上 下
25 / 25

25:沢山の家族がいる幸せ

しおりを挟む
 ガイナは気合を入れて、丁寧に顎髭を整えた。ずっと短く刈り上げていた髪も、この日のために少し伸ばし、整髪剤を使ってきっちり撫でつけた。領軍の礼装を着たら、準備完了である。

 同じ控室で着替えているフィガロが、ネクタイを片手に近寄ってきた。


「父さん。ネクタイやって」

「おう。ちょっと後ろ向け」

「ん」

「ガイナ。僕のネクタイもお願い」

「おう。順番な」


 白い礼装を着ているラウトも、ネクタイを持って、すぐ側に来た。ガイナは手早くフィガロのネクタイを結んでやると、今度はラウトのネクタイをキレイに結んだ。

 今日は、ガイナ達とフィガロ達の合同結婚式の日だ。
 フィガロは、アンジェリーナと本当に成人と同時に結婚した。今では、可愛い息子が1人いる。『結婚式は合同がいい!!』と若い2人が言い張るので、40も後半に差し掛かるのに、ガイナ達も結婚式をやることになった。

 フィガロは、中学校を卒業した後は、アンジェリーナの家の喫茶店で働いている。喫茶店のマスターとしての修行をしつつ、今はアンジェリーナと子育てに奮闘している。ガイナも仕事が休みの日には、孫の相手をしに頻繁にアンジェリーナの家に顔を出している。

 ニーズは、中学校卒業後は、中央の街の高等学校に進学した。将来は領軍で働きたいらしい。ニーズは小学校に上がった頃から、本格的に剣をやり始めた。今では、すっかり逞しくなりつつある。

 控室で、礼服姿のニーズのネクタイも結んでやると、バスクがニコニコ笑いながら、ガイナとラウトに近寄ってきた。


「やぁ。2人とも、よく似合うね。うんうん。いいよいいよ。ラウトは髪を切って正解だったね」

「うん。なんとか見れる感じになってる……よね?」

「大丈夫だ。格好いい」

「格好よくはないけど……」


 ラウトは、この日のために、逆にバッサリ髪を切った。短く刈り上げていると、ボサボサの癖っ毛もスッキリして見える。瓶底眼鏡は変わらないが、いつもとは違う雰囲気で、これはこれでありである。
 合同結婚式をすると言われた時は、流石にいい歳して恥ずかしいと思ったが、格段に格好いい礼装姿のラウトが見られただけで、もう既に満足である。

 ガイナとラウトは、一週間前に入籍した。ガイナがラウトの家名を名乗ることにした。ラウトは、本名で小説を書いているので、家名を変えると何かと面倒だからだ。勿論、エロ小説の方は別名義なのだが。別名義ではあるが、出版社との契約自体は本名でやっているので、どちらにせよ、家名を変えると面倒くさい。ガイナは、特に拘りもなかったし、ガイナが家名を変えることにした。

 男達が全員、準備が整ったタイミングで、バーンッと控室のドアが開いた。何事かと思えば、華やかな白い花嫁衣装を着たアンジェリーナだった。アンジェリーナは、礼装姿のフィガロを見ると、目をキラキラと輝かせた。


「やだー! やっぱりその礼装にして正解だったわ!! すっごい似合ってる!!」

「アンジー。フィオルは?」

「パパ達が見てくれてるわ。うーふーふー。4年も待って正解だったわ! ガイナお父さん達もすっごい素敵ー!!」

「ははっ! ありがとな。アンジー。アンジーも飛び切りキレイだ」

「まぁね! この日のために頑張ったもの! お肌のお手入れとかね!」


 弾けるような笑顔のアンジェリーナは、本当に美しい。一児の母とは思えないくらいだ。

 時間がきたので、ガイナはラウトと腕を組んで、控室から出た。フィガロと腕を組んでいるアンジェリーナ達と一緒に、神殿の祈りの間に向かう。神殿の祈りの間には、沢山の参列者がいた。
 ガイナは、ラウトの耳元で囁いた。


「おっさん2人の見世物パーティーの始まりだ」

「ふはっ! 楽しくて最高じゃない」

「ははっ! まぁな!」


 ガイナはラウトと顔を見合わせて笑いながら、神官がいる所へ歩いていき、神官の長い祝福の言葉を聞いた後で、ラウトの唇に触れるだけのキスをした。
 正式に家族になったアンジェリーナとフィガロにもハグをして、頬にキスをする。孫のフィオルがよちよち歩いてきたので、ガイナはフィオルも抱き上げて、フィオルの頬にキスをした。

 沢山の拍手が祈りの間に響き渡った。ガイナは照れくさいのを誤魔化すように笑いながら、ラウトのほっそりとした腰を抱いて、ラウトの頬にまたキスをした。





ーーーーーー
 結婚式をした2年後。アンジェリーナが2人目の子供を生んだ。今度は女の子だ。上の子もまだ手がかかる年頃なので、ガイナとラウトは、暇さえあれば手伝いに行っている。中央の街の高等学校に通っているニーズは、年に二回だけ帰ってくる。ニーズはニーズで、最近恋人ができたらしい。それも男の。つい一週間前に届いた手紙には、『結婚も考えてるから、次の冬休みに連れて帰る』と書いてあった。喜ばしいのだが、子供達の成長が早過ぎて、ちょっと寂しい。が、家族が増えるだけだと思えば、嬉しいばかりである。

 バスクもシュルツ達も歳をとったが、まだ元気でいてくれるし、今が一番賑やかな頃なのかもしれない。

 ガイナは、ラウトと結婚してから、毎日日記を書くようになった。仕事での書類仕事も嫌いだったのだが、日々の大切な小さな幸せを忘れたくなくて、記録をつけるようになった。たまに、ラウトと一緒に読み返して、思い出話に花を咲かせたりしている。

 結婚と同時に、借りていた一軒家から、ラウトの家へと引っ越した。フィガロは、アンジェリーナと子供達と、喫茶店のすぐ近くの集合住宅の一室を借りて暮らしている。昼間は、喫茶店の二階で、アンジェリーナが子供達をみている。

 ガイナは、バスクが淹れてくれた美味しい珈琲を飲みながら、ラウトとバスクと3人でまったりしていた。
 今日は休日なので、朝食後の珈琲を楽しんだら、アンジェリーナの手伝いに行く予定である。孫達は可愛くて堪らないし、生活に張り合いがあって、いい感じの日々を送れている。

 珈琲を飲みながら、バスクがのほほんと笑った。


「今日は僕も一緒に行こうかなぁ。曾孫ちゃん達に会いたいからね」

「おー。喜ぶぜ」

「だねぇ。ミリアはもう少しで掴まり立ちしそうかなぁ」

「ふふっ。子供の成長は早いねぇ」

「なー。フィガロが生まれたのなんて、つい最近な気がするのに、もう二児のパパだぜ。立派に育ってくれたもんだ」

「格好いい父親の背中を見て育ったからじゃないかな」

「ラウト。よせやい。照れるじゃねぇか」

「ふふっ。ラウトもいい伴侶ができたし、僕は幸せ者だなぁ」

「しみじみとどうしたの? 父さん」

「いやぁ。なんだかね、いいなぁと思ってね。こうやって、家族で一緒にいられるって、幸せなことだよねぇ」

「それは確かになぁ。ふはっ! 俺はサンガレア一の果報者な自信があるぜ」

「ふふっ。それは僕もかなぁ」

「うんうん。いいことだね。さて。そろそろ出かける準備をしようか。可愛い曾孫ちゃん達が待ってるからね」

「おう。今日は何が起こるかね」

「ははっ。毎日、何かしら起きてるからね。楽しみだね。ガイナ」

「おう! 一緒にチビッ子達に振り回されようぜ! ラウト」

「ふふふっ。本当にいくつになっても仲良しでいいことだね」

「まぁな」

「お陰様でね」


 ガイナは手早くカップ等を洗って片付けると、孫達の世話に必要なものを準備してくれていたラウトと手を繋いで、杖をついたバスクと一緒に家を出た。

 ガイナには、沢山の家族がいる。これからも、きっと増えていく。別れも当然あるのだろうが、だからこそ、一日一日を大切にしていきたい。
 ガイナは、寄り添うラウトの手の温もりに頬をゆるめて、バスクの歩みに合わせて、のんびりと歩いた。


(おしまい)

しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

志野まつこ
2021.08.15 志野まつこ

「マッチョ軍人」も「作家」も性癖でムーンさんからストーキングしてきました!
もう9・10話あたりキュンキュンしまくりです。
今後の更新も楽しみにしております。

丸井まー(旧:まー)
2021.08.16 丸井まー(旧:まー)

全力でありがとうございます!!
本当に嬉しいです!
おっさん達がもだもだしつつも甘酸っぱい関係になっていくものを書いてみたくて挑戦中です。
応援をありがとうございます!! 
ストックが中々溜められないのでのんびり不定期な更新になりますが、最後までに全力で楽しんで走り切ろうと思います。
お付き合いくださりますと、幸いです。

解除
花雨
2021.08.13 花雨

作品登録しときますね(^^)

丸井まー(旧:まー)
2021.08.14 丸井まー(旧:まー)

心の底からありがとうございますっ!!

解除

あなたにおすすめの小説

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

養父の命令で嫌われ生徒会親衛隊長になって全校生徒から嫌われることがタスクになりました

いちみやりょう
BL
「お前の母親は重病だ。だが……お前が私の言うことを聞き、私の後を継ぐ努力をすると言うならお前の母を助けてやろう」 「何をすればいい」 「なに、簡単だ。その素行の悪さを隠し私の経営する学園に通い学校1の嫌われ者になってこい」 「嫌われ者? それがなんであんたの後を継ぐのに必要なんだよ」 「お前は力の弱いものの立場に立って物事を考えられていない。それを身を持って学んでこい」 「会長様〜素敵ですぅ〜」 「キメェ、近寄るな。ゴミ虫」 きめぇのはオメェだ。と殴りたくなる右手をなんとか抑えてぶりっこ笑顔を作った。 入学式も終わり俺はいつもの日課と化した生徒会訪問中だ。 顔が激しく整っている会長とやらは養父の言った通り親衛隊隊長である俺を嫌っている。 ちなみに生徒会役員全員も全員もれなく俺のことを嫌っていて、ゴミ虫と言うのは俺のあだ名だ。

本日のディナーは勇者さんです。

木樫
BL
〈12/8 完結〉 純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。  【あらすじ】  異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。  死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。 「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」 「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」 「か、噛むのか!?」 ※ただいまレイアウト修正中!  途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。