテ館に戻って来たい。
もしかしたら今までのように、ごくたまにしか会えないのかもしれないけれど、それでもアレク様のお近くにいたい。
町の喧騒を眺めながらぼんやりしていると、扉がノックされた。
「クレメンティナ様、ご起床されていらっしゃいますか」
ドアの向こうからブリーツィオの声が聞こえる。
私は窓を閉めて振り向き「あ、はい、今から着替えます」と答えた。
「お着替えは、お手伝いの者が参りましたので、お使いください」
「失礼いたします」
と若い女性の声がしてドアが開き、女の人が三人入ってきた。
「クレメンティナ様、はじめてお目にかかります。
デメトリアと申します。
今日は一日、お供仕ります。
よろしくお願い申し上げます」
私とそう歳の変わらないと思われる、最初に入ってきた女性が言ってお辞儀した。
私は慌てて「クレメンティナです、よろしくお願いしますね」と答える。
「お支度が終わりましたら、食堂にお越しください」
部屋の外でブリーツィオは慇懃に言って、扉を閉めた。
昨日、パーティで着るドレスとは別に、登城するためだけのドレスも決められていた。
すべてに格式ばっていて、疲れるなあ…
ダリスカーナ大公国は、歴史ある古い国で教皇との結びつきも深いので、儀礼の煩雑さは仕方ない。
ルキティアのような新興国なら、そんなにうるさくはないのかもしれないけど。
三人がかりで金糸銀糸を縫い込んだ豪奢なドレスに着替えさせてもらい、お化粧されて高く盛り上げるように結った髪に綺麗な宝石のついた飾りをつけてもらった私は…まるで貴婦人のような姿になっていた。
すごい…儀式典礼用のメイクだからかな…
表情があまりはっきりしない感じが、貴族っぽい。
「本日、クレメンティナ様におかれましては、お歌をご披露なさるとのことで、あまりコルセットは締めすぎないようにとのご命令がフランシスカ様からございました。
わずかに緩めにいたしましたが…お苦しくはありませんか?」
デメトリアは鏡越しに私を見ながら、思案するように言う。
私は大きく深呼吸してみて「大丈夫そう、どうもありがとうぴったりよ」と笑った。
デメトリアや他の二人も、少し驚いたように目を瞠って、それから三人そろって「恐れ入ります」とお辞儀した。
こういう、フレンドリーな感じはダメなのかなあ…
お城に暮らす大公様や大公妃様は窮屈でいらっしゃるのではないかしら。
私は密かに同情した。
それから部屋を出てしずしずと食堂へ向かう。
ああ…髪は重いしドレスはやたらふさふさしてるし、全然早く歩けない。
もどかしい、走り出したい。
やっと食堂へ着き、扉の前に立って待っていたブリーツィオが訪いをいれ、ドアが開いてまたゆっくり進んで部屋に入った。
アドルナートと何やら話していたエルヴィーノ様が振り向く。
そして一歩、足を踏み出そうとして、そのまま止まってしまう。
「クレメンティナか?
…すごく綺麗だ」
私も盛装したエルヴィーノ様の姿に見惚れてしまって、お辞儀をするのも忘れてしまっていた。
やっぱり、生まれながらに高貴な方というのは、気品があるのだわ…
エルヴィーノ様は近づいてきて、腕を伸ばして私の頬に触れる。
「こんなに美しい、愛する人を手放さなければならないと思うと胸が張り裂けそうだ…
クレメンティナ、考え直してくれないか」
泣きだしそうな瞳で、表情は柔らかく笑おうとするエルヴィーノ様のお顔を直視できず、私は思わず顔を逸らした。
「朝食を一緒に摂りたかったのだが…
登城の順番を間違えていた貴族がいたらしくて、我々の順番が早まってしまった。
ま、向こうで少しは何か食べられるだろうから。
とりあえず出よう」
慌ただしく準備が整えられ、私とエルヴィーノ様はあっという間に馬車の車中の人となった。
隣に並んで座り、なんだかドキドキする胸を持て余す。
馬車はお城へ向かって走り出した。
山中の要塞のような山賊討伐の館と違って、街中の邸ということもあり鎧戸はそれほど重厚ではなく、割と軽く開くものだった。
太陽は地平線から顔を出し、夏の暑い日差しをすでに感じさせる光を城下町に投げかけている。
今日も暑くなりそう…
私は、もう働き出している街の人々をしばらく眺めた。
今日のパーティに出席して帰ってきたら、エルヴィーノ様にお願いして、にぃ兄様とヴァネッサと一緒に、一度シエーラに帰ろう。
にぃ兄様は恐らくベアトリーチェ様とのご結婚をお話になりたいだろうし、私もヴァネッサを無事に領主館に送り届けて、それからお母様とお兄様に、アレク様のことをお話したい。
アレク様とはどういう展開になるのだろうか。
それは今の時点では全然判らないけれど、でも私はできれば、サン=バルロッテ館に戻って来たい。
もしかしたら今までのように、ごくたまにしか会えないのかもしれないけれど、それでもアレク様のお近くにいたい。
町の喧騒を眺めながらぼんやりしていると、扉がノックされた。
「クレメンティナ様、ご起床されていらっしゃいますか」
ドアの向こうからブリーツィオの声が聞こえる。
私は窓を閉めて振り向き「あ、はい、今から着替えます」と答えた。
「お着替えは、お手伝いの者が参りましたので、お使いください」
「失礼いたします」
と若い女性の声がしてドアが開き、女の人が三人入ってきた。
「クレメンティナ様、はじめてお目にかかります。
デメトリアと申します。
今日は一日、お供仕ります。
よろしくお願い申し上げます」
私とそう歳の変わらないと思われる、最初に入ってきた女性が言ってお辞儀した。
私は慌てて「クレメンティナです、よろしくお願いしますね」と答える。
「お支度が終わりましたら、食堂にお越しください」
部屋の外でブリーツィオは慇懃に言って、扉を閉めた。
昨日、パーティで着るドレスとは別に、登城するためだけのドレスも決められていた。
すべてに格式ばっていて、疲れるなあ…
ダリスカーナ大公国は、歴史ある古い国で教皇との結びつきも深いので、儀礼の煩雑さは仕方ない。
ルキティアのような新興国なら、そんなにうるさくはないのかもしれないけど。
三人がかりで金糸銀糸を縫い込んだ豪奢なドレスに着替えさせてもらい、お化粧されて高く盛り上げるように結った髪に綺麗な宝石のついた飾りをつけてもらった私は…まるで貴婦人のような姿になっていた。
すごい…儀式典礼用のメイクだからかな…
表情があまりはっきりしない感じが、貴族っぽい。
「本日、クレメンティナ様におかれましては、お歌をご披露なさるとのことで、あまりコルセットは締めすぎないようにとのご命令がフランシスカ様からございました。
わずかに緩めにいたしましたが…お苦しくはありませんか?」
デメトリアは鏡越しに私を見ながら、思案するように言う。
私は大きく深呼吸してみて「大丈夫そう、どうもありがとうぴったりよ」と笑った。
デメトリアや他の二人も、少し驚いたように目を瞠って、それから三人そろって「恐れ入ります」とお辞儀した。
こういう、フレンドリーな感じはダメなのかなあ…
お城に暮らす大公様や大公妃様は窮屈でいらっしゃるのではないかしら。
私は密かに同情した。
それから部屋を出てしずしずと食堂へ向かう。
ああ…髪は重いしドレスはやたらふさふさしてるし、全然早く歩けない。
もどかしい、走り出したい。
やっと食堂へ着き、扉の前に立って待っていたブリーツィオが訪いをいれ、ドアが開いてまたゆっくり進んで部屋に入った。
アドルナートと何やら話していたエルヴィーノ様が振り向く。
そして一歩、足を踏み出そうとして、そのまま止まってしまう。
「クレメンティナか?
…すごく綺麗だ」
私も盛装したエルヴィーノ様の姿に見惚れてしまって、お辞儀をするのも忘れてしまっていた。
やっぱり、生まれながらに高貴な方というのは、気品があるのだわ…
エルヴィーノ様は近づいてきて、腕を伸ばして私の頬に触れる。
「こんなに美しい、愛する人を手放さなければならないと思うと胸が張り裂けそうだ…
クレメンティナ、考え直してくれないか」
泣きだしそうな瞳で、表情は柔らかく笑おうとするエルヴィーノ様のお顔を直視できず、私は思わず顔を逸らした。
「朝食を一緒に摂りたかったのだが…
登城の順番を間違えていた貴族がいたらしくて、我々の順番が早まってしまった。
ま、向こうで少しは何か食べられるだろうから。
とりあえず出よう」
慌ただしく準備が整えられ、私とエルヴィーノ様はあっという間に馬車の車中の人となった。
隣に並んで座り、なんだかドキドキする胸を持て余す。
馬車はお城へ向かって走り出した。
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