大きな薬師

丸井まー(旧:まー)

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それから2人で話をして、両親への報告と結婚の了承は冬季休みに実家に戻った時にすることになった。
元々ルート先輩も薬事研究所に度々勧誘されてたので、2人とも其処で働こうという話になった。


「職場にはどうします?」

「結婚の了承を得てからでいいんじゃないか?」

「そうですね。マーシャル達には言っといた方がいいですね」

「だなぁ」

「あとジル中隊長にも報告していいですか?何度も相談にのってもらったので」

「そうなのか?別に構わないぞ」

「次会ったときにでも話しときます」

「あぁ」

「うーん」

「どうした?」

「実感が湧きません」

「俺もだ」

「あ、結婚式どうしましょう」

「サンガレアでやったらいいんじゃないか?俺の招待客って職場の人しかいないし。」

「あー、その方がいいですかね。薬師局の人達はうちの領地に招待しちゃいましょう」

「うん」

「今決めといた方がいいのってこんなもんですかね。お茶でも飲みますか?」

「うん。あ、林檎あっただろ?焼くか」

「いいですねぇ。パッと作っちゃいましょう」

「俺もやる」


2人で林檎の皮剥きをする。
3つほど剥いたら、櫛形に切ってバターをしいたフライパンで炒める。途中で砂糖とシナモンをたっぷり振りかけ、飴色になるまで火を通したら完成である。
紅茶を入れて、優雅なお茶の時間の準備完了である。

この日、ミーシャは日課の稽古をすることなく、2人で1日のんびりと過ごした。

その夜。
当直明けで帰って来たマーシャル達に結婚のことを告げると、驚きながらも祝福してくれた。
マーシャルは姉を頼むとルート先輩に頭を下げた。
ミーシャはなんだか気恥ずかしくなってマーシャルの頭を撫でまわした。
 






ーーーーーー

それから次の休みの日。
ミーシャは西の軍詰め所に出向いた。
ジル中隊長はちょうど訓練場で新兵達をしごいていたので、ミーシャもそれに加わり、午前中いっぱい体を動かした。
食堂で一緒に昼食をとった後、屋外の喫煙所へと2人で移動した。


「ジル中隊長。私結婚することになりそうです」

「ルート殿か?」

「はい」

「良かったじゃねぇか。俺、正直無理だと思ってたわ」

「はい。私もそう思ってました。だからいまいち実感が湧かないです」

「ご両親は?」

「まだ言ってません。冬季休みに戻ったときに了承をもらいにいく予定です」

「そうか。何にせよ良かったな。おめでとう」

「ありがとうございます」


ミーシャははにかんで笑った。
ジル中隊長はニッと笑って、ミーシャの頭を撫でた。








ーーーーーー

ある夜。
ミーシャは自室のクローゼットの前で仁王立ちしていた。
しばし悩んだ後、意を決して行動を開始した。


ミーシャはルート先輩の部屋のドアをノックした。
部屋のドアはすぐに開けられた。


「ミーシャか。どうした?」

「夜這いに来ました」

「そうか。帰れー」


ルート先輩はドアを閉めようとした。
ミーシャは慌ててドアを掴んだ。


「待ってください。とりあえず入れてください!」

「夜這いに来た奴を簡単に入れるか、阿呆」

「まぁ、そう言わずに」

「婚前交渉はしないぞ」

「夜這いというのは冗談で、ちょっと実験がしたいだけです!」

「……本当か?」

「はいっ!」


ルート先輩は胡散臭そうなものを見る目でミーシャを見た。
ミーシャはにっこり笑った。
 

「まぁ、いい。入れ」

「ありがとうございます!」


ルート先輩はドアを開けてミーシャを部屋に入れてくれた。
ミーシャの目論見第一段階クリアである。


「で?実験ってなんだ?」

「先輩、男専門じゃないですか」

「そうだが」

「私相手でも反応するか、試してみたくて」

「やっぱ帰れ」

「まぁまぁ、そう言わずに。とりあえず座って話をしましょう」


ミーシャはルート先輩を促して、ちゃっかり一緒に並んで座った。


「とりあえず脱いでいいですか?」

「とりあえずで脱ぐな」

「冗談です」

「お前なぁ……」


ルート先輩が呆れた顔をした。


「先輩。ぶっちゃけ私としては夜の夫婦生活なくても側にいられたら満足なんですよ」

「うん」

「でも、できるならできるに越したことないじゃないですか。私、子供は欲しいですし」

「まぁな」

「でも初夜でいきなりぶっつけ本番ってのもお互い緊張するし、色々大変そうじゃないですか」

「まぁ……確かに」

「なので、私にルート先輩が反応するかだけでも確認しといた方が後々無難かな、と思いまして。別に反応しなくてもそれはそれで初夜で変に気負う必要がなくなるわけですし。そうなっても私は別に構わないので」

「まぁ……一理あるな」

「でしょ?というわけで脱ぎます」

「いや待て脱ぐな」

「えーー」

「お前の裸に限らず、俺薬師だぞ?患者で見慣れて、人の裸見ただけで欲情できないぞ?」

「!?……それは盲点でした。ていうか、私もそうですね」

「だよな」

「どうしましょう?ていうか、先輩。今性欲ってあるんですか?男の朝の生理現象とか」

「暫くなかったが、ここ一年ほどで回復したな。といっても惰性で禁欲生活つづけているが」

「へぇー」


ミーシャは困った。今情けない顔をしている自覚がある。
勢いできたはいいが、正直何したらいいか分からなくなってきた。
ルート先輩もちょっと気まずそうな困り顔である。


「スキンシップでもしてみますか?裸で」

「具体的には?」

「ハグとかキスとか?」

「んーーーー。……まぁ、そのくらいならいいか」


ルート先輩はしばし悩むように俯いた後、顔を上げてそう言った。


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