22 / 172
第二章 都へ
2.帰館
しおりを挟む
出陣してから1週間と1日経って、漸く討伐隊は帰館した。
その2~3日前から、邸の周辺にやたら隊員が現れては消え、を繰り返していたので私は不思議に思って、バルトロがいたときに訊いてみた。
離れの厨房に通じている扉を開けて「バルトロ!」と声をかけると、振り向いたバルトロは「クラリッサ!」と妙に慌てたように、でもなんだかすごく嬉しそうに走ってきた。
「ダメだろ、こんなとこに出てきちゃ」
私を抱えるようにして邸内に押し込む。
「もう終わったの?
帰ってきたの?」
そう尋ねる私の身体を離し、兜を外したバルトロは頭を振って長い髪を解いた。
「いや、あらかたは片付けたが、残党がもう少し残っていて、そいつらが我々の拠点であるこの邸を狙っているという情報があって。
邸の者たちの安全を心配した隊長が、隊員を派遣してこの邸の周辺を見回らせているんだ。
たまたま今は俺の番だったってわけ」
その言葉を聞いた私の表情がこわばったのを見て、バルトロは焦ったように皮の手袋を外して私を引き寄せた。
「大丈夫、大丈夫だよ。
俺たちが昼夜問わずに見回りしてるし、もう奴らにそこまでの組織力はない。
そろそろ全滅させられるから、あと2,3日で帰ってこられるよ」
私は硬くて冷たい鎖帷子に手をあてて身体を離す。
「兄は?
見つかった?」
見上げて訊くと、バルトロは口を閉じて視線を逸らした。
私の身体から力が抜け、バルトロはぱっと手を伸ばして私の身体を支えた。
「いや、でも、それらしい遺体も見つかってない。
生きてる公算の方が高い。
隊長も都に帰るまでの間は、捜索を続けるって言ってるし、あまり心配するな。
山賊の仲間になってるとかじゃなければ、会える可能性はあるよ」
「兄は、どんなに窮しても、山賊の仲間になるような人じゃないわ!」
私は思わず声を荒らげる。
私のようにここを山賊の隠れ家と思ったのかもしれない。
だからそんな重篤な怪我を負った状態で逃げ出したのだと思う。
「じゃ、大丈夫だよ」
そう言って笑い、バルトロは私を抱きしめた。
私は驚いて身をよじり、バルトロの大きな胸から逃げ出す。
なんなの…この人、さっきから。
「おい、何をやってる!」
そこへアドルナートの大きな声が聞こえて、バルトロは「やばっ」と呟き兜をかぶって外へ逃げ出そうとする。
「バルトロか!
ちょっと来い、話がある」
アドルナートは怒っているというよりは真剣な表情でバルトロの背を押してドアを開けて外へ出た。
私の方をちらっと見て扉をバタン!と閉めた。
バルトロってよく判らない。
粗野だけど意外と優しくて、笑うと可愛い感じさえある。
馴れ馴れしいのは、そういう性格なのだろうか。
年はいくつなんだろう。
年下なのかな?
姉に対するような気安さ??
私はため息をついて、また仕事に戻った。
アドルナートのあの真剣な感じは何だったのかな。
見回りさぼったからって、バルトロにお仕置きとかじゃないといいな。
そうしたことから2日後、討伐隊の皆が邸に帰ってきた。
邸の中は上を下への大騒ぎとなり、近隣の山村からまた人が集められて宴会が催された。
凱旋といって良いほどの成果をあげられたそうで、怪我を負っている人たちもいたが総じて上機嫌だった。
邸の横にある、牢屋のような頑丈な建物にはものすごくたくさんの山賊と思しき輩が入れられて、怨嗟の声が立ち上っていた。
私はにぃ兄様の消息を知る人がいないか、訊きたいと思ったのだけど、エルダさんやアドルナートから絶対に近寄るなと言われて諦めた。
討伐隊の皆が不在の間に、近隣の山村の娘たちに行儀作法を教えてやってくれと頼まれ、今日はその娘たちが給仕をしてくれるそうで、私は宴会にも参加しなくて良いと言われひとりぽつんと部屋にいた。
私はいつまでここにいるのかなあ…
バルトロは『隊長も都に帰るまでの間は、捜索を続けるって言ってるし』と言っていた。
エルヴィーノ様が都に凱旋するときに、私も放免になるのかしら。
どうやって帰ろう…
誰か、途中まででも送ってくれないか、頼んでみようか。
まあでも、歩いて帰れない距離じゃない、と思う。
宿賃だけ貸してもらえるとありがたいな。
そんなことを考えながら、部屋で一人夕食を摂り、もう寝ようかなあと思っていた深更に、アドルナートが呼びに来た。
「ご主人様がお呼びだ。
どれでもいいから、誂えていただいたドレスを着てきなさい」
その2~3日前から、邸の周辺にやたら隊員が現れては消え、を繰り返していたので私は不思議に思って、バルトロがいたときに訊いてみた。
離れの厨房に通じている扉を開けて「バルトロ!」と声をかけると、振り向いたバルトロは「クラリッサ!」と妙に慌てたように、でもなんだかすごく嬉しそうに走ってきた。
「ダメだろ、こんなとこに出てきちゃ」
私を抱えるようにして邸内に押し込む。
「もう終わったの?
帰ってきたの?」
そう尋ねる私の身体を離し、兜を外したバルトロは頭を振って長い髪を解いた。
「いや、あらかたは片付けたが、残党がもう少し残っていて、そいつらが我々の拠点であるこの邸を狙っているという情報があって。
邸の者たちの安全を心配した隊長が、隊員を派遣してこの邸の周辺を見回らせているんだ。
たまたま今は俺の番だったってわけ」
その言葉を聞いた私の表情がこわばったのを見て、バルトロは焦ったように皮の手袋を外して私を引き寄せた。
「大丈夫、大丈夫だよ。
俺たちが昼夜問わずに見回りしてるし、もう奴らにそこまでの組織力はない。
そろそろ全滅させられるから、あと2,3日で帰ってこられるよ」
私は硬くて冷たい鎖帷子に手をあてて身体を離す。
「兄は?
見つかった?」
見上げて訊くと、バルトロは口を閉じて視線を逸らした。
私の身体から力が抜け、バルトロはぱっと手を伸ばして私の身体を支えた。
「いや、でも、それらしい遺体も見つかってない。
生きてる公算の方が高い。
隊長も都に帰るまでの間は、捜索を続けるって言ってるし、あまり心配するな。
山賊の仲間になってるとかじゃなければ、会える可能性はあるよ」
「兄は、どんなに窮しても、山賊の仲間になるような人じゃないわ!」
私は思わず声を荒らげる。
私のようにここを山賊の隠れ家と思ったのかもしれない。
だからそんな重篤な怪我を負った状態で逃げ出したのだと思う。
「じゃ、大丈夫だよ」
そう言って笑い、バルトロは私を抱きしめた。
私は驚いて身をよじり、バルトロの大きな胸から逃げ出す。
なんなの…この人、さっきから。
「おい、何をやってる!」
そこへアドルナートの大きな声が聞こえて、バルトロは「やばっ」と呟き兜をかぶって外へ逃げ出そうとする。
「バルトロか!
ちょっと来い、話がある」
アドルナートは怒っているというよりは真剣な表情でバルトロの背を押してドアを開けて外へ出た。
私の方をちらっと見て扉をバタン!と閉めた。
バルトロってよく判らない。
粗野だけど意外と優しくて、笑うと可愛い感じさえある。
馴れ馴れしいのは、そういう性格なのだろうか。
年はいくつなんだろう。
年下なのかな?
姉に対するような気安さ??
私はため息をついて、また仕事に戻った。
アドルナートのあの真剣な感じは何だったのかな。
見回りさぼったからって、バルトロにお仕置きとかじゃないといいな。
そうしたことから2日後、討伐隊の皆が邸に帰ってきた。
邸の中は上を下への大騒ぎとなり、近隣の山村からまた人が集められて宴会が催された。
凱旋といって良いほどの成果をあげられたそうで、怪我を負っている人たちもいたが総じて上機嫌だった。
邸の横にある、牢屋のような頑丈な建物にはものすごくたくさんの山賊と思しき輩が入れられて、怨嗟の声が立ち上っていた。
私はにぃ兄様の消息を知る人がいないか、訊きたいと思ったのだけど、エルダさんやアドルナートから絶対に近寄るなと言われて諦めた。
討伐隊の皆が不在の間に、近隣の山村の娘たちに行儀作法を教えてやってくれと頼まれ、今日はその娘たちが給仕をしてくれるそうで、私は宴会にも参加しなくて良いと言われひとりぽつんと部屋にいた。
私はいつまでここにいるのかなあ…
バルトロは『隊長も都に帰るまでの間は、捜索を続けるって言ってるし』と言っていた。
エルヴィーノ様が都に凱旋するときに、私も放免になるのかしら。
どうやって帰ろう…
誰か、途中まででも送ってくれないか、頼んでみようか。
まあでも、歩いて帰れない距離じゃない、と思う。
宿賃だけ貸してもらえるとありがたいな。
そんなことを考えながら、部屋で一人夕食を摂り、もう寝ようかなあと思っていた深更に、アドルナートが呼びに来た。
「ご主人様がお呼びだ。
どれでもいいから、誂えていただいたドレスを着てきなさい」
1
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
私はあなたの魔剣デス ~いや、剣じゃないよね、どう見ても違うよね?~
志位斗 茂家波
ファンタジー
この世界で誰も彼もが手に持ち、そして振るう事が出来る魔剣。
火を放ち、水を吹き出し、雷撃を放つ様々な力を持ち、生涯ずっと共にあり続ける。
「なので私も魔剣であり、すべての敵を排除するためにご主人様その力を奉げるのデス!!」
「ちょっと待って、剣じゃないよね?見た目どう見てもメイドなんだけど?」
「‥‥‥そう、忠剣というやつなのデス!!」
「それは忠犬って普通言うよね!?そもそも犬でもないだろ!!」
‥‥‥あり続けるはずなんだけど、なんで彼女が俺の魔剣なのだろうか。
これは、ある意味不幸でありつつも最強の魔剣(?)を手に入れた者の物語である‥‥‥
―――――
「小説家になろう」でも掲載。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
男装獣師と妖獣ノエル 2~このたび第三騎士団の専属獣師になりました~
百門一新
恋愛
男装の獣師ラビィは『黒大狼のノエル』と暮らしている。彼は、普通の人間には見えない『妖獣』というモノだった。動物と話せる能力を持っている彼女は、幼馴染で副隊長セドリックの兄、総隊長のせいで第三騎士団の専属獣師になることに…!?
「ノエルが他の人にも見えるようになる……?」
総隊長の話を聞いて行動を開始したところ、新たな妖獣との出会いも!
そろそろ我慢もぷっつんしそうな幼馴染の副隊長と、じゃじゃ馬でやんちゃすぎるチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる