40 / 172
第二章 都へ
20.首都ピストリア
しおりを挟む
アレク様の言った通り、その日馬車は一日山道を駆けどおしだった。
途中で荷馬車や側近たちの馬車は車軸が折れて止まることを余儀なくされた。
アレク様や私たちの乗った馬車は、作りが段違いに良いのだろうか、一度もそんなことはなく、揺れはひどいけど意外と快適な旅路だった。
だけど、護衛の人の数がすごく増えていて、騎馬の人に取り囲まれるように進むのはなかなか気づまりだった。
シプリアノも護衛に回されたらしく、仏頂面で馬に乗っているのが窓から見えて、私たちは可哀想と思いながらも笑ってしまった。
「弟は武術はまったくダメなのよ…
アレク様やエルヴィーノ様にずいぶん稽古をつけていただいたのだけど、本人にまったくやる気がないので仕方ないわね」
フランシスカはため息交じりに言う。
「でも、シプリアノ様はめっちゃ頭がいいから。
作戦とか立てるときには、必ずアレク様の傍にいるし」
リーチェがとりなすように言って窓の外のシプリアノに手を振る。
シプリアノも武装はしていないので、馬車の中の私たちのことは見えるらしく、小さく手を挙げた。
「あの、アレク様が仰っていた、南部の小競り合いというのは…」
私は頭から離れない心配事を、思い切ってフランシスカに尋ねてみた。
フランシスカは本当に困ったように、頬に手をあてて首を傾げる。
「ごめんなさいね…わたくし、そういうことはまったく知らなくて…
アレク様はご自分で何でも決めたい方だし、わたくしに国政や国情に関わることは一切お話にならないのよ。
だから今、アレク様がクラリッサにお話になったと聞いて驚いているの」
「アレク様って、本当に秘密主義ですよね~
クラリッサもこれから驚くこといっぱいあると思うよ☆」
リーチェが隣にいる私の方を向いて、茶目っ気たっぷりにウィンクして見せる。
私は、都へ行くとしか聞かされておらず、これからどこに連れて行かれるのかもわからないし、不安になってうつむいた。
そういえば、エルヴィーノ様に『大丈夫だ、俺の隠れ家に匿うから』と仰っていた。
隠れ家ってなに?
ひどいあばら家に連れて行かれるのかな。
にぃ兄様の消息が知れるならそれでもいい、はやく家に帰りたい。
急にうつむいてしまった私に、フランシスカとリーチェは慌てたように慰めてくれる。
「大丈夫よ、アレク様は親切な方だから。
クラリッサの悪いようにはしないわ。
お兄様の行方だって手を尽くして探してくださるわよ」
「そうそう、誰かに探せって命令すれば済むことなんだから。
それに、あのお家は普段誰も来ないからゆっくり過ごせるよ。
街中だから、お店なんかもいっぱいあるし、きっと楽しいよ」
私は、昨日初めて会ったばかりなのにとても優しく気を遣ってくれる二人の気持ちが嬉しくて、泣きそうになりながらうなずいた。
「都のお店と言えば、最近流行りだしたスフォッリャテッラを売る菓子店ができたそうよ。
時間があったら買い求めて、皆で食べてみない?」
「えっ、それはマストで買いですね!
どこのお店ですか?」
「ノヴァ―ル通りの、アルバーニさんのお店の隣だったと思うわ。
焼き菓子の良い匂いが漂っていそうね」
二人が楽しそうに話すのを、私はビックリして聞いていた。
お菓子だけを売るお店…シエーラでは考えられない。
生活必需品や穀物などを売るよろず屋があるだけだ。
そもそもお店が決まった通りに常に存在するというのがすごい。
いつでも欲しいときに、欲しいものが手に入るのか…
私たちは、市が立つ日に合わせて買い物の計画をする。
しかも最低限の、本当に今、必要なものだけだ。
お菓子なんて、領主館でしか食べられなかった。
そんなカルチャーショックを受けながら、私たちの行軍に近い旅は続き、翌日の夜に首都ピストリアに入った。
私は首都で人生を変えるさまざまな事どもに出会うことになる。
途中で荷馬車や側近たちの馬車は車軸が折れて止まることを余儀なくされた。
アレク様や私たちの乗った馬車は、作りが段違いに良いのだろうか、一度もそんなことはなく、揺れはひどいけど意外と快適な旅路だった。
だけど、護衛の人の数がすごく増えていて、騎馬の人に取り囲まれるように進むのはなかなか気づまりだった。
シプリアノも護衛に回されたらしく、仏頂面で馬に乗っているのが窓から見えて、私たちは可哀想と思いながらも笑ってしまった。
「弟は武術はまったくダメなのよ…
アレク様やエルヴィーノ様にずいぶん稽古をつけていただいたのだけど、本人にまったくやる気がないので仕方ないわね」
フランシスカはため息交じりに言う。
「でも、シプリアノ様はめっちゃ頭がいいから。
作戦とか立てるときには、必ずアレク様の傍にいるし」
リーチェがとりなすように言って窓の外のシプリアノに手を振る。
シプリアノも武装はしていないので、馬車の中の私たちのことは見えるらしく、小さく手を挙げた。
「あの、アレク様が仰っていた、南部の小競り合いというのは…」
私は頭から離れない心配事を、思い切ってフランシスカに尋ねてみた。
フランシスカは本当に困ったように、頬に手をあてて首を傾げる。
「ごめんなさいね…わたくし、そういうことはまったく知らなくて…
アレク様はご自分で何でも決めたい方だし、わたくしに国政や国情に関わることは一切お話にならないのよ。
だから今、アレク様がクラリッサにお話になったと聞いて驚いているの」
「アレク様って、本当に秘密主義ですよね~
クラリッサもこれから驚くこといっぱいあると思うよ☆」
リーチェが隣にいる私の方を向いて、茶目っ気たっぷりにウィンクして見せる。
私は、都へ行くとしか聞かされておらず、これからどこに連れて行かれるのかもわからないし、不安になってうつむいた。
そういえば、エルヴィーノ様に『大丈夫だ、俺の隠れ家に匿うから』と仰っていた。
隠れ家ってなに?
ひどいあばら家に連れて行かれるのかな。
にぃ兄様の消息が知れるならそれでもいい、はやく家に帰りたい。
急にうつむいてしまった私に、フランシスカとリーチェは慌てたように慰めてくれる。
「大丈夫よ、アレク様は親切な方だから。
クラリッサの悪いようにはしないわ。
お兄様の行方だって手を尽くして探してくださるわよ」
「そうそう、誰かに探せって命令すれば済むことなんだから。
それに、あのお家は普段誰も来ないからゆっくり過ごせるよ。
街中だから、お店なんかもいっぱいあるし、きっと楽しいよ」
私は、昨日初めて会ったばかりなのにとても優しく気を遣ってくれる二人の気持ちが嬉しくて、泣きそうになりながらうなずいた。
「都のお店と言えば、最近流行りだしたスフォッリャテッラを売る菓子店ができたそうよ。
時間があったら買い求めて、皆で食べてみない?」
「えっ、それはマストで買いですね!
どこのお店ですか?」
「ノヴァ―ル通りの、アルバーニさんのお店の隣だったと思うわ。
焼き菓子の良い匂いが漂っていそうね」
二人が楽しそうに話すのを、私はビックリして聞いていた。
お菓子だけを売るお店…シエーラでは考えられない。
生活必需品や穀物などを売るよろず屋があるだけだ。
そもそもお店が決まった通りに常に存在するというのがすごい。
いつでも欲しいときに、欲しいものが手に入るのか…
私たちは、市が立つ日に合わせて買い物の計画をする。
しかも最低限の、本当に今、必要なものだけだ。
お菓子なんて、領主館でしか食べられなかった。
そんなカルチャーショックを受けながら、私たちの行軍に近い旅は続き、翌日の夜に首都ピストリアに入った。
私は首都で人生を変えるさまざまな事どもに出会うことになる。
1
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる