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第三章 都での生活

3.散歩

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 リーチェは別れた時の言葉通り、何日かに一度、顔を見せてくれた。
 「アレク様はもともとめっちゃ忙しいし、フランシスカ様も最近忙しそうだからさ~。
 クラリッサに会いに来たくても来られないから、クラリッサの様子を報せろって」
 そのたびにいっぱいお小遣いくれるから、誰得かって言ったら、あたしとくだよねえ~と笑う。 

 最初はリーチェが来るときにお菓子や、目新しい雑貨などを買ってきてくれてサン=バルロッテ館の居間で食べたり感想を語り合ったりしていた。
 リーチェが話してくれる、田舎育ちの私には想像もつかないような、賑やかで華やかな街の様子店の様子に目を輝かせて聞き入る私に、リーチェは「ねえ、クラリッサも一緒に行ってみない?気晴らしになるよ」と提案してくれた。

 「え、でも…」
 いいのかしら。
 良いともダメとも言われてはいないけれど…
 「だって、クラリッサここに来てから3週間くらいだけど、全然外に出ていないじゃないの。
 この間アレク様とフランシスカ様に、街の様子を話していたら、アレク様が『クラリッサも行ったのか?』って仰ってたし!」
 そう言うと手を伸ばして瀟洒なベルを鳴らす。 

 「ジョルジーニさん!
 これからクラリッサとちょっと街でお買い物してくるわ!」
 やってきたジョルジーニに、リーチェはウキウキと話す。
 「畏まりました」
 ジョルジーニは驚く様子もなく、至って冷静に頭を下げる。

 「いいの?」
 私の方が驚いて尋ねると、ジョルジーニはちょっと微笑んで口を開く。
 「はい、そういうお申し出がクラリッサ様からあった場合には許可すると、アレク様からずいぶん前に申しつけられております」
 あ…なんだそうだったの…
 どう理解したらいいのかな、私の今の状態とか立場とかって。

 ただし、とジョルジーニは口調を変えて私をまっすぐに見る。
 「無茶はしないこと、市井の事どもに首を突っ込まないこと。
 との仰せでございました」
 言って頬を緩めたジョルジーニに、リーチェがきゃはは、と笑い声を響かせた。

 「アレク様ってば、クラリッサのことよくわかってる~!
 あたしも実はそこが一番心配!」
 「リーチェ…」
 私は困ってリーチェを眺め、リーチェはそんな私の顔が可笑しいと言ってまた笑った。

 「楽しんでいらっしゃいませ」
 町娘のように帽子をかぶって、サン=バルロッテ館の玄関から外へ出て、連れ立って街路に足を踏み出す。
 背後ではジョルジーニが慇懃にお辞儀をして送り出してくれた。

 「あ、気をつけてクラリッサ!」
 周りの賑やかな喧騒に気を取られ、石畳の段差に躓きそうになった私を、リーチェが慌てて支えてくれる。
 「ありがと…」
 私は恥ずかしくて赤面しながら、ゆっくりと足を踏み出し、リーチェの腕から体勢を立て直す。

 ヒューっと口笛のようなものが聞こえ、顔を上げると、労働者より少しマシといっただらしない格好の若い男が二人、私たちをニヤニヤ笑いながら見ていた。
 「綺麗な姉ちゃん、歩くの手伝ってやろうか?」
 「大丈夫です」

 リーチェは素気無く言って私の腕を引いて歩き出す。
 「最近、地方から上京してきたああいう輩が増えてきたから、気をつけて本当に。
 クラリッサに何かあったら、アレク様激おこだよ。
 あたし、二度と街に出してもらえなくなっちゃう」
 「あ…ごめんなさい」

 気をつけろと言われても、何をどう気をつければいいのだろう…
 困惑しながら私が謝ると、リーチェはため息をついて私を見た。
 「その帽子」
 「え?」
 「その帽子のせいだと思うのよね、美人なのになんか軽く見られちゃうのって。
 ザナントーニさんって、腕は良いんだけど、流行にはいまいち疎いんだよね。
 よし、最初にラピーノさんのお店に行って帽子を買おう。
 大丈夫任せて、ラピーノさんのセンスはレベチだから」

 ぱちっとウィンクして、リーチェは私の腕を引き、ずんずん歩き始めた。
 私は目の前の雑貨屋さんのディスプレイがすごく素敵で、お店に入って見たかったのだけど、リーチェの剣幕に気圧され引きずられるようにして、馬車や人の行き交う賑やかな通りを歩いて行った。 
 
 
 
 
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