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8:楽しい準備
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フィガロは、ポロポロと涙を零していた。ずずっと鼻をすすりあげると、安全圏に避難していたガイナがクックッと楽しそうに笑った。
「めちゃくちゃ目に染みる」
「玉ねぎだからな」
「何でこんなに染みるの」
「玉ねぎだからだなぁ」
「答えになってない」
「ははっ」
フィガロは、玉ねぎを微塵切りにしている最中である。涙で視界がじんわりと滲み、まだ刻み始めたばかりだが、あまりにも目に染みるので早くも心が折れそうだ。ガイナがすっとフィガロのすぐ隣に立ったので、フィガロは包丁をまな板の上に置いた。
「交代して」
「おう。手と目を洗ってこいよ。ちったぁマシになる」
「うん」
フィガロは流しでざっと水で手を洗い、風呂場の脱衣場にある洗面台に移動して石鹸で手を洗った。ボタボタと涙が零れてくる目を水で流し洗いすると、漸く涙が止まった。ガイナと色違いのお揃いで買ったヒヨコ柄のエプロンの裾で顔と手を拭い、台所へと戻る。
今日の昼食はハンバーグである。
今日は休日だ。ガイナも仕事が休みだから、ラウト達一家と一緒に食事をする。以前、カレーパーティーをしたのが楽しかったので、ガイナもフィガロも休みの日には、ラウト達とどちらかの家で一緒に食事をするようになった。前回はラウト達の家だったので、今度はフィガロ達の家で食べる。ニーズがハンバーグが好きらしいので、朝からガイナと2人でハンバーグ作りを始めた。今日はアンジェリーナも祖父のシュルツと一緒にやって来る。アンジェリーナは休日はいつも喫茶店の手伝いをしているが、たまには遊びたいということでやって来るそうだ。
フィガロが台所に戻ると、玉ねぎを刻み終えたガイナが玉ねぎを炒め始めていた。
下手くそな鼻歌を上機嫌に歌いながら、ガイナが楽しそうにフライパンの中の玉ねぎを木べらで掻き回した。
「フィガロ。サラダ用のトマトを洗ってくれ。あ、確かチーズがあったな。バジルもあるからカプレーゼにするか」
「レタスは?」
「レタスは皆が来る少し前でいい。あんま早く洗っちまうと、食べる時にへにゃってなるからな」
「分かった」
「よし。玉ねぎはこんなもんだろ。冷ましてる間にポタージュスープを作るか。南瓜取ってくれ。あと玉ねぎとニンジンも」
「うん」
「南瓜は固いから俺が切る。フィガロは玉ねぎとニンジンを頼む」
「……また出たな。玉ねぎ」
「玉ねぎ好きだろ?」
「食べるのはね。切るのは好きじゃない。目に染みる。何で父さんは平気なんだよ」
「ははっ。まぁ、そのうち慣れる」
ガイナが楽しそうに笑いながら、炒めた玉ねぎの微塵切りをフライパンから大皿に移した。フィガロは、再びものすごく目に染みる玉ねぎという名の強敵と戦い、今度はなんとか勝利した。ニンジンも細かい賽の目に切って、ガイナと交代する。ガイナが南瓜を小さめに切り、鍋に切った野菜を全部入れて軽く炒め、少なめの水と固形のコンソメスープの素、ローリエを1枚入れて煮始める。野菜が全て煮えたらローリエを取り出し、魔導ミキサーに鍋の中のスープごと野菜を入れ、スイッチを入れてがーっと液状にしていく。どろどろの状態になった南瓜達を再び鍋に戻し、牛乳を入れて少し煮て、塩コショウで味を整えたら南瓜のポタージュスープの完成である。
カプレーゼ用のトマトとバジルを洗い、トマトを適当な厚さに切ってから、トマト、チーズ、バジルの順番で白い大きな皿に並べ、たらーっとオリーブ油をかける。カプレーゼも完成した。
デザートは、昨夜にガイナがプリンを作っていたので、残るはメインのハンバーグのみである。
フィガロは、金属製のボウルに入れた挽き肉と向き合った。挽き肉に冷ました玉ねぎ、卵、パン粉、牛乳、塩、胡椒、ナツメグ、バターを入れ、むにゅっむにゅっと挽き肉をかき混ぜていく。にゅるにゅると手に纏わりつく肉の感触が地味に楽しい。肉が白っぽくなるまで根気よく混ぜたら、小判型に成形していく。
ガイナと2人でぺったんぺったんと丸めたハンバーグの空気抜きをして、中央を少し窪ませたら、後は焼くだけである。
フィガロとガイナは肉の脂まみれの手を洗ってから、フライパンに油を敷いて熱し始めた。
ガイナがハンバーグを焼いてくれるので、その間にソースの準備をする。使うものはウスターソースとケチャップ、牛乳である。フィガロは分量通りに大さじを使って計った。じゅうじゅうと肉が焼ける音がして、既に美味しそうな匂いがしている。ハンバーグの両面に焼き色がついたら、ガイナが赤ワインを適当にフライパンに入れ、フライパンに蓋をした。ハンバーグを蒸し焼きしている間にレタスを洗い、予め作っておいたゆで卵の殻を剥いて、半分に切る。
ハンバーグが焼き上がったら、ハンバーグをフライパンから取り出し、残っている赤ワインと肉汁にフィガロが計量したソース類を入れて、ハンバーグのソースを作る。いい感じにソースが煮詰まったら、ハンバーグも完成である。
フィガロはガイナと一緒に精一杯お洒落っぽく盛り付けをし、いそいそと居間のテーブルに料理を盛り付けた皿を運んだ。
いつもはガイナと2人で静かな家が、ニーズやアンジェリーナ達が来ると途端に賑やかになる。フィガロは静かな方が好きだが、最近は2人と過ごすのがちょっと楽しくなってきた。……ちょっとだけだけど。
バーバラの街に来てから、ガイナがよく笑うようになった。中央の街にいた時も笑っていたけれど、ラウト達と仲良くなってから、本当に楽しそうな時が多い。ガイナが楽しそうに笑っていると、フィガロは嬉しい。大勢で賑やか時は、ガイナは本当に楽しそうだから、フィガロもなんだか楽しくなる。
玄関の呼び鈴が鳴ったので、エプロンを外したガイナと一緒に玄関へと移動した。
玄関のドアを開けると、ラウト達が立っていた。フィガロの名前を呼ぶ声が聞こえたので、玄関のドアから外を覗くと、アンジェリーナ達もこちらへ向かって歩いてきていた。
楽しい時間の始まりである。
フィガロはご機嫌な笑みを浮かべているガイナを見上げて、小さく笑った。
夏の風がやんわりとフィガロの頬を撫でた。
「めちゃくちゃ目に染みる」
「玉ねぎだからな」
「何でこんなに染みるの」
「玉ねぎだからだなぁ」
「答えになってない」
「ははっ」
フィガロは、玉ねぎを微塵切りにしている最中である。涙で視界がじんわりと滲み、まだ刻み始めたばかりだが、あまりにも目に染みるので早くも心が折れそうだ。ガイナがすっとフィガロのすぐ隣に立ったので、フィガロは包丁をまな板の上に置いた。
「交代して」
「おう。手と目を洗ってこいよ。ちったぁマシになる」
「うん」
フィガロは流しでざっと水で手を洗い、風呂場の脱衣場にある洗面台に移動して石鹸で手を洗った。ボタボタと涙が零れてくる目を水で流し洗いすると、漸く涙が止まった。ガイナと色違いのお揃いで買ったヒヨコ柄のエプロンの裾で顔と手を拭い、台所へと戻る。
今日の昼食はハンバーグである。
今日は休日だ。ガイナも仕事が休みだから、ラウト達一家と一緒に食事をする。以前、カレーパーティーをしたのが楽しかったので、ガイナもフィガロも休みの日には、ラウト達とどちらかの家で一緒に食事をするようになった。前回はラウト達の家だったので、今度はフィガロ達の家で食べる。ニーズがハンバーグが好きらしいので、朝からガイナと2人でハンバーグ作りを始めた。今日はアンジェリーナも祖父のシュルツと一緒にやって来る。アンジェリーナは休日はいつも喫茶店の手伝いをしているが、たまには遊びたいということでやって来るそうだ。
フィガロが台所に戻ると、玉ねぎを刻み終えたガイナが玉ねぎを炒め始めていた。
下手くそな鼻歌を上機嫌に歌いながら、ガイナが楽しそうにフライパンの中の玉ねぎを木べらで掻き回した。
「フィガロ。サラダ用のトマトを洗ってくれ。あ、確かチーズがあったな。バジルもあるからカプレーゼにするか」
「レタスは?」
「レタスは皆が来る少し前でいい。あんま早く洗っちまうと、食べる時にへにゃってなるからな」
「分かった」
「よし。玉ねぎはこんなもんだろ。冷ましてる間にポタージュスープを作るか。南瓜取ってくれ。あと玉ねぎとニンジンも」
「うん」
「南瓜は固いから俺が切る。フィガロは玉ねぎとニンジンを頼む」
「……また出たな。玉ねぎ」
「玉ねぎ好きだろ?」
「食べるのはね。切るのは好きじゃない。目に染みる。何で父さんは平気なんだよ」
「ははっ。まぁ、そのうち慣れる」
ガイナが楽しそうに笑いながら、炒めた玉ねぎの微塵切りをフライパンから大皿に移した。フィガロは、再びものすごく目に染みる玉ねぎという名の強敵と戦い、今度はなんとか勝利した。ニンジンも細かい賽の目に切って、ガイナと交代する。ガイナが南瓜を小さめに切り、鍋に切った野菜を全部入れて軽く炒め、少なめの水と固形のコンソメスープの素、ローリエを1枚入れて煮始める。野菜が全て煮えたらローリエを取り出し、魔導ミキサーに鍋の中のスープごと野菜を入れ、スイッチを入れてがーっと液状にしていく。どろどろの状態になった南瓜達を再び鍋に戻し、牛乳を入れて少し煮て、塩コショウで味を整えたら南瓜のポタージュスープの完成である。
カプレーゼ用のトマトとバジルを洗い、トマトを適当な厚さに切ってから、トマト、チーズ、バジルの順番で白い大きな皿に並べ、たらーっとオリーブ油をかける。カプレーゼも完成した。
デザートは、昨夜にガイナがプリンを作っていたので、残るはメインのハンバーグのみである。
フィガロは、金属製のボウルに入れた挽き肉と向き合った。挽き肉に冷ました玉ねぎ、卵、パン粉、牛乳、塩、胡椒、ナツメグ、バターを入れ、むにゅっむにゅっと挽き肉をかき混ぜていく。にゅるにゅると手に纏わりつく肉の感触が地味に楽しい。肉が白っぽくなるまで根気よく混ぜたら、小判型に成形していく。
ガイナと2人でぺったんぺったんと丸めたハンバーグの空気抜きをして、中央を少し窪ませたら、後は焼くだけである。
フィガロとガイナは肉の脂まみれの手を洗ってから、フライパンに油を敷いて熱し始めた。
ガイナがハンバーグを焼いてくれるので、その間にソースの準備をする。使うものはウスターソースとケチャップ、牛乳である。フィガロは分量通りに大さじを使って計った。じゅうじゅうと肉が焼ける音がして、既に美味しそうな匂いがしている。ハンバーグの両面に焼き色がついたら、ガイナが赤ワインを適当にフライパンに入れ、フライパンに蓋をした。ハンバーグを蒸し焼きしている間にレタスを洗い、予め作っておいたゆで卵の殻を剥いて、半分に切る。
ハンバーグが焼き上がったら、ハンバーグをフライパンから取り出し、残っている赤ワインと肉汁にフィガロが計量したソース類を入れて、ハンバーグのソースを作る。いい感じにソースが煮詰まったら、ハンバーグも完成である。
フィガロはガイナと一緒に精一杯お洒落っぽく盛り付けをし、いそいそと居間のテーブルに料理を盛り付けた皿を運んだ。
いつもはガイナと2人で静かな家が、ニーズやアンジェリーナ達が来ると途端に賑やかになる。フィガロは静かな方が好きだが、最近は2人と過ごすのがちょっと楽しくなってきた。……ちょっとだけだけど。
バーバラの街に来てから、ガイナがよく笑うようになった。中央の街にいた時も笑っていたけれど、ラウト達と仲良くなってから、本当に楽しそうな時が多い。ガイナが楽しそうに笑っていると、フィガロは嬉しい。大勢で賑やか時は、ガイナは本当に楽しそうだから、フィガロもなんだか楽しくなる。
玄関の呼び鈴が鳴ったので、エプロンを外したガイナと一緒に玄関へと移動した。
玄関のドアを開けると、ラウト達が立っていた。フィガロの名前を呼ぶ声が聞こえたので、玄関のドアから外を覗くと、アンジェリーナ達もこちらへ向かって歩いてきていた。
楽しい時間の始まりである。
フィガロはご機嫌な笑みを浮かべているガイナを見上げて、小さく笑った。
夏の風がやんわりとフィガロの頬を撫でた。
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