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第四章 謎解き
11.エルヴィーノ様の手紙
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お父様にそんなことが…
瞼の裏にお父様の優しい笑顔が浮かぶ。
いつだって穏やかで声を荒らげたことなど一度もなかった。
争うことがお嫌いで、兄弟喧嘩や小作人同士が言い争いをしていると、双方の言い分をお聞きになって叱るというよりは諭すように仲裁なさっていた。
きっと、双子の弟と争うことを避けて、身を引かれたに違いない。
お父様はフィアンメッタ様のことをどう思っていらしたのだろう。
お母様は…その辺の事情はご存知なのだろうか。
「第二子がどうやら双子らしいと判ったとき、アルフレード様は惑乱なさいました。
兄上が仕返しに来ると仰って、それはひどく怯えられ食事や睡眠もままならなくなってしまわれ、わたくしどもも大変心配いたしました。
そのうち、下の子だけを堕ろせと、無茶を仰るようになりました」
「フィアンメッタ様に詰め寄ってお腹を殴ろうとなさったりしたので、このままでは奥様も危ないと思い、下のお子様だけを堕胎させると嘘をついてこのお邸に避難いたしました。
ここは元々、フィアンメッタ様のお持物で、わたくしと僅かな使用人でフィアンメッタ様のお産までお世話をいたしました。
無事に健やかな双子のお子様をご出産し、奥様はエルヴィーノ様だけお連れになって本宅へお帰りになりました」
ごくりと唾を飲みこんで、アドルナートは続けた。
「ステファノ坊ちゃまはここでわたくしや乳母が2歳半過ぎまでお育てし、フィアンメッタ様が時折いらっしゃるという生活をしておりました。
ステファノ坊ちゃまは非常に聡明で頭脳も明晰でいらして、わたくしはキアッフレード様をよく思い出しました。
ただお顔立ちはお父上のアルフレード様に似ていらっしゃって、今もお若いころのアルフレード様にそっくりでございます」
「坊ちゃん方が2歳半のころ、フィアンメッタ様が病を得られ、自らの死を悟られた奥様はここにステファノ坊ちゃまを置いておいたら、いずれアルフレード様の知るところとなって、最悪の場合、ステファノ坊ちゃまのお命を奪ってしまうかもしれないと危惧なさっておられました。
そして、信頼できるところへ預けられることが決まったと安堵したように仰って、ステファノ坊ちゃまはどこかへ行かれました。
わたくしも、その預け先は存じませんでした。
まさか…キアッフレード様のところだとは…こんなことがあるなんて…」
言葉を切って苦しそうに咳き込むアドルナートに、私は立っていってお茶を淹れた。
「少し冷めてしまったけど、お飲みなさいな」
「…ありがとうございます、クレメンティナ様」
頭を下げてカップに口をつけるアドルナートを横目に見ながら、エルヴィーノ様はにぃ兄様に尋ねた。
「それで?
貴方は出自を俺にバラして何を望んでいる?
俺の命か?
ヴァラリオーティ家の家督か?
しかし俺だって次男だし、そもそも家督を継ぐ予定はない」
にぃ兄様は「滅相もない!」と大きな声で言う。
「私は…こんなこと、誰にも言う気はなかったのです。
クレメンティナを連れてシエーラに帰ること、それが至上命題でした。
ベアトリーチェ様のご厚情により身体の傷は癒えたので、レッツェの州境まで戻ってクレメンティナの消息を何としてでも探そうと思っておりました矢先に、エルヴィーノ様からお手紙をいただいて、息が止まるほど驚きました」
「クレメンティナが今、首都にいてエルヴィーノ様に保護されていて無事だということ。
クレメンティナと私がエルヴィーノ様の従兄弟だということ。
本来、ヴァラリオーティ家の家督を継いで侯爵になるはずだったのは、ご自分の父上ではなく、私とクレメンティナの父上であったのだから、それを元来の正しい形に戻したいということ」
「…それから、クレメンティナを愛していて、結婚しようと思っていること。
レオンハルト兄がヴァラリオーティを継いでくださるなら、ご自分はクレメンティナと二人、シエーラで子爵になって暮らしても良いと思っていること。
実は、このことこそが、私をしてエルヴィーノ様にすべてをお話する決心をさせたのでございます」
にぃ兄様は、決意を込めた真剣な瞳でエルヴィーノ様を見つめ、そんな兄様にベアトリーチェ様はお顔はベールに隠れて見えないけれどすこし不安そうに寄り添う。
というか、エルヴィーノ様、そんなことをにぃ兄様へ書き送っていたなんて…
どういう顔をしたら良いのか判らないわ。
私の返事はどうでも良くて、とにかく外堀を埋められていくような感じがして、私は思わず両腕を自分の手で抱いた。
瞼の裏にお父様の優しい笑顔が浮かぶ。
いつだって穏やかで声を荒らげたことなど一度もなかった。
争うことがお嫌いで、兄弟喧嘩や小作人同士が言い争いをしていると、双方の言い分をお聞きになって叱るというよりは諭すように仲裁なさっていた。
きっと、双子の弟と争うことを避けて、身を引かれたに違いない。
お父様はフィアンメッタ様のことをどう思っていらしたのだろう。
お母様は…その辺の事情はご存知なのだろうか。
「第二子がどうやら双子らしいと判ったとき、アルフレード様は惑乱なさいました。
兄上が仕返しに来ると仰って、それはひどく怯えられ食事や睡眠もままならなくなってしまわれ、わたくしどもも大変心配いたしました。
そのうち、下の子だけを堕ろせと、無茶を仰るようになりました」
「フィアンメッタ様に詰め寄ってお腹を殴ろうとなさったりしたので、このままでは奥様も危ないと思い、下のお子様だけを堕胎させると嘘をついてこのお邸に避難いたしました。
ここは元々、フィアンメッタ様のお持物で、わたくしと僅かな使用人でフィアンメッタ様のお産までお世話をいたしました。
無事に健やかな双子のお子様をご出産し、奥様はエルヴィーノ様だけお連れになって本宅へお帰りになりました」
ごくりと唾を飲みこんで、アドルナートは続けた。
「ステファノ坊ちゃまはここでわたくしや乳母が2歳半過ぎまでお育てし、フィアンメッタ様が時折いらっしゃるという生活をしておりました。
ステファノ坊ちゃまは非常に聡明で頭脳も明晰でいらして、わたくしはキアッフレード様をよく思い出しました。
ただお顔立ちはお父上のアルフレード様に似ていらっしゃって、今もお若いころのアルフレード様にそっくりでございます」
「坊ちゃん方が2歳半のころ、フィアンメッタ様が病を得られ、自らの死を悟られた奥様はここにステファノ坊ちゃまを置いておいたら、いずれアルフレード様の知るところとなって、最悪の場合、ステファノ坊ちゃまのお命を奪ってしまうかもしれないと危惧なさっておられました。
そして、信頼できるところへ預けられることが決まったと安堵したように仰って、ステファノ坊ちゃまはどこかへ行かれました。
わたくしも、その預け先は存じませんでした。
まさか…キアッフレード様のところだとは…こんなことがあるなんて…」
言葉を切って苦しそうに咳き込むアドルナートに、私は立っていってお茶を淹れた。
「少し冷めてしまったけど、お飲みなさいな」
「…ありがとうございます、クレメンティナ様」
頭を下げてカップに口をつけるアドルナートを横目に見ながら、エルヴィーノ様はにぃ兄様に尋ねた。
「それで?
貴方は出自を俺にバラして何を望んでいる?
俺の命か?
ヴァラリオーティ家の家督か?
しかし俺だって次男だし、そもそも家督を継ぐ予定はない」
にぃ兄様は「滅相もない!」と大きな声で言う。
「私は…こんなこと、誰にも言う気はなかったのです。
クレメンティナを連れてシエーラに帰ること、それが至上命題でした。
ベアトリーチェ様のご厚情により身体の傷は癒えたので、レッツェの州境まで戻ってクレメンティナの消息を何としてでも探そうと思っておりました矢先に、エルヴィーノ様からお手紙をいただいて、息が止まるほど驚きました」
「クレメンティナが今、首都にいてエルヴィーノ様に保護されていて無事だということ。
クレメンティナと私がエルヴィーノ様の従兄弟だということ。
本来、ヴァラリオーティ家の家督を継いで侯爵になるはずだったのは、ご自分の父上ではなく、私とクレメンティナの父上であったのだから、それを元来の正しい形に戻したいということ」
「…それから、クレメンティナを愛していて、結婚しようと思っていること。
レオンハルト兄がヴァラリオーティを継いでくださるなら、ご自分はクレメンティナと二人、シエーラで子爵になって暮らしても良いと思っていること。
実は、このことこそが、私をしてエルヴィーノ様にすべてをお話する決心をさせたのでございます」
にぃ兄様は、決意を込めた真剣な瞳でエルヴィーノ様を見つめ、そんな兄様にベアトリーチェ様はお顔はベールに隠れて見えないけれどすこし不安そうに寄り添う。
というか、エルヴィーノ様、そんなことをにぃ兄様へ書き送っていたなんて…
どういう顔をしたら良いのか判らないわ。
私の返事はどうでも良くて、とにかく外堀を埋められていくような感じがして、私は思わず両腕を自分の手で抱いた。
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